第98話 突破
一斉に、一点に向かって動き出す第599任務部隊の各艦。
その動きに、鈍重な惑星間弾道ミサイルは追いつけない。
「ターン終了まで12秒!」
転進を行っている間は、強烈な遠心力がかかる。
さすがに重力制御を行っているとはいえ、制御しきれないものもあるだろう。
「ターン終了3秒前!2、1、ターン終了!」
猛烈な遠心力から解放される乗組員。
そのまま作戦通りに、超出力レーザー光線砲に向かって全速前進する。
「目標まで25光分!」
「各艦、増速開始!機関が焼ききれるまで回せ!」
そういってそれぞれの艦が、速度をあげる。
宇宙では空気の抵抗などがない。あるとすれば、重力の影響くらいだろう。
そのような理由から、加速し続ければどこまでも速度を上げることができる。
当然、速度が増すということは、相対性理論の観点から見れば自身の重量が大きくなるということだ。
そのため、無限に加速することはできないし、光速の壁もある。
もちろん、この距離をワープで飛び越える方法もある。
しかし、彼らが使うワープ方法は、空間を切り取るという方法だ。テニスコート一面に広げた布から、1平方センチメートルの領域を切り取り、その隙間を埋めたとしても、全体に大きな影響は出ない。
しかし、これと同じことをハンカチでやってみるとどうなるだろうか。当然、テニスコート分の布より大きな影響が出るだろう。
これと同じことが短距離ワープでも言える。空間を切り取り、ワープ先で貼り付けたとしても、強い空間の歪みが発生して予期せぬ事態が発生する。
予期せぬ事態というものを具体的に挙げることはできないが、少なくとも、空間にねじれが発生し、ブラックホールよりも残酷な事態が発生するかもしれない。
そのため、1光年以下でのワープは禁止されているのだ。
要するに、25光分程度の距離なら、無茶を言わせて加速したほうが安全であるということである。
「敵との交戦領域まで、あと9時間!」
「向こうの装填時間との戦いだな……!」
「機関出力上昇、もっと回せ」
「しかし機関長!これ以上は最悪過熱で爆破するかもしれませんよ!?」
「百も承知だ。だが、ここで遅れをとれば、被害はより大きくなるだけだ」
機関出力115%から、さらに上昇させる。
そのまま超高速で、第9惑星の横を通り過ぎた。
「惑星間弾道ミサイル回避成功!」
「よし、あとは第7惑星に向けて突撃するのみ!」
その瞬間であった。
艦隊の最外縁部にいた艦が、1隻爆破する。
「な、なんだ!?」
「エネルギー反応確認!敵の超精密狙撃と思われます!」
「くそっ、こっちも加速しているから、狙撃が当たった時のエネルギーはすさまじいものになる……!」
速度が速ければ速いほど、その物体の持つ運動エネルギーは大きいものになる。
そんな所に、速い物体が衝突したらどうなるだろうか。
当然、簡単にぺしゃんこだ。今回はビーム砲であるから、厳密に言えば少し違うのだが、理屈はおおむね同じだ。
「この距離だ、まともに狙ったとしても、命中する確率は低い。全艦散開せよ!とにかく当たらないようにするんだ!」
指揮官の号令により、第599任務部隊は距離を空ける。
依然、加速は続けて行われ、光速の15%になろうとしていた。
その間にも、狙撃は続けられる。
しかし、どんなに精密な狙撃をしたところで、限度というものがある。
そのため、特に損失を被ることなく、接近することに成功した。
「レーザー光線砲まで、あと1時間!」
「全艦減速開始!攻撃準備!主砲を敵砲台へと向けろ!」
減速を開始する第599任務部隊。
それと同時に、各種観測機器が敵のことをとらえる。
「目標周辺に多数の艦艇確認!ラサイド連邦軍と思われます!」
「各艦、目標を設定!目標補足次第攻撃開始!」
各々が敵を確認、識別する。
そして、攻撃を開始した。それと同時に、ラサイド連邦軍も攻撃を開始する。
しかし、この距離でもまだ遠い。
そのため、互いのビームが交錯しているように見えるだろう。
「くそ、まだ遠いか……!」
指揮官は強く歯ぎしりする。
その時だった。
「指揮官!目標のX線の放出量が減少していってます!」
「なんだと!?それじゃあまるで……」
「先ほどのレーザー光線が発射されるようですね」
いつの間にか艦橋にいた男。
それは――。
「ドレイク大尉……」
ドレイクであった。
患っていた適応障害を克服し、今こうして前線にいる。
「事情は分かっています。X線の減少が、アレの発射のタイミングでしょう」
「しかし確証はないぞ」
「もちろんです。しかし、巨大とは言っても、通常の砲や機関の作りと似ているでしょう」
「というと?」
「ギャリオ帝国からのデータを読みました。ブラックホールから効率よくエネルギーを取り出す。しかし、いつまでもエネルギーを取り出し続けるでしょうか?」
「……いや、エネルギー飽和によって、外部に放出されるのがオチだ」
「つまり、X線が放射されるのは、過剰なエネルギーをため込まないための逃がし弁があるということでしょう」
「なるほど、一理ある。しかし、それがなんだというのだね?」
それを聞いたドレイクは、少しニヤリとした。
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