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攻略法

「うえええええ~」


道路脇の側溝へ嘔吐するリリアン。流石に彼女が可愛そうなので、俺は少し離れた場所で景色でも眺めようと思った、のだが……。


(上書きか……)


場所はホテルの一室であるようだ。恐らくこれから向かおうとしている、ナブールのホテルなのであろう。視点の低さを考慮するに、どうやら俺はうつ伏せで床に倒れ込んでいるらしい。前方に見えるのは同じく横たわるリリアンと、彼女の身体へサーベルを突き立てる全裸の男……。彼女恐らくの身体から流れ出たであろう血だまりが辺り一面に広がっている。


「さて、どうするか……」


宮殿で過ごした一週間、俺は何もせずに、ただアナスタシアとの会話を楽しんでいたわけでは無い。俺の有する能力『上書き』の使いようについて、日夜思考を巡らせていた。


その結果、俺はとある一つの結論に辿り着いた。


『この能力を有効活用するには、先読みと事前準備が必要である』


という結論である。

すなわち、能力は計画的に使うべきである、というわけだ。


この能力は、経験したであろう未来の記憶を引き継ぐことが出来ない。ただ一つだけ、過去へ戻る直前に見た光景のみが引き継がれる。


つまり過去へ引き継げる情報量があまりにも少ないのである。脳裏に過る上書きの光景を見たところで、下手すると何の情報も得られず、再び同じ未来を繰り返す可能性すらあるのだ。


そこで俺は考えた。あらゆる未来の可能性を何パターンか予測して、それぞれに対策を講じてはどうだろうかと。


例えば今回のサリムへの避難。その道中で暗殺者に狙われる可能性は、もちろん十分に考えられる。しかしこのサリム避難計画の詳細は、重臣会議のメンバーを含めた内部の人間しか知り得ないはずである。


にもかかわらず、未来の俺たちはホテルの一室で暗殺者に襲われた。もし俺が過去に戻らず、ホテルでの襲撃が明るみに出たとすれば、内部の人間が情報を流したことを疑われるのは必至である。重臣会議のメンバーはもとより、諜報局及び王室衛兵の動向は徹底的に調査されるだろう。


そんなリスクを冒してまで、内部の人間が情報を流すだろうか? いいや、そうは考えにくい。


以上の考察を経た結果、俺は何かあった時、王都出発後の道中に戻ろうとあらかじめ決定しておいたのである。



『もし敵が俺たちの動向を把握していたならば、それは密告者の仕業ではない』


つまり、


『上書きの光景がサリム移動中の敵襲を示すものであれば、敵は何らかの形で俺たちの動向を把握できている』


そう仮定した場合、俺たちの取るべき行動は、


『出来るだけ有利な環境で、敵襲に備えること』


こうしてあらかじめ決めておいた筋書きに則り、俺はこの時間に戻ってきたわけだ。リリアン、ロイド、アナスタシア。最も信頼できる三人の仲間なら、俺の言うことも信用してくれるはず。こうした期待もあり、出発後の道中へ戻るのが望ましかったのだ。


それでは未来の光景を見たうえで、現状考えられる可能性を挙げていこう。


まず、ホテルへ向かうのは危険である。上書きの光景に現れたリリアンの姿を見る限り、ホテルで戦闘が発生したことは確かである。そして、結果彼女は殺されている。俺とリリアンだけでは対処しきれない可能性が高い。


次に、暗殺者はある程度の集団で活動していると見るべきである。少なくとも、感知系の契約者が存在する可能性は考慮に入れなければならない。宮殿襲撃時にピンポイントでアナスタシアの寝室を狙えたのも、感知系能力の仕業であるかもしれない。


そして最後に。敵は俺たちの移動中を狙わない可能性が高い。上書きの光景はホテルの客室のものであった。このホテルの光景がナブールのものであるならば、到着まで六時間余りもの間、敵は襲撃を仕掛けてこなかったと考えられる。

またリリアンに突き立てられたサーベルは、宮殿襲撃時にテレポートの男が持っていた物と同一であった。恐らくホテルでの襲撃もテレポートの男が主体となっているのだろう。一度リリアンの能力を見ている彼が、大技を使えないホテル滞在時を狙ったと考えれば合点がいく。


『敵は複数名いて、俺たちの動向を把握している。そして敵は狭い空間、それも民間人が密集している空間で戦いたがっている』


俺たちは、その逆を突けばいいのだ。


しかし問題はここからである。三人が俺の言うことを信用してくれて、フットら他の衛兵を納得させ、完璧な条件下で敵と戦闘を行う。全ての運命は俺の行動にかかっているのだ。

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