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同盟派と王統派

ホールデンから渡されたメモ用紙は、王統派・同盟派の人物リストであった。

非常にざっくりとした内容だが、両派閥の構成は次のようなものであるらしい。


(同盟派主要人物)

首相:マルコム・ラマナン伯爵

外務大臣:トレヴァー・サザーランド男爵

陸軍大臣:クリス・マッキントッシュ大将

陸軍軍事参議官:ラルフ・ジョーンズ大将

枢密院議長:カール・リットン伯爵

貴族院議員、自由党副総裁:ラッセル・ブロムリー侯爵

庶民院議員、民友党所属:ベイジル・サッチャー

ユトダイン筆頭貴族:チャーリー・ダンバース公爵


(王統派主要人物)

王室:ランカスター第二王子

内務大臣:ベネディクト・ランプリング男爵

庶民院議員、自由党所属:アルガーノン・ジョーンズ

庶民院議員、民友党所属:ロビン・テリー

庶民院議員、民友党所属:リチャード・フレデリック

庶民院議員、無所属:クリス・スタウントン

外務省情報部長:クリス・クレイグ

陸軍省庶務課長:ジャック・ブル

陸軍参謀本部ヘルト班長:ヘンリー・モロイ


(王党派を自称せし一部将校及び過激団体)

ピリアス騎士会長:アーネスト・ラドクリフ

ピリアス騎士会員:ガブリエル・バーンズ

陸軍第3連隊第6中隊長:バーキン・ラングリー中尉

陸軍歩兵第1連隊付:スタンリー・プロクター中尉



同盟派は主に、政府中枢の貴族連中によって構成されているのだろう。対する王統派は庶民院議員若しくは各省の部課長が中心となっている。そして、自称王統派の一部将校。彼らの名は学校時代にもよく耳にしたが、まさかピリアス騎士会が絡んでいるとは思いもしなかった。


ピリアス騎士会とは、王都を中心に約1500名の会員を有する秘密結社である。もちろん活動内容の実態は明らかになっていないが、元は鉄道会社の労働組合から派生したものであるらしい。その主張は国家社会主義体制への移行とも、或いは社稷国家、すなわち農業国への回帰であるとも囁かれている。また主要刊行物である月刊誌「ユートピア」は、主に王都の労働者を中心に購読層を広げる人気雑誌でもあった。


俺はメモ書きを凝視して、各陣営の構成員把握に努めていた。ホールデンの話が本当なら、この中にアナスタシア暗殺計画を企む者がいるかもしれない。


「ニック、ちょっと来てくれないかな?」


隣室からアナスタシアの声が聞こえた。俺は用紙を懐にしまい込み、何気ない風を装って彼女の部屋へ入る。


「どうした?」


「あのね、国史の課題で分からないところがあるの。少し教えてほしくて……」


彼女は元ヘルト帝国の皇族である。現王太子妃とは言え、彼女にはユトダイン式の教育が必要であった。ヘルトとユトダイン、両国を隔てる言語の壁はさほど高くない。しかし宮廷儀礼や伝統文化、そして当然国史には明確な違いが存在するのだ。それに彼女はまだ17歳、貴族の娘であれば女学校に通う年齢である。その為彼女は宮殿内の学問所にて、公務の無い日は女子高等教育を施されているのであった。


「高等教育レベルだとなあ。俺も分からないかも」


「でも、ニックは陸軍の学校を出てるって聞いたわ。きっと分かると思う」


「そうかなあ。一応見てみるよ」


俺は彼女の使用する教科書を手に取った。開かれたページには、つい五十年前の国史に関する説明が記されている。近代化過程における立憲君主制移行とその課題。これなら学校で学んだ程度の内容だ。そして同時に、この内容を彼女に説明するのは気が引ける……。


ユトダインとヘルトの歴史的関係は極めて密接である。そもそもユトダイン王国の近代化は、ヘルトの急速な発展と産業革命、そして領土拡張政策に対抗する形での出来事であった。現在まで続くリーガル地方の領土問題に加え、植民地を巡る散発的な戦闘も度々発生しているのだ。


「うーん……。難しい内容だな……」


「気を使わなくていいよ。私も今はユトダイン王室の一員、ヘルトとの外交関係もしっかり学ばないといけないもの」


彼女の表情は真剣であった。ユトダインの王族として生きる決意が、そこには確かに存在した。


「そうか。それなら……」


俺の拙い説明にも、彼女は積極的に頷いてくれた。真面目な性格なのだろう。授業範囲外の内容に関しても、気になる点は随時質問をしてくれる。こちらとしても教えがいがあるし、何よりこんなにも至近距離で彼女と交流できることが、俺にとってはこの上ない幸せであった。


「ありがとうニック。お時間取らせてごめんなさい」


「全然! むしろこっちも楽しいよ。人に教える機会なんてそう無いから」


「それなら良かったわ。お勉強は嫌いじゃないけど、一人の時間は少し寂しいから」


「課題、終わったんだろ? 少し駄弁ろうぜ」


こう言うと彼女は決まって、心からの笑顔を見せてくれるのだ。リリアンも話していたが、彼女には気軽に話せる友人がいない。同年代の話し相手がいれば、少しは心も安らぐのだろう。


「そういえば、アナスタシアはヘルトにいた頃に、仲のいい友達とかいなかったのか?」


「うん、いたわ。とっても仲良くしていた子が一人。そういえばニックと同い年の男の子だったかしら」


「やっぱり、皇族とか貴族の家の人なの?」


「うん。貴族の家の子だったわ。でも私がこちらへ来る直前から、全然会えなくなってしまって……。見送りにも来てくれなかったの」


「ええ、そうなのか?」


さてはその男、アナスタシアに惚れていたのでは? 余計な邪推を口に出しかけて、俺は慌ててその言葉を押し戻した。何度も自分に言い聞かせているが、相手は王太子妃である。仲良くしてもらってるとはいえ、少しは発言に気を付けねばならない。


「何か事情があったんだと思う。私も色々と忙しかったし、あの時は帝国中が大騒ぎだったから」


少し切なげな表情を見せながらも、彼女は遠い思い出を懐かしむかのように宙を仰ぐ。


「君とは比べ物にならないだろうけど、俺も故郷を離れるときは寂しかったな」


「ニックは12歳で軍の学校に入ったんだもんね。私なんかより大変よ」


義務教育を終えた後、俺は故郷を離れて王都の幼年学校へと入学した。しかし今思い返してみれば、その時は寂しさより緊張が勝っていたようにも感じる。もちろん休暇中は村へ戻り、両親とも顔を合わせていた。


「家に帰るとさ、父さんが猟銃を持ち出して、必ず俺を山へ連れ出すんだ。こっちは疲れてるのにさ。どっちが多く獲物を狩れるか勝負しようって」


「ニックのお父様は、猟師をやっていらしたの?」


「母さんと結婚するまではね、マタギだったんだと。それで色々揉めたらしいけど」


「そうだったのね」


「でもお陰で不作の年も食うに困らなかったな。シカなんて一頭獲れれば半月は持つし」


「すごいよ。私も狩猟はやったことあるけど、弾なんてかすりもしなかったわ」


「あはは、そんなもんさ。今度機会があったら教えるよ」


「いいの? 落ち着いたら山にでも行きたいわ」


こんな風にして、護衛の時間はあっという間に過ぎて行くのである。


「ニックといると飽きないわ。貴方が来てくれて本当にうれしい」


彼女の無邪気な笑顔は、同年代の少女が見せるそれと何ら変わりない。そこには皇女としての姿も、王太子妃としての姿も無く、ただ一人の少女の喜びが表現されている。ただ、それだけなのである。

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