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騎士会

 『友愛・慈善・慈愛』。ピリアス騎士会の基本理念として定められたこの三要素は、彼らの活動方針をも大きく表している。募金活動や災害援助、貧民への食糧供給。こうした慈善活動は騎士会の最も主要な活動であり、忠誠心や名誉、そして真の友情を重んじる騎士たちにとっての誇りでもあった。


 だがもちろん、彼らの活動の詳細は明らかにされていない。秘密結社とはどこも活動内容を明かさないものであるが、これだけ大きな組織ともなると黒い噂も立ち昇る。この点に関してはピリアスに限らず、他の秘密結社も同様に様々な噂の的となっていた。


 『秘密』という点が人々の興味を駆り立てるのであろう。ピリアス含め著名な秘密結社に関する陰謀説は、ゴシップを売りとする大衆雑誌の格好の餌食であった。単なる慈善団体であると冷笑する記事から、政治家との黒い繋がりを推察する陰謀めいた記事まで。果ては月星人との交信を行っているといった、突飛なオカルト話まで語られる始末。しかし結局のところ、全ての記事は単なる憶測に過ぎないのである。



 騎士会本部は王都の中心街から車で二十分ほどの距離にあった。通称『ピリアス城』と呼ばれるそのビルは、中世の城郭を思わせる四階建ての石造り建築となっている。入り口付近には警備を務める『騎士』達が列を成しており、道行く人々へ大袈裟な挨拶を投げかけていた。


(こりゃ入れそうにないな……)


 会員のふりをして内部へ潜入することを企んでいた俺であったが、その作戦は、予想を上回る警備の厳重さに打ち砕かれることとなった。調査は一旦見送らざるを得ないだろう。道路を挟んで向かい側から状況を観察していた俺は、次のプランを既に考え始めていた。


 しかし、騎士会本部へ入ろうとする一人の男の姿を見た瞬間、俺の脳裏に一筋の光が差し込んだ。慌てて駆け出した俺は、鳴り響くのクラクションや運転者の怒声も無視して、一直線に道路を横切ってゆく。そして何とか車道を渡り終えると、本部入り口に立つ男へ勢いよく声を掛けた。


「イアン! 待ってくれ!」


「……ニック? ニック・ロビンソンか?」


 男は驚いてこちらを振り返った。彼の名はイアン・スペンディング。陸軍幼年学校時代の同級生である。卒業後は陸軍士官学校へ進むと聞いていたが、まさかこんな場所で出会えるとは思わなかった。


「久しぶりだなイアン。こんな所でなにをしてるんだ?」


するとイアンは辺りをキョロキョロと見回して、俺の腕を掴みこう答えた。


「それはこっちの台詞だよ。一体どうしてこんなところに……」


「偶然君の姿が見えたから、慌てて駆け付けたんだよ。まさか本当にイアンだったとは」



 イアンは警備の男に目くばせをして、俺の腕を引っ張るようにして一階ロビーへと連れ込んだ。


 ロビーの様子は案外普通のオフィスと変わりなく、外装に見られた華美な装飾も中世風の彫刻もここには無かった。ただし、二点気になるところを挙げるとすれば次の通りである。


まず、ロビー内にいる何名かの会員が、古代ユトダイン地方で使用されていたローブを着用している点。次に、ロビー内に女性の姿が見られない点である。


 この違和感の理由を俺は知っていた。潜入を試みる前に、予め騎士会の内部事情を調べ上げていたからである。


 古代風のローブを着ている者は、騎士会内部でも高い役職に着いている人物である。もともとピリアスの理念は、古代ユトダイン神話における『真の友情』を語る説話に影響を受けていた。現騎士会長アーネスト・ラドクリフの就任により方向性はガラリと変わったらしいのだが、役職や内部構成などは結成時のまま続いているという。


 女性の姿が見られないのは、ピリアス騎士会の入会条件に起因する。騎士会に入会できるのは16歳以上の健康的な男子のみであり、女性の入会は原則認められていないのだ。こちらはピリアスに限らず、他の秘密結社も同様に女人禁制であることが多い。近年女性の社会的地位向上が唱えられる中、こうした秘密団体は前近代的な神秘主義を好む傾向にあるという。



 俺たちはロビーの待合スペースへ向かい、そこに設置されたソファーへ腰を下ろした。イアンは困ったように眉を曲げ、大きくため息をつく。


「お前、王室衛兵になったんじゃなかったのか? こんな平日に、制服も着ないで何やってたんだよ」


「色々事情があってね。実は騎士会の人とコンタクトを取りたいと思ってたんだ。丁度よくイアンが現れてくれて良かったよ」


「……まさか、軍の命令で来たのか?」


 イアンの顔が青ざめる。彼の額から、一筋の汗が流れ落ちた。


「だとすると、何か不味いのか?」


 俺は少しだけカマを掛けてみることにした。宗教団体を除き、軍人はあらゆる結社に所属することを禁じられている。当然ピリアス騎士会の如き要注意団体と関係を持つことは御法度だ。


 しかし軍内部にピリアス騎士会と繋がる者がいることも、良く知られた話であった。いわゆる『要注意将校』の存在である。陸軍士官学校でもこうした動きは活発化してきているらしく、学校内で革命を主張する集会を開き、退校処分を受けた学生まで出ているのだ。


 まさか目の前のイアンも、青年将校運動に加担しているのではないか。そうだとすれば、軍への報告を脅し文句にちらつかせ、彼からいくらかの情報を得られないだろうか。というように考えたのである。


「心配するな、上へは報告しない。ただ少し話しを聞きたいんだ」


 するとイアンは顔をしかめ、疑るような目つきで俺を見た。


「ニック。お前王太子妃の側近衛兵だったよな。彼女は今、王都にはいないんじゃなかったか?」


「……いや、殿下は今も王太子宮殿にいらっしゃる。どこでそんな話を聞いた?」


この切り返しは想定外であった。俺は動揺を隠すことが出来ず、震える声でそう聞き返す。イアンは益々眉をひそめ、猜疑の目で俺の顔を見据えてきた。


「……ニック。何か事情を抱えてるな? 正直に話せ」


 どうやらタダで情報を聞き出すことには失敗したようである。俺は観念して、イアンとの対等な対話を試みることにした。


「分かった。その代り、君もこの状況について説明してくれ。ここで何をしていたのか、ピリアス騎士会と何の関係があるのか」


「ニックの話次第だ。とりあえず、談話室へ向かおうか。ここは人が多い」


 イアンの言葉にはっとして周囲を見渡すと、ロビーにいる騎士会員達が訝し気な表情でこちらを見ていた。俺が見返すとすぐさま目を逸らすのだが、彼らに怪しまれていることは確実である。



 「客人だ。陸軍関係者で、グループとの親交も深い。談話室は空いてるか?」


 受付に向かい、簡単に俺を紹介するイアン。すると受付の男は頷いて、部屋の鍵をイアンへ手渡した。その後二階へ続く階段を上り、赤い絨毯の敷かれた廊下を進んで行く。俺はイアンの後に続き、期せずして成功した騎士会潜入ミッションの行方に一抹の不安を感じるのであった。

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