第95話 提供
第13艦隊所属の第219巡航艦隊は、戦時編成によって、第599任務部隊に配属され、前線を駆けていた。
第599巡航艦隊の目的は、とにかく前線を押し上げることである。
ラサイド連邦は、先の銀河戦争の停戦条約によって、軍事力を落とされた状態だ。
違法に製造された軍事力が存在するとはいえ、その戦力差は圧倒的である。
そのため、ラサイド連邦は後手後手の対応をとらざるを得ない。
そういったことから、ラサイド連邦は国境の遥か後方に軍を展開させ、宇宙軍の壁を作り上げた。もう少し詳しく言うと、ラサイド連邦の各星系すべてに軍を展開させ、これ以上の侵攻を食い止めようとするのが狙いである。
しかし、これは愚策とも呼べる作戦だ。
第599巡航艦隊が制圧した星系は12にもおよび、それらはすべてラサイド連邦軍がいない地域である。
そして、その星系にラサイド連邦軍が向かったとしても、後衛の担当をしている工作隊が防衛を行っているのだ。
防衛陣の構築には力を入れており、ラサイド連邦軍の一部隊程度は簡単に追い返せる程である。
そのため、ラサイド連邦軍は領地を回収することができずに、撤退を余儀なくされている状態だ。
穴が空いた所を埋めるような行動では、あふれ出る水に対処しきれないということである。
「なんだか楽勝だね」
フクオカがそんなことを言う。
「確かになぁ。ここまで連邦軍と鉢合わせることなんてしてなかったし」
「それが作戦だからね。私たちの作戦は『とにかく陣地を占領して前進せよ』だから、しょうがないと言えばしょうがないよ」
「けど前進しすぎて後方が間に合うか分からないよね……」
「それもそうだな」
第599巡航艦隊は、速度でもって前線を押し上げることを主任務としている。
そのため、総司令部からの命令は「前線を押せるだけ押せ」となっているのだ。
その命令を忠実に守っている第599任務部隊は、すでに開戦3日で国境から460光年の所をひたむきに走っていた。
「しかし、後方からの連絡によると、ラサイド連邦は軍を壁のようにして展開している節があるな」
「ギャリオ帝国のような、潤沢な軍事力を持っているのなら分かるが、今のラサイド連邦では可能なの?」
「アタシとしては不可能だと思うよ。どう考えたって穴が空くし、塞ぎに行ったとしても挟撃されるからね」
「フクオカの言う通りだな。残念だけど、ラサイド連邦軍にはもう少し翻弄されてもらったほうがいいだろ」
そんな雑談ができるほど、第599任務部隊は余裕の状態である。
圧倒的な機動性で次々と星系を占領していく第599任務部隊。
問題が発生したのは、とある恒星系にたどり着いたときであった。
「指揮官!次の占領地であるティツナ星系ですが、何か様子が変です」
そう観測員が報告する。
「様子がおかしいというのはどういうことだ?」
「現在ティツナ星系まで340光分の所なんですが、超広域索敵で得られたデータが地図と異なっているんです」
「索敵にミスがあった可能性は?」
「ありません。すでに4人の観測員によってそれぞれ観測しましたので」
「なら地図が間違っている可能性も考えられるが……」
「現在ロクシン共和国で使用している地図は、前回の銀河戦争終結時に我が国で測量した地図を使用しています。信用に値するものだと断言できます」
「うぅむ……とにかく、光学で確認できる所まで近づいてみよう。話はそれからだ」
そう第599任務部隊の指揮官が話す。
圧倒的な速度で、第599任務部隊はティツナ星系外縁部までやってくる。
ここまで来れば、光学装置を使って観測ができるだろう。
早速複数の観測員が、それぞれの道具を使って、索敵の違和感を探し出す。
すると、ある観測員があるものを発見する。
「これは……!」
その情報はすぐさま指揮官に伝えられる。
「ガス惑星領域だと?」
「はい。本来、第7惑星はティツナ星系最大のガス惑星のはずなんですが、それが一切なくなっているんです」
「消失したということか?」
「いえ。重力波観測によりますと、第7惑星に相当する物体があることは間違いありません」
「一体なんなんだ……?」
そこに、データ処理班が合流する。
「観測したデータすべてを統合して分かりやすくしたものです」
そういってホログラムが投影される。
「この画面の中央に、ガス惑星が存在するはずです」
「……何もないように見えるが?」
「確かに肉眼では見えにくいでしょう。しかし、これにとある画像処理を施すと……」
すると、画面が真っ黒になる。
しかし、その中心にほんの小さい白い点があるのが分かるだろう。
「たった3×4ピクセルの小さな点です。データ処理班は、この点がガス惑星であることを確信しました」
「ただの点だぞ?どうしてそう言い切れる?」
「それは、この方説明いただきましょう」
そういって入ってきたのは、通信班の人間である。
「先ほど、共和国総司令部経由でギャリオ帝国から情報提供がありました」
そういって、先遣隊と遭遇した超出力レーザー光線砲の情報がもたらされる。
「データから考えるに、ガス惑星はマイクロブラックホールにされたと考えるのが自然です」
「なるほど……。ブラックホールを使った兵器に転用された可能性がある、と」
そうデータ処理班がうなずく。
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