契約者研究
『報告 契約者の対価に関する法則』 サマンサ・キャロウ
契約の発動は幼少期に集中する。その発動条件は長らく謎に包まれていたが、近年統計学の発達により真相の一部が明らかにされつつあることはご承知の通りであろう。殊に対価に関する諸統計は、ここ数か月で着目すべき結果を数多く導き出している。今回の調査では契約者214名への聞き取りと、既に死亡が確認されている456名の契約者に関するデータをもとに、対価の性質を3つの分類に分けることとした。
ケース1、家庭内にて虐待を受けし経験を有する契約者
具体例、23歳男性の場合。該契約者は能力を使用する度に、身体の一部にみみず腫れの如き傷が現出する。本人談によれば、幼少期に母親より懲罰と称する鞭打ちを幾度にも渡り加えられていたとのこと。能力行使直後に現出する傷を対価と仮定するならば、彼の対価は幼少期のトラウマより発生せるものと予測される。同様のケースは他六十三名に見られるものであり、殴打から性的暴行に至るまで、能力使用後に肉体的又は心的外傷の発生する契約者甚だ多し。
ケース2、能力発動後に急死せる契約者、又は早世せる契約者の場合
能力使用直後、心身ともに健康なる契約者の急死はこれまで報告される限りでも数百件に及ぶ。之は能力の使用限界を示唆するものと考えられてきたものの、その程度には個人差があり、たった一度の能力行使で死亡せし児童の例も枚挙に暇がない。使用限界という観点のみに捉われず、多角的な視点から研究を進める必要性ありと認む。
また契約者の寿命は一般人に比して短命の傾向にあり、死亡記録の残る契約者456名中115名が、殉職以外の要因で30歳を迎えることなく命を落としている。
ケース3、自身の信奉する教義又は道徳、若しくは精神的に依存せる事物に対する異常なまでの執着
該契約者は、例えば古来より受け継がるる体系的な宗教教義や道徳規範、又は新興宗教の類、或いは特定の個人に対して異常なまでの執着を見せる傾向にある。昨年発生せしバードン教弾圧事件の際、契約者と思しき信者7名が原因不明の死を遂げたことは記憶に新しい。7名は熱烈なバードン教信者でありながら、警察と内通してバードン教壊滅作戦に加担せし内通者であり、ダイナマイトによるバードン教本部爆破を皮切りに次々と不審死を遂げている。教団幹部による暗殺説から自殺説まで、7名の死は様々に噂されているが、現状その何れも疑問視されている。
また妻や恋人、家族に必要以上の執着を見せる契約者も一定の割合で確認された。彼らは特定の人物を保護するためだけに能力を行使する。それ以外の理由で能力を使うケースは極めて稀であるらしい。こうした傾向は本人らの発言により明らかになりしものであり、契約者自身の主観的なバイアスがかかっていることも考慮しなければならないが、同様の発言は契約者27名より聞き取ることができた。彼らの共通点は能力の使用限界を持たない、若しくは感じたことのない点にある。ケース1の如き目に見える対価の支払いを感じたことも無いと言う。
近年科学技術の発達により、契約者の力を用いる必要は旧時代に比して減じたりと感ずるところである。本人の意思を無視したるが如き能力行使の強制や、軍隊への契約者積極的採用は廃止すべきと私は考える。特に軍事における契約者依存は国家戦略の観点からも甚だ危険と言わざるを得ない。ましてや孤児院に擬態せし人体実験施設の存在などもってのほかである。これら旧時代的な契約者研究の遺風は即時撤廃し、より科学的で建設的な契約者研究の発展を願うばかりである。




