第96話 ミサイル
その報告を受けた指揮官は、頭を抱える。
本来ガス惑星だったものが、マイクロブラックホールとして存在し、しかも兵器に転用されていたからだ。
「うぅむ。我々もまだ技術として到達してはいないものの、ブラックホールを使う研究はしている。しかしラサイド連邦、ひいては亡命国家のほうが、先に技術を確立させていたということか」
「指揮官、これは重大な懸念要素です。一刻も早く排除するべきかと」
「しかし待て。ブラックホールの扱いを誤ると宇宙そのものが崩壊する可能性があることを忘れてはならないぞ」
「しかしだな。これは我が共和国のみならず、ギャリオ帝国とミューシャ王国も巻き込んだ、大騒動になる。我々第599任務部隊だけではなんともならないぞ」
旗艦の指揮所では、レーザー光線砲の対処方法について、議論が交わされていた。
結局、結論が出ずに時間ばかりが経過する。
それに合わせて、第599任務部隊はゆっくりと、確実にティツナ星系に接近していた。
「指揮官、第9惑星までもうすぐ15光分です。ラサイド連邦の標準的なレーダー探知なら範囲内です。なるべくなら早めの結論を」
そう通信員が指揮官をせかす。
「分かっている。分かってはいるが……!」
そう、ブラックホールという、一部現代物理学が適用されない現象はかなり厄介なのである。
先述したように、ペンローズ過程によってエネルギーを取り出せば、それをいろいろなことに利用できるだろう。
事象の水平線を超えれば、光さえ脱出不可能な領域があるだけで、近づくことをためらうはずだ。
そして、ブラックホールに吸い込まれた情報がどうなるかも、まだ現代物理学では解明されていない。
そのようなわけであるから、ブラックホールの扱いには細心の注意が必要なのである。
そのため、破壊を強行しようとすれば、周辺の構造物はおろか、ブラックホール本体にも影響が出てくるだろう。むやみに攻撃するわけにもいかないのだ。
第599任務部隊の指揮官が逡巡していると、通信員が声を上げる。
「指揮官!第9惑星から大型の飛翔体を多数確認!惑星間弾道ミサイルと思われます!」
「艦内量子演算コンピュータの解析出ました!我が艦隊に最接近します!」
「数1万超え!すべて撃墜できません!」
次々と入ってくる、決して良いとは言えない報告。
指揮官は決断を余儀なくされる。
「私の考えでは、ブラックホールに攻撃をしても、何ら影響はないはず。よって全力で攻撃を行う!艦隊、最大戦速!」
第599任務部隊は、ある程度の距離を保ちながら、ティツナ星系へと突入する。
「惑星間弾道ミサイル群、まもなく10光分!」
「全艦、主砲発射!弾道ミサイルを迎撃せよ!」
艦隊から、無数の光が放たれる。
それは宇宙空間を直進し、弾道ミサイル群と交差する。
初撃で2割ほどを撃破した。
「次だ!対宙クラスターミサイル発射!」
各艦から、大型のミサイルが発射される。
そしてそれは、弾道ミサイルと同様に面に広がっていく。
十分に広がった所で、子弾を発射してさらに圧倒的な弾幕を実現する。
子弾に使われている弾頭は、爆発の規模が大きいG455弾薬。そして宇宙空間という特性上、有機地生体が使えるほどの弾頭では衝撃波が発生しないため、加害力を向上させるために破片が含まれている。
これによって、弾道ミサイルを効率的に屠るのだ。
「惑星間弾道ミサイルの数、残り7000!」
「クソッ、これでも数は減らないか……」
指揮官は、こぶしを強く握る。
しかし、すぐに気持ちを切り替える。
「主砲射撃継続!」
「撃て撃て!弾幕を途切れさせるな!」
指揮官の指示通り、主砲を射撃し続ける。
すると、弾道ミサイルのほうに変化が見られる。
「指揮官!弾道ミサイル群の軌道が変わりました!」
「どういうことだ?」
「我々の艦隊を取り囲むように変化しています」
そういって、レーダー員は主モニターに映像を回す。
艦内量子演算コンピュータの軌道計算によると、弾道ミサイル群は第599任務部隊を外側から追い込むように、ドーナツ状に変化していた。
「何かの狙いでしょうか?」
「それはあり得るが……。各艦に通達、それぞれに撃破すべき弾道ミサイルを設定!散開した状態で弾道ミサイル群を迎撃せよ!」
残り6500近くの弾道ミサイルを、各艦が受け持つように設定する。
一隻あたり複数の弾道ミサイルを受け持つことになるが、最初からすべての迎撃は困難と言われているのだ。それなら特攻同然で攻撃するほうがいいだろう。
「各艦に弾道ミサイルの割り振り完了!」
「弾道ミサイル残り6000!迎撃できるか……?」
「すべて迎撃しなくてもいい。あとで高機動による回避を行う。惑星間弾道ミサイルの鈍重さはよく知られているからな」
その時、あるレーダー員がある変化に気が付く。
「指揮官!第7惑星周辺のX線が減少しています!」
「なんだと?一体どういう――」
そこまで言いかけた指揮官の目に移ったのは、光の柱であった。
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