恋の自覚
ジェームス国王とアナスタシア王妃のヘルト訪問は、順当にいけば六月に実施されることが伝えられた。四月の庶民院総選挙にて民友党が過半数を獲得し、ランカスター内閣が誕生すれば、この計画は実行されることとなるのである。政府間交渉はヘルト駐在大使が担当し、両国の貿易促進や経済的な制裁措置の禁止を取り決める手筈であるという。
同時にユトダイン政府顧問団が秘密裏にルネスタン共和国を訪問、対ヘルト戦争の協力を取り付けられるよう交渉を進める。開戦時のルネスタン参戦が至上目標ではあるが、それが叶わずとも中立を保障してくれるだけで儲けものだろう。
「リリアン、ニック。本当にごめんなさい。また二人に迷惑をかけることになって……」
ランカスターとジェームスの去った室内で、アナスタシアは苦しげな表情を見せながら謝罪の言葉を述べた。俺は、彼女にそんな態度を取らせるランカスターに、そして曖昧な態度を取り続けていたジェームス国王に苛立ちを覚え、同時にアナスタシアの苦痛にひどく心を痛めるのであった。
「どいつもこいつも勝手な事ばかり抜かしやがる。誰も、アナスタシアのことを考えちゃいない……」
「……あの、ジェームスは、本当に私のことを気にしてくれてるの」
「どこがだよ。まるでランカスターの犬みたいに奴の様子を伺いやがって。本当に君のことを考えているなら……」
そう言いかけて、俺は自身の発言の愚かさに気が付いた。所詮俺もジェームスと同様、ランカスターに上手く丸め込まれたのである。俺は無力だった。ランカスターを止めるどころか、結局彼の計画に加担する羽目に陥ったのである。
「ヘルト訪問は私も同意した上での計画なの。結局、二人を巻き込むことになってしまったのは……本当にごめんなさい……」
アナスタシアはあくまでも俺たちの身を案じていた。彼女にとって、自身の身の危険や祖国を裏切る苦しみは二の次なのであろう。俺たちを巻き込むことに苦痛を感じ、心の底から責任を感じている。俺は自身の立ち振る舞いを恥じた。今すべきは彼女を安心させること。そして、再び行動を共に出来る現状を喜ぶことなのではなかろうか。
「ランカスターの台詞を借りるのは癪だけど、俺とリリアン、それにダレンやシャーリーがいれば百人力だぜ。それにフットもアレックスも加わるんだろ? 冗談抜きに、王国最強の契約者集団じゃないか。俺が寝てたって問題ないだろうよ」
するとリリアンも頷き、アナスタシアの手を取り励ましの言葉を述べる。
「友達ってのは助け合うものよ。あたしが辛いときは、あんたに思う存分甘えるわ。あたしはアナスタシアと一緒に居られればそれでいい。ねえ、ニックもそうでしょ?」
「当然だ。アナスタシアとの面会を告げられた時なんて、こいつ大泣きしてさ。俺含めた同居人三人で、一晩中付き合ってやったんだぜ?」
「……そーゆう話はしなくていいから。とにかく、アナスタシアは責任なんて感じなくていいの。友人を助けるのに理由なんていらない。あたしたちは勝手にあんたを好いて、勝手にあんたの助けになる。何言われたってそうさせてもらうから」
彼女の言う通りである。大切な人の助けになる、そこに理由などいらないのだ。
「心配しなくていい。全部、上手くいくよ」
臆する必要などない。アナスタシアを守る為なら、俺は何度だって能力を使ってみせる。必ず彼女を守る、それが俺の使命なのだろう。
彼女を失いたくない。俺はきっと、彼女のことが好きなのだ……。




