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数分ほど経ち、サマンサら医療班が到着した。彼女は直ぐにリリアンの治療へ取り掛かる。


「サマンサ、腕は治るのか?」


「状態は酷いですが、捥がれた右腕は残っています。これなら何とか修復できそうですね。応急処置が完了したら屋内へ移動しましょう」


その言葉を聞いて俺は一先ず安心した。並大抵の治癒能力では対処できない程の重症であるが、流石は王国一と呼び声高い医療系契約者である。彼女にかかれば、この程度の負傷も治せてしまうのだろう。



リリアンの心配が解消されたところで、俺の頭にはある一つの疑問が浮かび上がっていた。


(もしや敵は、本気でアナスタシアを狙っていないのではないか)


この疑問は、ホテル襲撃の光景を見て以降常に渦巻いていたものであった。ホテルの光景は、恐らく俺とリリアンが宿泊するはずだった客室のものであろう。前後の状況が分からない以上断言はできない。だがホテル襲撃時の敵は、真っ先に俺とリリアンの二人を狙ってきた可能性が高いのだ。


一度目の王太子宮殿襲撃も今考えれば奇妙な点が多い。テレポートの能力があれば、最初からアナスタシア一人を狙うことも出来たはずだ。しかしロイドが彼女を抱えて逃げた際、奴は深追いする素振りすら見せなかった。


今回の襲撃も同様だ。リリアンを戦闘不能に追い込んだ重力攻撃は、本来ならアナスタシアへ使用すべきものだったはずである。しかし敵は真っ先にリリアンを狙った。その後もアナスタシアを狙うことなく、俺達護衛の人間を狙って能力を行使し続けたのだ。



そしてもう一点、疑問から確信へ変わったことがあった。


(あのシャーリーという少女は、かなり強力な感知系能力を有している)


ホテル襲撃の光景を見た時、あの時は内部に密告者のいる可能性も考えられた。しかし今回の洋館襲撃で、もう一つ可能性が現実味を帯びてきたのである。


すなわちあの少女が、俺たちの行動全てを監視している可能性が濃厚となったのだ。


宿泊先の変更は現地の俺たちによる独断決定であった。中央へは一切報告していないし、情報が洩れる可能性はゼロに等しい。当然ゴードンらキングストンファミリーの密告という線も考えにくいだろう。


にも関わらず、敵は俺たちの居場所を特定し、襲撃を仕掛けてきた。

それに加えてあの少女……。俺の思考を読み、更に脳内へ直接語りかけてきたのである。他人の位置を把握するだけでない、彼女はテレパスとしての能力も有している。


そして最悪なことに、俺の能力が彼女へバレた。誰にも言わないと語っていたが信用はできないだろう。しかし今ここで過去に戻ったとして、彼女がテレパスである以上いずれはバレる。


「フット、それにロイドも。後で伝えたいことがある。リリアンが回復したら四人で話そう」


「ああ、勿論だ。俺も敵については色々思うところがある」


医療班の応急処置が完了したのだろう。未だ傷の癒えぬリリアンの身体は屋内へと運び込まれていった。


「ゴードンさん。ご協力感謝します」


俺は一応、ゴードンへ礼を告げておいた。恐らく敵が退散した要因の一つに、彼らキングストンファミリーの尽力も関わっている筈である。


「王太子妃様から大層な報酬を受け取っちまったからな。それに、おめえらへの協力を主張し出したのはあのガキ共だ。礼ならあいつらに言ってくれ」


ゴードンの指さす方向へ目を向けると、三人の少年が気まずそうにこちらの様子を伺っているのが見える。この洋館に到着した際、暴言をもって俺たちを迎えてくれた少年達である。


「君たち、助かったよ」


「他所モンに借りを作るなって、ボスに教わってるからな」


リーダー格の少年がぶっきらぼうに言い放つ。


「借り? 何のことだ?」


「俺たちの無礼を見逃してくれた。ロイドさんも、あの女も。これで貸し借り無しだ」


「ああ、あの時の話か」


ゴードンに問い詰められた時、リリアンがさり気なく少年達を庇っていたのを思い出した。まさかそんなことを気にしていたとは……。


「あの女は?」


「リリアンのことか? きっと大丈夫だ。命に別状は無いだろう」


「なら良かった」


少年の表情に安堵が見えた。スラム育ちの悪童とは言え、本質は他と変わらない、只の子供なのだろう。


「そういやさっき四人で話すとか言ってたよな? その会話、俺も混ぜてくれねえか?」


ゴードンが思い出したように口を開いた。俺とフットは戸惑いながら、無言でお互いに顔を見合わせる。


「王太子妃様の暗殺計画について、最近面白え情報が耳に入っていてな。噂程度の話だが、何か手がかりになればと思ってよ」


「なるほど……」


恐らく裏社会の人脈から得た情報なのだろう。

雑誌や新聞などのマスメディア情報は国家の検閲を介している為、王室に関する過激なスキャンダルや裏情報は載せられない。そこで、こうした裏社会の実力者による情報は、貴重な手掛かりとなり得るのだ。

民間右翼や秘密結社、そしてギャング集団を束ねるトップの人間は、政界や財界に良く顔が利く。彼らは個人的な情報ルートをいくつも有しており、時に選挙の得票率や株価の動向へ作用を及ぼすことすらあるのだ。



その後俺達はリリアンの回復を待った。サマンサの能力をもってしても、彼女の治療には相当の時間が掛かるようである。額に汗を滲ませながら、サマンサは必死の形相で治療を続ける。治療は数時間にも及んだ。ようやくリリアンが目を覚ます頃には、既に朝日が顔を覗かせていた。


「……あんた達、ずっとそこにいたの?」


まだぼんやりとした顔つきで周囲を見渡すリリアン。そんな彼女の右手を、アナスタシアが握りしめる。


「リリアン、感覚はどう? ちゃんと動く?」


「……ええ、大丈夫みたい。サマンサがやってくれたの?」


当のサマンサは椅子に寄りかかり、すっかり眠り込んでしまっていた。長時間に及ぶ能力の行使に、体力を消耗したのだろう。その寝顔はまるで女児そのものであるが、これでも彼女は俺より年上の女性なのである。


「ああ、夜通し治療を行ってくれた。起きたら礼を言っといてくれ」


「……不甲斐ないわ。側近失格ね、あたし。みんなにも迷惑かけて、本当にごめんなさい」


「運悪く君が最初に狙われた、それだけだ。あんなの誰も避けられっこない」


「……ニック」


目を伏せ、淀んだ表情で俯くリリアン。責任感の人一倍強い彼女は、こうした出来事も自身の不手際と捉えてしまうのだろう。特にアナスタシアが絡むとなると、彼女はより責任を強く感じてしまうのだ。


「リリアン、貴方が無事でよかった。本当に……」


そう言って、リリアンを抱きしめるアナスタシア。その瞳には涙が浮かんでいる。


「……ごめんなさい」


「謝らないで……ね」

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