敵戦力
時刻は既に午前七時を迎えていた。リリアンも回復したところで、俺たちは今後についての話し合いを始めたのであった。
まずは互いに、敵との戦闘を通して得た所見を語り合った。そこで纏められた襲撃グループの情報は以下の通りである。
・テレポートの男
呼び名はダレン。常にフードを被っている為、その容姿は不明。声のトーンから推察できる年齢は20歳前後。襲撃グループの中核を為すと思われる。空間を自由に移動し、主にサーベルを用いて戦闘を行う。
・重力使いの男
呼び名は不明。身長175~180cm。黒髪の短髪に切れ長の目、体格は細身ながら筋肉質であり、炭鉱労働者の如き風体である。攻撃は二種類、低威力広範囲の足止め攻撃と、殺傷能力の高いピンポイント型の重力攻撃が存在する。
・感知系の少女
呼び名はシャーリー。10~12歳程の少女。セミロングの赤みがかった縮毛が特徴。一度視認した相手の位置を特定できると思われる。またテレパシーの能力を有する可能性が高く、一連の襲撃計画の司令塔を任じていると予想される。
「感知系の女が最も厄介な存在だ。恐らく探知可能域も、かなりの範囲に及ぶのだろう」
敵はこちらの索敵班が感知できない距離から攻撃を仕掛けていた。彼女の感知範囲がどれ程のものかは不明だが、アウトレンジ戦法で攻撃され続ければ対処のしようがない。
「それならサリムの別荘で迎え撃つのが最適だ。遮蔽物の無い、広大な平原が広がっているからな」
ニックの提案に頷く一同。しかしここでリリアンが疑問を呈する。
「ただ、移動中を狙われると厄介ね。ここからサリムまで六時間以上はかかし、できれば到着まで戦闘は避けたい。それに、全てを隠密の内に済ませることもあたし達に課せられた任務だから」
確かに、ナブールからサリムまでの移動が最も懸念すべき問題である。ここまで移動中の攻撃は受けていないが、この先どうなるか分からない。
シャーリーと呼ばれる少女は、テレパシーを用いて俺達の目的地を掴んでいたのだろう。更に予測が正しければ、彼女は現在、俺達全員の思考を読むことが出来る状態にある。彼女は視認した相手の位置を特定し、そして思考を読み、メッセージを伝達することが出来るのだ。先ほどの戦闘で一瞬だけ彼女が姿を現したのは、俺たち全員分の顔を確認する為だった。そう考えれば全て合点がいく。
もしかしたら彼女は今この瞬間も、俺たちの思考を盗み見ているかもしれないのだ。
「確かに道中は危険だ。出来れば敵の監視からは逃れたい。あの少女の探知範囲にも限界はあるはずだから、奴らの追跡を振り切れるくらいの速度で移動すれば何とかなるんじゃないか?」
「でも向こうにはテレポートがいるわ。普通に車で走ったんじゃ意味ないわよ。全速力で走ったってせいぜい時速70キロ程度しか出ないんだから」
「……そこなんだよな」
すると黙って話を聞いていたゴードンが、ある提案を持ち掛けてきた。
「んじゃ、速い車で行けばいいんじゃねえのか?」
「速い車と言ってもねえ、レーシングカーでもあればいいけれど。一体どこから持ってくるのよ」
リリアンが怪訝な表情で首を振る。確かに競技用車でも無い限り、敵の攻撃を振り切れるほどの速度で走るのは難しいだろう。それにレーシングカーは大方二人乗りのものばかりで、この人数を運ぶ為には相当の数が必要となる。
「この人数だったら四人乗りのスポーツカーを四台ぐらいだろう? 多分用意できるぜ」
自信あり気な笑みを見せるゴードン。まさか、この男がそんな高級車を所有しているとでも言うのだろうか。
「俺が持ってるわけじゃねえが、フランツ・ランズベリーに顔が利く。事情を話せば内密で貸してくれるだろうよ。丁度いいことに、俺の知ってる暗殺計画に関する情報もフランツ経由で聞いたものだ。折角だから直接聞いてみたらどうだ?」
フランツ・ランズベリー、よく聞く名前である。むしろユトダイン国民でその名を知らぬ者は殆どいないだろう。彼はランズベリー社という自動車メーカーの創始者であり、また敏腕経営者として経済誌にも度々名の挙がる、言わば財界の著名人であった。
主に上流階級向けの高級車を製造・販売するランズベリー社であるが、近年モータースポーツ界への参入にも力を入れていると聞く。その会長ともなれば、当然スポーツカーの一台や二台所有していてもおかしくはない。
しかし、問題は彼を信用できるかどうかにある。フランツ会長に事情を話したとして、もし情報を週刊誌にでも暴露されたら大変なことになるだろう。
「それはとっても都合の良い話だけど……。信用してもいいのかしら?」
「ああ、彼は信用できる男だ。俺が保証する」
ゴードンはここまで、全面的に俺たちへ協力してくれた。その彼が信用できると言うのだから、頼ってみる価値はありそうだ。それに、万が一の失敗しても過去へ戻ればいい。俺たちには、何度でも挑戦するチャンスが与えられているのだから。
「時間も無いし、ゴードンを信じてみよう。フランツ・ランズベリーのもとへ案内してくれ」




