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反乱軍蹶起

 クーデター計画の最重要目標は、首相官邸及び警視庁、そして諜報局であった。以上三つの目標に兵力約二百名ずつが割り当てられ、残りの兵力で陸軍省、参謀本部、各新聞社、その他官邸私邸を襲撃する。

 暗殺目標には若干の修正が加えられていた。記載すると以下の通りになる。



第一次目標

マルコム・ラマナン内閣総理大臣

カール・リットン枢密院議長

トレヴァー・サザーランド外務大臣

ラルフ・ジョーンズ陸軍軍事参議官

チャーリー・ダンバース公爵


第二次目標

クリス・マッキントッシュ陸軍大臣

ラッセル・ブロムリー貴族院議員



 主要暗殺対象が、ラマナン首相及びヘルト政府と内通する一部同盟派に再設定されたのである。また第一次目標の暗殺を最優先とし、余力があれば第二次目標の暗殺へ着手するとした方針が定められた。


 「……プロクター中尉率いる歩兵第一連隊の一部は諜報局を襲撃する。ニック殿もこれに加わってくれるとのことだが、相違ないか?」


 「はい。テレポートを用いて内部へ潜入、庁舎の制圧に務めます」


 ラングリー中尉に問われた俺は、覚悟を込めてそう答えた。本隊とは別行動を取る旨も了承してもらい、これでホールデンの動きに注視することが出来るようになったのだ。


 「諜報局本部は王宮敷地内にある為、王室衛兵との戦闘も予測されるだろう。出来るだけ速やかに諜報局を制圧し、その後は籠城戦に務めよ。中央の王統派が味方すれば、風向きはこちらへ有利となる筈だ。とにかく陸軍との決戦が始まる前に全ての襲撃目標を制圧する。そして迅速に、我々の要求を中央へ突き付けるのだ」


 ラングリーによる最終確認が完了し、王統革新党の各将校はそれぞれ配置に着くべく解散していった。俺はダレン、シャーリー、ジョシュアと共にプロクター中尉の下を訪れ、彼の指示に従い部隊の控える演習場へと向かうことになった。



 「ニック! やはり君も協力してくれるんだな! やはり見込み通りの男だよ!」


 元同級生のイアン・スペンディングに声を掛けられ、彼と固い握手を交わす。


 「イアン、君の配属は?」


 「首相官邸さ。暗殺実行の大役を任されたんだよ。見てくれ、今から緊張で震えが止まらない……。でも弾は外さないよ。確実に仕留めて見せる」


 「……そうか。気を付けろよ」


 「君こそ、諜報局は最も激しい抵抗が予想されるんだろう? こんなこと言うのも何だが、死ぬなよ……」


 「死しても目標を完遂する。だろ?」


 「当然だ。しかし君は同志である以前に友人でもある。君には死んでほしくない」


 イアンからそんな台詞が聞けるとは思わなかった。青年将校の熱意は異常なほど高い。例え同志であろうとも、目標完遂の為の死であれば致し方ない。そう考えているものとばかり思っていたのだが。


 「……友人、か。お互い生きて戻れたら、共に祝杯を上げよう」


 「ああ、それじゃあ。武運長久を祈る」


 日時は26日午前0時30分。俺たちはプロクター中尉と自動車に乗り込み、演習場へと向かった。演習場には約二百名の兵員が控えており、うち七十名は機関銃隊によって構成されている。諜報局がどれ程の用意を備えているか分からないが、恐らくこちらが優勢であることは間違いない。


 「いやー、圧巻っすね。これだけの兵力があれば余裕なんじゃないっすか?」


 高揚気味に声を上げるジョシュアであったが、懸念点はやはり王室衛兵の存在だ。ついこの間まで所属していた部隊の存在が、これほどまでの脅威になるとは皮肉なものである。王都警備隊が動かないということは、恐らく陸軍自体がクーデターの可能性を信じていないということになるだろう。王室衛兵も命令が無ければすぐには動けない。ラングリーが言っていたように、陸軍命令が下る前に諜報局を占拠する必要があるのだ。



 「攻撃目標は諜報局本部! 進軍開始!」


 プロクターの号令と共にに、二百名の陸軍部隊が進軍を開始した。俺は先頭を歩くプロクターの下へ駆け寄り、こちらも別行動を開始する旨を報告する。


 「先に諜報局へ向かいます」


 「承知した。我々が到着するまで攻撃は控えろ。状況をよく観察しておいてくれ」


 「了解です」


 俺はダレンに合図した。彼のテレポートで王宮周辺まで移動する為である。俺たちは潜伏場所として予め調査しておいた、王宮外西側のビル四階へと向かうのであった。


 このビルは建設工事中のものであり、現状五階部分の建設途中にある。夜間の工事は行われない為、俺たちは完成した四階部分に潜伏することに決めたのである。ちょうど王宮内西側に位置する諜報局の様子がよく見えるし、反乱軍の進撃ルートも把握することが出来る。まずは部隊が到着次第、プロクターに状況報告を行わなければならない。



 「はあ、流石に三人連れてくのは大変だよ」


 潜伏場所に到着して、早速ダレンがへたり込む。能力とは関係なく、単純に三人抱えて移動する体力が無いのだろう。


 「それより庁舎のようすを確かめなきゃ。サムってひとの頭を覗いてみるね」


 シャーリーがテレパシー能力を行使した。俺は持ってきた双眼鏡で、庁舎周辺の現状を確認する。


 庁舎前の広間には、およそ五十名ほどの警察隊が並んでいた。恐らく警視庁の特別警備隊が配備されているのだろう。兵装を見る限り、こちら側の装備とは比べ物にならない程脆弱であることが分かる。ただし、一基の機関銃が見受けられる為、全面衝突となれば反乱軍の犠牲も避けられない。ホールデンは徹底抗戦を主張していたから、衝突は避けられないのだろう。


 「とりあえずサムってひとは、三階北東側の一番奥の部屋にいるわ。地図で言うとこの部屋ね」


 先日作成していた諜報局庁舎の地図を取り出し、ダレンへ指示するシャーリー。


 「思考は読めたか? 奴らの作戦とか」


 「とりあえず分かったのは、ホールデンも同じ部屋にいるってことと、三階部分に20人くらいの戦闘員が待機していること。建物内は諜報局員と警察部隊が一緒にまもってるみたい」


 「分かった。それだけ情報が集まれば十分だ。後は部隊の到着を待とう」


 気がかりであった王室衛兵の姿も見られない。やはり陸軍はまだ動かないのだろう。


 それにしても、陸軍が動かずに警察組織が動くというのも妙な話である。警視庁及び諜報局は内務省の管轄。トップの内務大臣、ベネディクト・ランプリング男爵は王統派の一員だったはずである。そしてラングリーの情報によれば、中央の王統派は事態を静観しているのではなかったのか。であれば今の状況は、内務大臣が事態を静観しているのに、諜報局と警視庁が勝手に徹底抗戦の構えを見せているということになる。


 そういえばホールデンの口ぶりからも、諜報局の徹底抗戦は彼自身の決意のように感じられた。警視庁との連携も諜報局長が行っていたみたいだし、警察部隊の動員に内務大臣は関わっていない可能性が高い。


 そうまでしてクーデターを阻止する意思が、ホールデンにはあったというのだろうか。ならば何故俺に情報を流したのだ。俺たちを利用して何を企んでいるというのだ。考えれば考えるほど、彼の意図が分からなくなってくる。


 「ニックさん、決起部隊が見えました!」


 「オーケー。ダレン、飛ばしてくれ」


 ダレンのテレポートで反乱軍部隊の下へと移動する。俺たちの姿に気付いたプロクターは、一旦部隊の行進を停止させた。


 「状況は?」


 「諜報局庁舎前の広場に、特別警備隊50名が配備。また彼らは機関銃一基を装備しています。庁舎内の詳しい人数は分かりませんが、20名以上の警察部隊、また諜報局員が控えていると思われます」


 「王室衛兵はどうだ?」


 「現状姿は見えません」


 「承知した。総員! 配置に着け!」


 部隊が散会し、駆け足で王宮方面へと進行する。


 「では、私達も内部潜入の為の準備に取り掛かります」


 「ああ。成功を祈る」


 報告を終えた俺たちは再度潜伏場所へ戻り、事態の展開を注視する。反乱軍部隊は二手に分かれ、一方は王宮広場正門より侵入、もう一方は西側の塀を越え、直接諜報局庁舎へと進撃を始めた。迎え撃つ相手方の機関銃は一基のみ。警備隊は正門方面から迫る反乱軍に向け、機関銃を発射した。


 ここに戦闘の火蓋が切って落とされた。先手を打たれた反乱軍兵士はバタバタと倒れ、西側より攻め込む兵士もライフル銃で撃ち落とされてゆく。辛うじて庁舎前広場へと進んだ反乱軍兵士たちも、土嚢とバリケードに守られた防衛線を突破することが出来ない。正門側部隊は一時後退し、戦線は膠着状態に陥った。


 「これヤバいんじゃないっすか?」


 ジョシュアが焦り気味に呟いた。俺も固唾を飲んで、落ち着かぬ心持で戦局を見守る。


 しかし態勢を建て直した正門側部隊が四基の機関銃を設置、警備隊目掛けて一斉に乱射した。防衛側陣地に死体の山が築かれ、警察部隊は混乱状態に陥る。その隙に西側部隊が塀を越え、一直線に庁舎前広場へとなだれ込んだ。


 「よし、外の戦闘は片が付く! シャーリー、奴らの様子は?」


 「たった今サムから、私たちに向けて伝達がきたよ。直接部屋に来いだって」


 「何だって? 何考えてやがんだあいつは……」


 ホールデンを信じるか。しかし俺たちが何もしなくとも、恐らくこの戦闘は反乱軍の勝利に終わるだろう。果たして彼の誘いに乗るべきか否か……。


 「ニックさん! 危ない!」


 突然ジョシュアが叫び声を上げ、俺の体を突き飛ばした。次いで響き渡る一発の銃声。急ぎ体勢を起こすと、胸部から血を流し、息も絶え絶えに藻掻くジョシュアの方が見える。


 その前方に、ピストルを構えた黒髪の女が立っていた。左腕には王室の紋章が記された腕章がはめられている。


 「王室衛兵か!」


 俺は即座にピストルを抜き、女目掛けて発砲した。しかし彼女は瞬時に身を反らし、難なく銃弾を躱して見せる。


 「抵抗を止めれば、これ以上の攻撃は行いません。大人しく投降しなさい」


 王室衛兵の女は再びピストルを構え直した。俺と彼女はお互いに、銃口を向け合い対峙する。あの身のこなし、恐らく契約者であろう。一体どんな能力だ。運動能力の増強か、それとも……。


 「撃ち合いをすれば、次に死ぬのはあなたです。これが最後の警告です」


 次の瞬間、ダレンがテレポートで彼女の背後へ回り込んでいた。右手で彼女の体を掴もうとするダレン。しかしあと僅かの所で、女は身を翻して攻撃を躱す。


 「契約者ですか……。こんなところで」


 今度はダレンへ銃口を向ける女。俺はその隙に、彼女めがけて連射攻撃を浴びせ掛けた。しかし女は驚異的な反応速度で、全ての銃弾を躱し切る。そのまま反撃に転じようとした彼女であったが、無理な動きで体勢を崩し、己の身体を支えきれずに床へ倒れ込んだ。


 俺はその隙を見逃さなかった。シャーリーの手を引き、瀕死の状態で横たわるジョシュアの体を抱え込む。


 「ダレン! 一旦引くぞ!」


 俺の声に応え、ダレンが瞬時にテレポートを発動させた。ビルの一室を飛び出して、空中を移動しながら一目散に退避する。


 「ジョシュアの手当てをしないと! 重症だ!」


 「分かってるよ! 今下りれそうなところを探してる!」


 戦地から数キロほど離れた公園の木陰で、俺たちはジョシュアの止血に取り掛かった。しかし医療器具も持たぬ俺たちに、彼の治療をする手立てなどありはしない。こんな時、医療系の契約者がいてくれれば、彼を助けることが出来るかもしれないのに……。


 申し訳程度の止血では、ジョシュアの出血を止めることが出来なかった。彼は苦しそうに息を漏らしながら、微かな声で何かを呟いている。


 「病院へ連れて行こう! どうせ諜報局は制圧できるだろう! 後は反乱軍に全て任せればいい!」


 ダレンとシャーリーは力なく頷いた。徐々に薄れて行く呼吸に、胸部からの大量出血。二人にも、彼が助からないことぐらい分かっているのだろう。するとジョシュアは、弱々しい手つきで俺に手招きをして見せた。


 俺は彼の口元に耳を近づけた。ジョシュアは掠れた声で、ただ一言こう呟いた。


 「また飲もう……」


 彼の全身から力が抜け、徐々に体が冷たくなってゆく。


 「俺が甘かった。王室衛兵は動かないとタカを括っていた……」


 また飲もう……。彼の最後の言葉を噛み締める。折角友だちになれたのだ。これからもっと、仲良くなっていきたいと思っていた。また四人で楽しく飲み食いしようじゃないか。反乱が成功して、何もかも上手くいったら……。今度はもっと良い酒を買って、豪華なディナーでも楽しみながらさ。また生意気な面を見せてくれよ。お前がいないんじゃ、俺は誰と飲み比べすりゃいいんだよ……。


 俺は懐から手帳を取り出した。彼を死なせはしない。クーデター決行前に戻り、作戦を変更するのだ。


 『王室衛兵は動く。潜伏場所は危険、作戦を変更せよ』


 ダレンとシャーリーは何も言わなかった。俺が過去へ戻ろうとしていることに気が付いたのだろう。


 俺はジョシュアの亡骸を視界に入れ、メモ書きをしかと見据えた。


 (絶対に死なせない。生き残って、また共に酒を酌み交わそう)


 




 「いやー、圧巻だね、とんでもない兵力だ。流石の諜報局もこれには敵わないんじゃないの?」


 諜報局襲撃部隊を目の前に、ダレンが思わず声を上げる。時刻は0時30分、演習場には約二百名の反乱軍兵士が集結していた。


 「……一体、どうなってるんだ」


 俺は辺りを見回した。しかしどこを探しても、ジョシュアの姿が目に入らない。


 「おいダレン、ジョシュアはどこだ? さっきまでここにいただろう?」


 「……ジョシュア? 誰の事言ってるんだ?」


 不思議そうな表情を浮かべるダレン。シャーリーもキョトンとした顔で俺を見詰めてくる。


 「は? ジョシュアだよ、騎士会のジョシュア。こんな時に冗談はやめてくれ」


 「いや、ほんとに誰なんだ? 多分ここには、騎士会の人はいないと思うんだけど……」


 「……意味わかんねえ。シャーリー、何とか言ってやってくれよ」


 しかしシャーリーも困惑した様子で首を横に振る。

 

 「ニック、わたしもその人が誰だか分からない。いったん落ち着いて。何があったか話してくれるかな?」


 どういうことだ。俺はつい先ほど過去戻りの発動を確認した。現れた光景は、横たわるジョシュアの亡骸と、作戦変更を伝えるメモ書きである。そして次の瞬間……、ジョシュアが消えていたのだ。ついさっきまで目の前にいたのに、どこにも見当たらないのだ。加えてダレンもシャーリーも、ジョシュアが誰だか分からないというのである……。



 「能力のせいか……。一体……」

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