表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/157

深まる謎

 「アラン・リッチーとジェイソン・ブロッサム。この二名の男の名に聞き覚えは無いか?」



 ダレンとシャーリー、そしてピリアス騎士会員のジョシュアを前に、俺はこれまで抱いてきた疑問を投げかけた。


 「ああ、聞いたことあるよ。入隊式典での王太子妃暗殺未遂事件、その容疑者だろう?」


 ダレンは宙を仰ぎながらそう答えた。シャーリーも首を横に振る。二人とも、どうやら詳しくは知らないようである。


 これまでアナスタシア王太子妃は度々襲撃を受けてきた。二回目以降の実行犯はダレンとシャーリーであったが、二人が計画の裏側を明かしてくれたおかげで、今や暗殺計画の全容が見え始めていた。同盟派主要人物の計画関与も判明し、その背後にヘルト帝国政府の影が潜んでいることも分かった。


 しかし衛兵入隊式典にて発生した暗殺未遂事件に関しては、未だに情報が出てこない。ダレンもシャーリーも、一度目の暗殺未遂に関しては何故かこれまで触れてこなかったのである。恐らく二人は直接関与していなかったのだろうが、それにしても全く触れないことに俺は違和感を感じていた。入隊式典時の事件は既に世間に公表されているし、容疑者の名も大々的に報道されている。むしろこの事件の真相に触れずして、アナスタシア暗殺計画の深淵にはたどり着けないとも言えるだろう。


 「君たちの仲間じゃないのか?」


 俺はダレンに再度問いかけた。しかしダレンは首を傾げながら、次のように答える。


 「記憶には無いね。さっき同盟派の連中を調査した限りでも、最初の暗殺未遂事件に関する情報は得られなかった」



 どうやら最初の暗殺未遂は、ダレンやシャーリーと無関係である可能性が高いようだ。それでは容疑者のアランとジェイソンは、本当に自分たちだけで暗殺を企てたというのだろうか……。




 あの時俺は初めてアナスタシアと出会い、そして精霊との契約を交わすこととなった。おかげで容疑者のアラン・リッチー、ジェイソン・ブロッサムの二名を捕えることに成功し、俺はアナスタシアの側近衛兵へ任じられたのだ。


 現在容疑者二名の身柄は諜報局が預かっている。大々的に報道されている以上、流石に拷問で二人を死なせることは無いだろうが、壮絶な尋問を受けていることは想像に難くない。しかし諜報局は真実を伝えないだろう。尋問室長ホールデンが何を考えているのか。その辺りも考慮しながらこれからの行動を考える必要がある。



 「ジョシュア。君も知らないか? 衛兵入隊式典での暗殺未遂について……」



 ジョシュアは黙って首を横に振った。それを見たシャーリーも小さく頷いている。どうやら彼は本当に何も知らないようである。


 「私のような一般メンバーには、活動に関する詳細な内容は知らされておりません」


 ジョシュアの返答は極めて事務的なものであった。彼は本当に連絡係としての役割しか与えられてないのだろう。ピリアス騎士会も、みすみす俺たちに内部情報を与えるような失態は犯せないわけだ。騎士会や王統革新党に関する情報は、後日開かれる会議の場で探る他ない。


 「分かった、今日はここまでにしよう。ダレン、シャーリー、明日は俺も調査に同行する」


 一通り情報交換を終えると、騎士会のジョシュアは部屋を後にした。既に付近の寝床を見つけているらしい。



 「あいつ、本当に大丈夫かな? 色々情報聞かせちゃったけど」


 俺がそう尋ねると、シャーリーが次のように答える。


 「うん。彼の思考をずっと監視してたけど、自分の任務以外頭に無さそうだったよ。わたしたちの会話の内容も、良く分かってないみたいだった」


 「そうか……」



 情報は着々と揃っている。しかしこの情報を元にどう動くか、それが肝要である。アナスタシア暗殺計画を進める同盟派メンバーを告発するか。いや、今の立場でそれは難しい。証言はあれど証拠を押さえているわけでもないのである。

 

 ただ、のんびりしている時間も無いだろう。ピリアス騎士会と王統革新党は恐らく一大行動を企んでいる。彼らの動きはホールデンも警戒していた。一説によれば、要注意将校達は革命を企図しているとも聞いている。俺は一体どう動いたらいいのか、情報を得てしても全くビジョンが見えてこないのだ……。


 

 一度全体像を整理するべく、俺は手帳の余白に情報を書き連ねることにした。



・同盟派

 ヘルト帝国との同盟関係構築を目指し、多少の要求を受け入れつつも交渉を続けようとする派閥。政府中枢の主な重役はこの派閥に属しており、国王及び王太子も彼らを支持している。

 しかし同盟派の一部メンバーはヘルト帝国政府と裏取引を行っており、アナスタシア暗殺を契機とするヘルト軍侵攻を受け入れようとしている。枢密院議長のリットンは、ダレンとシャーリーを雇い、アナスタシアを度々襲わせていた。※一度目の暗殺未遂(入隊式典時の事件)には関与していない可能性が高い。


(同盟派主要メンバー)

首相:マルコム・ラマナン伯爵

陸軍大臣:クリス・マッキントッシュ大将

貴族院議員、自由党副総裁:ラッセル・ブロムリー侯爵

庶民院議員、民友党所属:ベイジル・サッチャー


(アナスタシア暗殺計画関与メンバー)

枢密院議長:カール・リットン伯爵

外務大臣:トレヴァー・サザーランド男爵

陸軍軍事参議官:ラルフ・ジョーンズ大将

ユトダイン筆頭貴族:チャーリー・ダンバース公爵




・王統派

 ユトダイン王国の自主独立を目指し、ヘルト帝国の介入を排除しようとする派閥。ランカスター第二王子を盟主とし、強い王国の建設を目標としている。アナスタシアとジェームス王太子の結婚に強く反対しており、彼女をヘルト帝国のスパイと見る向きもあった。特にランカスター第二王子はハッキリと、アナスタシアを嫌っているようである。その為王統派はアナスタシア暗殺計画に関与していると思われていたが、同盟派一部メンバーの計画関与が判明したことで、現状更に謎が深まっている。


(王統派主要メンバー)

王室:ランカース第二王子

内務大臣:ベネディクト・ランプリング男爵

庶民院議員、自由党所属:アルガーノン・ジョーンズ

庶民院議員、民友党所属:ロビン・テリー

庶民院議員、民友党所属:リチャード・フレデリック

庶民院議員、無所属:クリス・スタウントン

外務省情報部長:クリス・クレイグ

陸軍省庶務課長:ジャック・ブル

陸軍参謀本部ヘルト班長:ヘンリー・モロイ




・王統革新党およびピリアス騎士会

 王統革新党とは、陸軍青年将校により構成されるグループである。彼らの目標は国家改造。その為ならクーデターも辞さない方針を取っている。陸軍中央からは要注意将校として危険視されており、度々監視の対象となっているようである。

 ピリアス騎士会はユトダイン最大の秘密結社であり、王統革新党の民間協力組織である。しかしメンバー全員が王統革新党と繋がっているわけではなく、あくまで上層部の人間のみが陸軍将校との協力関係にあると思われる。連絡係として随伴しているピリアスの騎士、ジョシュアの様子を見ても、末端会員は多くを知らされていないようだ。


(王統革新党メンバー)

陸軍歩兵第3連隊第6中隊長:バーキン・ラングリー中尉

陸軍歩兵第1連隊付:スタンリー・プロクター中尉

陸軍士官学校生徒:イアン・スペンディング


(ピリアス騎士会メンバー)

ピリアス騎士会長:アーネスト・ラドクリフ

ピリアス騎士会員:ガブリエル・バーンズ

ピシアス騎士会員:ジョシュア




・諜報局

 内務省管轄の諜報機関。情報収集の他に政治警察・思想警察としての権限も有している。総勢約8000名を有する巨大組織。その実態は未だ謎に包まれている。


(諜報局員)

ホールデン尋問室長

サム ※ホールデンの側近




 ダレンとシャーリーが集めてくれた情報を鑑みると、以上のような勢力図になる。同盟派の四名は確定で黒、彼らの計画は真っ先に止めなくてはならない。


 次に怪しいのが王統革新党、およびピリアス騎士会である。彼らに関する情報はまだ少ないものの、過激な団体であることは分かり切っている。特に陸軍青年将校たちは、これまでも政府要人の暗殺やクーデターを公然と主張してきていた。アナスタシアの暗殺を企んでいても不思議ではない。


 そして今回全く分からなくなったのが、ランカスター王子率いる王統派の動向ある。ユトダインの自主独立を目指す王統派メンバーにとって、アナスタシアは邪魔な存在であった筈だ。だからこそ俺は、暗殺未遂事件にも王統派が関与していると予測していたのだ。ホールデンも王統派の動きを警戒していたし、ランカスター王子の言動も実に怪しまれるものであった。


 しかし同盟派の暗殺計画関与が発覚し、王統派の動きが益々見えなくなってきた。もっと言えば、王統派と王統革新党の繋がりも見えてこないのである。この辺りも、更に調査を進める必要があるだろう。



 「大丈夫さ、ニック。僕たちに任せてくれ」


 俺の様子をずっと見ていたのだろうか。ダレンの心強い台詞に、俺は勇気づけられたような気がした。


 「わたしも、もっと頑張るよ……」


 シャーリーの表情に、少し陰りが見えた。彼女はまだ子供である。先ほどまでは明るい様子を見せてくれていたが、本当は疲れていたのかもしれない。彼女には、あまり無理させ過ぎないほうが良いだろう。



 「色々無茶を言ってすまない。やっぱり明日は、少し休もうか……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ