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新国王

『国王陛下退位』


国王陛下は今二十八日午後一時、王座の間において退位の儀を行はせられたり


十月二十八日

内閣総理大臣臨時代理 ベネディクト・ランプリング署名




『ランカスター新王即位』


二十八日午後三時王室発表。王室は午後二時より、王座の間においてランカスター王子の戴冠式を実施せられたり。これによりランカスター新国王が誕生、ジェームス王太子は引き続き摂政を務めることとなる。



『襲撃されし同盟派重臣、アナスタシア王太子妃暗殺未遂に関与か? ダンバース公の回復待たれる』


二十八日午前二時陸軍省発表。反乱将校らは、下記重臣派四名の王太子妃暗殺計画関与を主張せり。


カール・リットン枢密院議長(死亡)

トレヴァー・サザーランド外務大臣(死亡)

ラルフ・ジョーンズ陸軍軍事参議官(死亡)

チャーリー・ダンバース公爵(重傷)


また内務省によると、これら同盟派四名はヘルト帝国政府と密通していた形跡ありとのこと。現在治療入院せるダンバース公の回復を待ち、事情聴取を行う予定であると報告せり。



 

 プロクター中尉に渡された新聞を読み、俺は目まぐるしく展開する王都の情勢を確認した。いよいよ国王が交代したのだ。どうやら新国王となったランカスターは、現内閣の方針に従う意思を示しているようである。


 しかし現在、暗殺されたマルコム首相に代わって首相代理を務めるのは、内務大臣にして王統派筆頭のベネディクト・ランプリングであった。彼はランカスターの信奉者としても有名であり、恐らく今回の国王即位もランプリングが強く勧めたのだと考えられる。ランカスターは現内閣に従うどころか、ランプリングを通じて現内閣を操ることすら出来てしまうだろう。


 「国王親政は未だ成らないか……。無論ランプリングであればまだマシだが、出来れば首相は陸軍の王統派に任せてほしいものだ」


 プロクターはそうボヤきながら、諜報局庁舎三階の窓より王宮方面を眺めていた。


 「あくまでも臨時内閣ですから。まだどうなるか分かりませんよ……」


 俺はそう答えて新聞を折りたたみ、デスク上へ無造作に投げ捨てた。


 先程陸軍参謀本部より連絡があり、反乱軍将校及びピリアス騎士会の重役全員に、王宮への召集命令が伝えられていた。電話の主は、参謀本部ヘルト班長のヘンリー・モロイであったという。モロイはクーデター実行前より中央の窓口役を務めていた人物であり、中央王統派の中で最も王統革新党と距離の近い男であった。


 召集の目的は、ランカスター国王への謁見であるという。国王自ら直々に、俺たち反乱軍の功績を讃えたいとの意向を示したらしく、プロクターはじめ青年将校たちは反乱の成功を確信するに至ったのである。


 「状況は必ず、我々の期待通りに進むであろう。ランカスター国王陛下は我々反乱軍の功績を讃えると仰っている。そのうち国王親政の要求も実現されるだろうな」


 プロクターはそう意気込んだが、俺は内心複雑な心境であった。ホールデンは国王親政を最も危険視していた。ランカスターを怪物と称し、一人の人間に権力が集中することを恐れていたのである。



 「本当に、これで良かったのだろうか……」


 王宮への召集は俺にも掛けられていた。もちろん俺は計画立案メンバーではないものの、ホールデン殺害を始め反乱の成功に大きく貢献したことが考慮されたのだろう。正直、俺の行動は讃えられるようなものではない。怒りに身を任せて、一人の人間を私情で殺害した。たとえそれがホールデンの目論見だったとしても、殺人の事実に変わりはない。


 「もっと胸を張れニック。君は立派な国士だ。この国の英雄になったんだぞ」


 制服を身に着け、準備を済ませたプロクターが俺の肩を叩いた。俺たちはそのまま諜報局庁舎を後にして、王宮方面へと歩を進めてゆくのであった。




 王宮正面の広場には、騎士会長のラドクリフやラングリー中尉、その他青年将校の一団が集結していた。中には元同級生のイアン・スペンディングの姿もある。イアンは俺の姿を確認すると、とびきりの笑顔を見せてこちらに駆け付けてきた。


 「ニック! やはり生きていたな! 君なら成し遂げてくれると信じていたよ!」


 「イアンこそ、無事で何よりだ」


 「立派に役割を果たして見せた。ようやく俺たちの念願が叶うんだ」


 「……ああ」


 すると間もなく王宮の扉が開き、ランカスター新国王が姿を現した。青年将校たちが一斉に直立し、そのまま国王へ向け頭を下げる。俺もワンテンポ遅れてお辞儀をし、ランカスターに向け形ばかりの敬意を表して見せた。


 しかし次の瞬間、背後に巨大なエンジン音が響き渡った。嫌な予感に振り返ると、数台の軍用トラックがこちら目掛けて猛スピードで突っ込んできたのである。トラックは俺たちの周囲を囲むように停車して、荷台から多数の陸軍兵士が続々と現れた。


 「何事だ!?」


 ラングリー中尉が混乱気味に兵士たちへ問うた。だが彼らは何も言わず、銃口を突き付けることで回答を示す。よく見ると彼らの制服は、通常の陸軍兵士のそれとは異なるものであることが確認できた。


 「憲兵隊か……。俺たちは嵌められたんだ」


 絶望の表情で呟くプロクター。憲兵とは主に軍事警察を掌る陸軍組織である。彼らは罪を犯した軍人を取締るのだ。その憲兵隊が我々に銃口を向けるということは、つまりそういうことなのであろう。


 「陸軍命令は出ているのか!? これは国王陛下のご意向に背く行為だ! 陛下に対する反逆行為であるぞ!」


 ラングリー中尉の怒声が響き渡る。すると隊長らしき男が姿を現し、俺達へ向けてこう告げた。


 「陸軍刑法第二編第一章、反乱罪の容疑により、あなた方を拘束致します。どうか抵抗なされぬよう……」


 多数の憲兵隊員により、次々と拘束されてゆく反乱軍将校達。彼らは為す術なく両手に手錠を掛けられ、トラックの荷台へと連れ込まれるのであった。

 



 だがどういう訳だろうか。憲兵たちは俺の身柄のみ拘束しようとしなかったのだ。俺は呆然と、将校たちが連行されてゆく様子をただ眺めているのみであった。


 「ニック・ロビンソン。こちらへ……」


 憲兵隊長に促され、俺は彼の示す方向に目を向けた。王宮入口前に佇むランカスター国王の姿がそこにはあった。


 「久しぶりだね、ニック」


 「これは一体どういうことですか……」


 「国王は国家ではない。いま私は国王の地位にあるが、そんな私でも法を捻じ曲げることは出来ないのだよ。彼らのことを思うと胸が痛むが……。反乱軍の首謀者は国家の法により裁かれなければならない。それが近代社会の掟なのだよ」


 反乱軍の功績を讃えると言い、彼ら将校たちを喜ばせておいて騙し討ちか。よくも胸が痛むなどと言えたものである。ランカスターの底知れぬ闇を垣間見たような気がして、俺は怒りと共に恐怖の感情を覚えていた。


 「何故俺だけ捕えない?」


 俺がそう問いただすと、側に控える憲兵隊長が血相を変えて怒鳴り出す。


 「不敬な! 国王陛下に何という口の利き方だ! 即刻態度を改めよ!」


 しかしランカスターは意にも解さぬ様子で、憲兵隊長を宥めるようにこう語った。


 「いいんだ。私は礼儀や格式などが嫌いな質でね。そのうち国王の肩書も捨てようと思っている。そうだな、どうせなら君もタメ口で接してくれないか?」


 「……どうかお許しを。そんな畏れ多いこと、とても私には出来ません」


 手足を震わせながら、国王の気まぐれな提案を拒絶する憲兵隊長。


 「まあ良い、ニックの質問に答えよう。君はホールデン尋問室長の最後を見届けた男だ。……ホールデンは集めた情報を文書化して、個人的にため込んでいた。もしやその文書の在処を聞いているのではないかと思ってね」


 その台詞を聞き、俺はホールデンの手紙に書かれた遺言を思い出した。


 「君だけが情報を握っている」という事実が、君を助けることになる。私の集めた情報を欲しがる人間は山ほどいる。それはランカスターとて例外ではない……。



 「さて、どうでしょうね……」


 「今すぐ明かす気は無いらしいね。ホールデンの言っていた通り厄介な男だ」


 「……彼から何を聞いた?」


 「色々……ね。君が特別な能力を有していることも……」


 ホールデンは俺の過去戻りの能力に気付いていた。とすると、彼から俺の情報を聞いていたランカスターも同様に、俺の過去戻りを把握している。あの男、俺に全てを捧げるように見せかけておいて、しっかりランカスターにも肩入れしているではないか。結局俺は、彼の手のひらの上で踊らされているに過ぎないというのか……。


 「ニック。私と盟約を交わさないか?」


 「……盟約だと?」


 またホールデンと同じようなことを抜かしやがる。もうこの手には飽き飽きしているのだ。腹の内で何を考えているのか分からない、ましてやホールデンが自分以上の怪物と称する男の口約束など、とても信じられたものでは無い。それについ先ほど、この男は反乱軍将校を騙して一網打尽にしたばかりではないか。


 「少し、二人きりで話そうか……」


 ランカスターは身を翻し、王宮内へ入るよう俺に促した。俺は彼の後に続き、約一か月ぶりに王宮内部へと足を踏み込むのであった。

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