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少女

 『リトラス抵抗運動激化ーーリトラス義勇軍徹底抗戦の構え・領内各地で一斉蜂起ーー』


 リトラス駐在ルネスタン公使クレイセル氏よりの報告によれば、リトラス義勇軍は10月22日午前、ヘルト=リトラス併合条約の破棄を求めて、領内各地にて武器を取り一斉に蜂起したとのこと。リトラスに進駐せしヘルト帝国軍は直ちに義勇軍と交戦、各地で激しい戦闘が繰り広げられている。

 また同日午後、ルネスタン共和国政府は目下情勢を鑑み、リトラス義勇軍への武器貸与方針を決定したとのこと。これに対してヘルト帝国外務省は痛烈な批判声明を発表、両大国の関係は一挙に緊張状態へと陥れり。




 「急展開だね。国内も国外も、ぐちゃぐちゃだ……」


 珍しくダレンが神妙な面持ちで、ユトダイン・タイムスの紙面を眺めていた。



 先週発表されたヘルト帝国によるリトラス王国の併合。これにより、リトラス王国は解体されヘルトの植民地と化した。……はずであった。しかし今日の新聞報道にて、併合に納得しないリトラス義勇軍による武装蜂起が報じられたのであった。


 ルネスタン共和国はヘルト帝国の西側に位置する五大国の一員であり、その陸軍力はヘルト帝国に匹敵するとも評される軍事大国でもある。いや、兵器や装備の近代化が進むルネスタンの軍事力は、最早ヘルト帝国を凌ぐとさえ囁かれているのだ。リトラス義勇軍の蜂起を見たルネスタンは、長年宿敵として相対してきたヘルト帝国を疲弊させるべく、リトラスへの最新兵器の貸与を決定したのであった。


 「しかしこれで、当面の間ヘルトはユトダインとの問題を棚上げするだろうな。クーデターを起こして、ヘルト政府と繋がる一部同盟派を引きずり下ろすには絶好の機会かもしれない」


 「もしかしてこのリトラス義勇軍、裏で王統派が糸を引いてるなんてこと無いよね……」


 流石に勘繰りすぎだろうと思ったが、どうにもタイミングが良すぎる気もする。クーデターの決行は十月下旬、そろそろ決行日の知らせが来ても良いはずである。


 「ジョシュアはどこにいるんだろう。まだ反乱決行日の連絡は来ないのかな?」


 「ああ、彼ならさっき顔を見せてたよ。シャーリーと遊んだ後、すぐに騎士会本部に戻っちゃったけど」


 「え、そうなのか?」


 驚いてシャーリーの方を見ると、彼女は慌てて両手を横に振った。


 「勘違いしないでね! 彼とはただのお友達だから!」


 「え? ああ、そうなの? まあそれはいいんだけど、彼は一体どんな奴なんだ?」


 俺の反応に何故かふてくされるシャーリー。俺はジョシュアがそこまで彼女と打ち解けていることに驚いただけなのだが、何か気に障ったのだろうか。不満げな表情で、彼女はジョシュアに対する印象を次のように呟いた。


 「ふつうにいい人よ。それだけ」


 「そうか。君が言うんだから間違いないんだろうな。てか、何か怒ってる?」


 彼女が信用していると言うことは、おそらく本当に害の無い人間なのだろう。最初は騎士会の回し者ということで多少警戒していたが、確かに俺たちの話を聞いても妙な動きを見せることなく、連絡係に徹してくれていた。彼とも今後、色々話し合ってみるべきだろう。


 「ニックはさ、よく鈍感って言われない?」


 ダレンが呆れ顔で俺を見た。そう言われたこともあった気がするが、自分が特別鈍感だとは考えたことも無い。


 「そんなに言われないかな。どうして急に?」


 「いいや、そういや君は軍の学校出てるんだもんね。ずーっと男社会じゃ、そりゃ厳しいか」


 「なんか分かんないけど、絶対馬鹿にしてるだろ?」


 「してないしてない。さてと、僕はお邪魔かなー」 


 そう言ってダレンはソファから降り、外出の為の身支度を始めた。


 「おい、どこ行くんだよ?」


 「ちょっと食料調達に。そろそろ尽きてきたからね」


 次の瞬間には、彼の姿は跡形も無く消えていた。そう言えば毎食のように、パンやら缶詰やら豊富な食材が出ていたが、まさか盗みに行ったんじゃあるまいな……。だとしても、食わせてもらってる俺は文句も言えないのだが。


 「よけいなことを……」


 シャーリーが恨めしげにそう呟いた。


 「気を悪くさせちゃったなら謝るよ」


 きっと彼女を疑うような態度を見せてしまったからだ。いやしかし、俺もまだジョシュアとはロクに会話もしていないものだから、彼と遊ぶような仲になっているとは思いもしなかったのだ。


 「いや、そういうことじゃないんですけどね。あと遊ぶ仲っていっても、ふつうの友達だから。とにかく気にしなくていいの」


 ピシリと俺を睨み付けるシャーリー。彼女は最初から心を開いてくれていたし、いつも表情豊かに接してくれるものだから、こちらもある程度安心して接することが出来る。こうした彼女の反応も可愛いものだ。ただ一つ、思考を読まれるのが難儀ではあるのだが……。


 「そういや気になったんだけどさ、俺の考えてることって、結構君に筒抜けだったりする?」


 「大事なときだけね。何でもかんでも見てないよ?」


 「なるほど、使いどころをちゃんと考えてるんだな」


 とはいえ、思い返してみると結構色んな場面で読まれているような気がするのだが……。


 「それもぜんぶ大事なときだからね! 今も大事な場面だから!」


 「お、おお。そうなのか」


 まあ読まれて困ることは考えていない筈だから、恐らく大丈夫だろう。彼女を変な目で見ているわけでも無いし……。いや、そう考えること自体マズいのではないか。思考を制御するって、思っているより難しいのかもしれない。


 するとシャーリーは席を立ち、俺の前へと歩み寄った。椅子に腰かけた俺の顔に両手を添えて、ぎこちない笑みを浮かべている。


 「ちょっと失礼……」


 彼女の小さな唇が口元に軽く触れる。何が起こったのか分からないまま、彼女は静かに俺の顔から両手を離した。


 短い接吻の後、俺は呆然自失の状態に陥っていた。そして直後に激しい動悸が訪れた。彼女の柔らかい唇の感触が、未だ残っているように感じる。


 「王女様には負けないよ」


 駆け足で共有ルームから去るシャーリー。俺は夢から覚めやらぬ心持で、開け放しの扉を呆然と眺めているのであった。

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