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軍事侵攻

 「ニック! 調べてきたよ!」


 先に隠れ家へ戻っていた俺たちに向かい、陽気な声で帰還を告げるシャーリー。ダレンの方は疲れた様子で、どっとソファーへ倒れ込む。


 「大丈夫か?」


 そう声を掛けると、ダレンは顔だけこちらへ向けて苦笑いを見せた。


 「ああ、少し疲れたね。僕のテレポートは連発すると動けなくなるんだ」


 「そうなのか……。あんまり無茶するなよ」


 「これくらいならまだ大丈夫さ。それより隣の人、誰かな?」


 ダレンの表情が少しだけ固くなる。シャーリーも彼の存在を見逃していなかった。二人に視線を向けられたジョシュアは、騎士らしく仰々しい挨拶を二人へ見せつけた。


 「ピリアス騎士のジョシュアと申します。ニック様の連絡係を務めることになりました。ご迷惑はお掛け致しませんので、何卒よろしくお願いします」


 深々と頭を下げるジョシュア。俺はその隙にシャーリーの方を横目で見た。俺の視線に気づいた彼女は、テレパシーでこう告げる。


 (大丈夫だと思う。変なことは考えてないみたい)


 シャーリーは相手の思考を読み取ることができる。一度監視対象にされた相手の思考は、全て彼女へ筒抜けとなるのだ。勿論俺とて、ピリアス騎士会から押し付けられた連絡係の男、ジョシュアの存在に警戒心は持っていた。しかしシャーリーがいれば安心だとも考えていたのである。


 「それじゃあ、集めてきた情報を教えてくれ」


 俺は二人へそう促した。するとソファーに寝そべるダレンが、気怠そうに説明を始める。


 「同盟派の四人は黒確定だね。カール・リットン枢密院議長、トレヴァー・サザーランド外務大臣、ラルフ・ジョーンズ軍事参議官。そして、ユトダイン筆頭貴族のチャーリー・ダンバース公爵。彼ら四名はヘルト帝国政府の一部と繋がっていたんだよ」


 「ヘルト帝国政府? 一体どういうことだ?」


 アナスタシア暗殺計画に関与していた四人の同盟派重鎮が、ヘルト政府と繋がって何をしようと言うのか。アナスタシアは現ヘルト皇帝の娘であり、彼女の暗殺はヘルト側にとって、あってはならないことである筈だ。


 実際に入隊式典での暗殺未遂が報じられた際、ヘルト帝国政府は現在続いているヘルト=ユトダイン交渉の破棄と、アナスタシアの身柄の返還を迫ってきた。皇帝の怒りも収まらず、係争地を巡る交渉再開の目途は未だ立っていない程、両国の関係は悪化していたのである。


 しかし次にダレンの口から語られた情報は、実に信じがたいものであった。


 「ヘルト帝国の一部政治家は、アナスタシア王太子妃の死を望んでいる。ヘルトは軍事侵攻のきっかけが欲しいんだよ。彼女の暗殺を口実に、ユトダイン王国へ戦争を仕掛けたいんだ」


 「……まさか。それでユトダインの同盟派と手を組んで」


 「その通りだよ。リットン伯爵を始めとした同盟派の四人は、ヘルト帝国政府の依頼で王太子妃暗殺計画を進めていたんだ。彼女の死はヘルト帝国に大義名分をもたらす。ヘルト皇帝は戦いを求め、帝国政府は予め用意しておいた宣戦布告の通知を送り付ける。そしてあっと言う間にユトダインを併合してしまおうってわけさ。ヘルト軍の兵力を持ってすれば、ユトダイン王国軍との戦闘など赤子の手をひねるようなものだろうからね」


 「リットンたちは何が目的なんだ。アナスタシアを殺して、自分の祖国を売り渡してまで、一体何がしたいんだよ」


 「地位と財産の保証さ。戦後処理の流れは今のところ、ある程度の自治権を与えられた『ヘルト領ユトダイン帝国』の成立が予定されている。そこで同盟派の四人は、重役の地位を約束されているんだと」



 保身の為なら国まで売るというわけか。しかしリットン枢密院議長を始め、現在名前の挙がっている同盟派メンバーの四名は、既にユトダイン王国のトップに君臨する者たちである。わざわざヘルト帝国政府と手を結ばなくたって、十分すぎる役職に着いているではないか。


 「どうあがいてもヘルトとの戦争は避けられない。そして戦争をすれば必ず負ける。だから今のうちに、戦後の地位を保証してもらおう。って思ってるらしいよ~。大人って怖いねー」


 ダレンの代わりにシャーリーが答える。その口ぶりから全く関心を持っていないことが分かるが、これらの情報は全て彼女が収集したものなのだ。彼女のテレパシー能力は今の俺にとって必要不可欠なものとなっていた。勿論ダレンのテレポートも情報収集に欠かせない能力である。この二人の協力なくして、ここまでの情報は集められなかっただろう。




 リリアンやアナスタシアは、今頃どうしているだろうか。本当は脱走以前まで戻って、リリアン達と共にアナスタシアを守りたい。リリアンにもフットにも、謝らなければならないことが沢山ある。ましてやリリアンとは仲直りすら出来ていないのだ。


 しかし、俺の能力には制約が付いている。引き継げる情報は過去に戻る直前に見た光景のみ。その他の記憶は全て失われてしまうのだ。


 つまり、ここで知った暗殺計画に関する膨大な情報を引き継ぐことはできないのだ。俺はもう、サリムでの衛兵離脱以前には戻れない。


 (ただし、一度だけ制約を無視して能力をつかうことができる。でしょ?)


 脳内に響くシャーリーの声に、俺ははっと顔を上げた。彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながらこちらを見ている。


 (勝手に覗いてごめんね。でも約束したとおり、能力のことは誰にもいってないよ?)


 そうか。テレパスであるシャーリーは、俺の能力を全て知っているのだ。今更彼女らに隠す必要も無いが、同席しているピリアス騎士会の人間には隠しておきたい。


 (ありがとう。ダレンには俺から話す。今は部外者がいるから、また今度にしよう)


 (わたしたちのこと信用してくれてるの、すごくうれしいよ)


 無邪気な笑顔を見せるシャーリーの姿に、俺は少しだけ胸が痛んだ。俺は彼女を良いように利用している。ここ数日共に暮らしていて、ダレンとシャーリーの協力がいかに献身的なものであるかということを、俺は心から実感していた。何も言わずとも、二人は俺の為に全力で情報を集めてくれる。アジト周辺への警戒網も、四六時中シャーリーが張り巡らせてくれているのだ。


 (いいんだよ。ニックは命の恩人だから、ぜんぶ協力するよ。ダレンもそれを望んでるから)


 彼女の言葉に心苦しい感じを覚えながらも、今は感謝することしかできなかった。


 まだ確認しなければならないことが山ほどあるのだ。全てはアナスタシアを守るためである。俺は全力を尽くして、この現状をひっくり返さなければならないのだ。

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