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不審

「ナブールにて敵の襲撃を受けました。襲撃グループのメンバーは三名、いずれも契約者です。後程報告書を送付致します」


中央への連絡は俺が担当することになっていた。ちなみに窓口は諜報局であり、尋問室長ホールデンが報告を受け付ける。もちろん、俺を連絡担当に指名したのはホールデンであった。


「やはり来たか……。報告書はいい、ここで説明しろ」


「はい。襲撃者三名はテレポート、重力、そして感知タイプの能力をそれぞれ有しています」


「随分とレアな契約者が揃っているようだな」


「ええ、特に感知系が厄介です。敵の探知だけでなくテレパシー能力も有している。我々の行動は全て把握されているのです。正直今の体制では、王太子妃を守り切れないかもしれない。増援は頂けないのですか?」


「衛兵隊長と相談してみるが、これ以上の動員は難しいだろう。王都の情勢も不安定なものでな。ここ最近ピリアス騎士会の動きが活発化しているんだ」


ピリアス騎士会、ここでも名前が出てきたか。諜報局がマークしているぐらいなのだから、よほど不穏な動きでも見せているのだろう。ランズベリーの話も、単なる噂話として片づけない方がよさそうだ。


「とにかく、援軍はあまり期待するな」


「しかし王太子妃を守れなければ、本計画は意味を成しません」


「そこは、お前の力を使えばいいだろう」


「……何の話でしょうか?」


やはりこの男は、俺の能力に気付いているのだろう。問題は彼がどこまで勘付いていて、俺に何を期待しているかである。


「君には、未来の出来事が分かるんだろう?」


「……」


「詳細を語ってはくれないのかね? できれば諜報局に、全面的に協力してもらいたいのだが」


「……それなら、なぜ私を王太子妃の側近に推薦したのですか?」


少しの間、ホールデンは何も答えなかった。

彼が能力について勘付いている可能性は、当然俺も考えていた。しかしそう仮定したとき、俺をアナスタシアの側近に推薦する理由がいまいち分からないのだ。俺を利用したいのなら、手元に置いておけば良いのではないか。彼の権力をもってすれば、強引に全てを語らせることだって出来る筈である。

しかしここまで、ホールデンは俺を泳がせ続けていた。大した協力も求められていないし、契約について深く追及されたこともなかったのである。


「仕事柄ね、私には人を見抜く目が備わっている。そんな私から言わせれば、お前は頭が切れるタイプではないが、何事も深く思索する癖のある男だ。私が最も苦手とする、実に扱いにくいタイプの人間なんだよ」


「……つまり、どういう?」


「私の手元に置いたところで、お前は全てを話さないだろう。それどころか私の裏をかくような行動を起こすやもしれぬ。もし本当に未来が見えるのなら、私を出し抜くことも出来るだろうからな。お前の存在は下手すると脅威にもなり得るし、上手くすれば最高の取引相手にもなり得る。だから私も全ての手の内を明かさないし、君への追及も控えているのだ」


随分と俺を買いかぶっているようだが、彼の発言が偽りであるとは考えにくい。実に理解しやすい返答である。

ホールデンがいくつもの手の内を隠しているだろうことも、俺は当然理解していた。しかし彼の本当の目的が分からない。更なる強大な権力を手にする為か、それとも何か陰謀を企んでいるのだろうか。


「あなたは一体、何を考えているのですか?」


「私の目的は国家の秩序と安寧を保つこと。すなわちユトダインの生存戦略を、最も合理的な形で推し進めるところにある。私はゲームのプレイヤー、それ以外の人間は全て、目的遂行の為の駒といったところかな」


「それは、諜報局員としての目的ですか」


「……いいや、私個人の目的だよ」


ユトダインの生存戦略。それらしい回答のようであるが、いまいちピンと来ない。全て国家の為を思って行動しているとでも言いたいのだろうか。


「それでは、また何かあったら報告してくれ。これからも頼むよ」


そう言い残し、ホールデンは通話を切断した。俺は受話器を置き、二階のリビングへと向かうべく部屋を出ようとする。


「随分と長話だったわね」


部屋の扉を開けたところで、リリアンがそう声を掛けてきた。もしや扉の前で俺たちの通話を聞いていたのだろうか。


「……そうかな。別に大したことは話してないよ」


「相手はホールデンね?」


「え? ああ、そうだよ」


「あんた、奴と何の繋がりがあるの?」


冷めた声色から、どうやら俺を追及するつもりであることが読み取れる。彼女はホールデンを毛嫌いしているようであったし、当然と言えば当然なのかもしれない。


「別に、繋がりなんて大層なもんは無いよ。彼とは入隊式典の暗殺未遂事件で共闘した。俺はあの事件の参考人でもあるし、そりゃ関わる機会も多くなるさ」


「管轄の異なる諜報局の人間が、わざわざ王室衛兵の人事にまで介入して、あんたをアナスタシアの側近に推薦した。あんた宮殿でもホールデンと電話してたわよね? あんな夜遅くに庁舎へ掛けたとも思えないし、奴の私邸にでも繋いでたって所かしら?」


「……何が言いたいんだよ」


確かにリリアン達へ隠していることもある。しかし俺はホールデンと陰謀を企んでいるわけでもないし、いつだってアナスタシアを守ることを第一に考えている。俺はこれまで、彼女らを裏切るような行為は一度もしていない。


「こっちの台詞よ。ホールデンとつるんで、あんたは何を企んでるの?」


「何も企んでないって。中央の政争にについて情報を貰ったりしてる、それだけだ」


「ナブールのホテル襲撃は? あんたは何で予測できたの?」


「それは……」


「ほらね、やっぱりあんたは何か隠してる」


勿論彼女らには、どこかでちゃんと説明しなければならない、そう思っていた。みんなを騙していた訳じゃない。それにあの時、ナブールへの道中でホテル襲撃の可能性を打ち明けた時、三人は俺の話を何一つ疑わず信じてくれたじゃないか。


「言いにくいことだってあるんだよ。とにかく、君もアナスタシアを守りたいんだったら、黙って俺の言うことを信じてくれ」


「じゃあ示してよ! 信用できることを証明してよ!」


ここまで感情を露にするリリアンを見たのは、これが初めてかもしれない。そこに驚きは無かった。俺は何よりも、彼女に信用されていなかったことに悲しみを覚えていたのだ。そして同時に、俺を理解してくれないことへの怒りが込み上げてくるのを感じた。


「俺の言った通り、実際に襲撃はあっただろう。それに俺だって命がけで戦ってる。一体どこが信用できないってんだ」


「そんなこと分かってるわよ。それでも信用できないって言ってるの」


「意味わかんねえ。ならお前は何でも打ち明けてるのか? 言いたくない話の一つや二つぐらい、誰にだってあるだろうが」


「だったら今聞けば? 何か不審に思うことがあるなら聞きなさいよ。何だって答えてやるから」


「……もういいわ。お前とは仲良くできそうだと思ってたのに。今までずっと、そんな風に俺のこと見てたんだな」


何かを言いかけようとするリリアンを無視して、俺は勢いよく電話室の扉を閉めた。俺を裏切者扱いするかのような彼女の言動に、とても冷静ではいられなかったのだ。

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