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演習

広大な庭園の一角に、戦闘訓練用の簡単な広場が設置されている。巨石やコンクリートの障害物が点在する、単独戦闘を想定した演習場であるようだ。全力で戦えるような広さは無いが、ある程度の訓練は行えるだろう。


俺たちはまずお互いの戦闘スタイルを知るために、一対一の模擬戦闘を行うこととなった。リリアン曰く、俺の戦闘力をテストする目的でもあるらしい。手合わせをするのは俺とリリアン。彼女は手加減無しで掛かると息巻いている。


「それじゃあニック、準備して」


リリアンは何の装備も持たず、先ほどと変わらないワンピース姿で広場に立つ。


「え、君はいいのか? その恰好じゃ」


「何考えてんの? ちゃんと下履いてるわよ」


「いや、そうじゃなくて……」


まあ、武器を必要としないタイプの契約者なのだろう。俺は鞄から演習用の武器を取り出した。木刀に模擬弾入りのピストル、ゴム入りのショットガン。他にも陸軍将校のつてで手に入れた試作兵器があるのだが、こいつは演習では使えない。


「準備完了だ。いつでもいいぜ」


するとホイッスルを咥えたロイドが立ち上がり、勢いよく息を吹き込んだ。甲高い笛の音が、戦闘開始の合図を告げる。


(一気に片付けよう)


まずは発煙弾を投げ込む。瞬く間に煙幕が広がり、相手の視界を遮ることに成功した。こちらから相手を視認することも困難となるが、その点は問題ない。動体視力と反射神経には相当の自信があるのだ。


煙幕の隙間から見えた人影に、俺はショットガンを打ち込んだ。しかし反応が無い。ゴム弾とはいえ威力は絶大だ。命中すれば、間違いなく声を上げるはずなのに。


一旦障害物の裏に身を隠し、銃器をピストルに持ち替えた。彼女の能力は依然不明である。しかし中距離から仕留められないなら、無理やり近接戦に持ち込むしかない。


とその瞬間、視界の端にリリアンが飛び込んできた。俺は即座に銃口を向け、間髪入れずに引き金を引く。


カキンッと乾いた衝撃音が響いた。確かに命中したようだが、彼女はそのまま一気に距離を詰めてくる。まるで効いていないのか。俺は慌てて木刀を構え、駆け寄る彼女めがけて振り下ろした。


またも不自然な衝撃音が鳴り響く。彼女は左手で刀身を受け止めていた。まさか、素手で受け止めたのか……。


「くそッ!」


相手の右拳が俺の腹部にめり込んだ。同時に俺も模擬弾を二、三発お見舞いする。俺の身体は後方へ吹っ飛ばされ、彼女はその場で仰向けに倒れ込んだ。


すぐさま立ち上がろうと身体を動かすが、腹部に激痛が走る。どうなってんだ。あの一撃に大した威力は感じなかったのに。俺は四つん這いの格好で、視線を自身の腹へ向けた。殴られた箇所を中心に血が滲んでいる。そういえば妙な感触だった。彼女の拳が、まるで岩の様に固かったのだ。


俺は地面に転がる木刀を掴み、よろめきながらも何とか立ち上がった。リリアンはまだ倒れたままである。チャンスだ。ここでもう一発食らわせれば、なんとか行けるかもしれない。


その時であった。突然周囲の空気が冷たくなり、俺を覆い隠すように氷の幕が発生したのである。


「なんだ……こりゃ……」


氷の幕はあっという間に俺を包み込み、次第に層が厚くなってゆく。俺は慌てて木刀を叩き込んだ。しかし上手く力が入らず、行く手を阻む氷壁は一切砕けない。

腹部のダメージが尾を引いているのだ。俺は再度木刀を振り上げた。すると周囲をドーム状に覆っていた氷壁から、無数の氷柱が出現した。その鋭利な先端が、勢いよく俺の方へと伸びてくる。


「おい! まじかよ! 殺す気か!?」


串刺しにされる寸前で、無数の氷柱が砕け散った。同時に俺を覆っていた氷のドームも砕け散り、目線の先にリリアンの姿が現れる。


「……こんなもんかしら」


苦笑いを浮かべるリリアン。どうやら彼女もダメージを追っているようであった。先ほどの銃弾を防げなかったのだろうか、左腕をだらりと垂らし、眉をひそめながら肩を押さえつけている。


「なるほど、氷を生成する能力か。どうりて……」


俺は一気に気が抜けて、その場でへたり込んでしまった。


「お二人ともやりすぎです。只今医療班を呼んでおりますので、しばしお待ちを」


ロイドが困った表情を見せながら俺を抱え、演習場の外へと運び出す。アナスタシアも、不安げな様子でリリアンへと駆け寄った。

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