第90話 外交
大統領は重い口を開いた。
「……分かりました。そちらの陣営に参加します」
それを聞いた周りの関係閣僚や事務員らは驚く。
「大統領、そんな簡単に言っていいんですか?」
「中立国であるミューシャ王国がギャリオ帝国と手を組むと言っているんだ。ここで孤立するのは後で大変な事になる。それに、ミューシャ王国からは多くの技術供与を受けている。恩を仇で返すのはいただけないだろう」
「閣下は素晴らしい判断をしていらっしゃいますね」
そういって王太子はにっこりと笑う。
その笑顔は、大統領にはまるで悪魔的に見える。
「では、このことはくれぐれも内密に。よろしくお願いしますね」
そういって今回の会合は終了した。
この後は事務官級の話し合いが行われる。
しかし、これはあくまで表面上の、貿易関係の会合ということになっている。真相は今後の三ヶ国の行動についてだが。
こうして機密の会合を終了したミューシャ王国は、そのままギャリオ帝国を経由して帰国の途に着いた。
その後の動きはかなり早かった。
まず、ギャリオ帝国軍が調査目的として、宇宙軍と陸戦隊を銀河中心部に派遣することを公表する。
ギャリオ帝国は、あくまで公的な調査であるということを強調した。
『現在、銀河中心部には謎の国家的組織がいるとの噂が絶えないが、それを払拭するためにも、公的に調査をする必要がある。もしそのような組織が存在するのならば、国家として了承していないため、即刻解散するべきである』
そういって、ギャリオ帝国軍は銀河中心部へと進出する。
これまでにも、銀河中心部への調査はいくつか行われてきたが、どれも失敗に終わっていた。
それは、予測不可能なほどの磁気嵐やブラックホールの分布など、多岐に渡る。
そのため、亡命国家の存在はあくまでも噂でしかなかった。
しかしそれは、最近のミューシャ王国の観測によって間違いではないかとされている。
その亡命国家がラサイド連邦と何かしらの関係があるのならば、それはそれで制裁を加えなければならない。
ギャリオ帝国軍が銀河中心部に向かうことを公表して、すぐにラサイド連邦から抗議の声が入る。
『ギャリオ帝国が行おうとしているのは、銀河の均衡を崩そうとしている野蛮な行為だ』
それに対して、ギャリオ帝国は正論をかます。
『これは、いまだ未知の状態である銀河の地図を埋めるための、れっきとした調査だ。これまでも幾度も調査をしているが、どれもが失敗している。銀河全体に広がっている文明国家として、未知の場所が存在しているのは見過ごせないことは理解してくれるだろう。もし何者かがこの調査を拒んでいるというのなら、それはそれで問題だろう』
そういってギャリオ帝国は、ラサイド連邦を牽制する。
ラサイド連邦と亡命国家の関係はバレてはいけないことだ。そのことが公になるのは、彼の国にとっては損失になる。
今回の動きとこれまでの動きが異なる部分は、ミューシャ王国が後押ししていることだ。
ミューシャ王国は自他共に認める中立国である。そのため、ギャリオ帝国、ラサイド連邦の動きには口を挟まなかった。
しかし、亡命国家とラサイド連邦の動きを見て、これ以上黙っていることが出来なかったのだろう。
こうして、初動の対応を取った所で、いよいよ本番である。
ギャリオ帝国軍の調査隊が銀河中心部に向かっている状況で、ギャリオ帝国とロクシン共和国は共同で声明を発表する。
『我々はラサイド連邦と、銀河中心部に存在する国家的組織が交易していると考えている。もしこれが本当であるならば、到底許されない行為であろう。そのため、現在ロクシン共和国と行っている貿易を全て停止する措置を取る』
その声明に、ラサイド連邦は即座に反応する。
『先の声明は、ラサイド連邦に対する重大な違反行為である。我々が国家的組織と交易している証拠があるわけではないだろう。仮にそうだとしても、我々が得することはない。一方的な言いがかりはよしてほしい』
それにギャリオ帝国が反論する。
『もし国家的組織が存在しなければ、これから調査に入るギャリオ帝国軍を受け入れることが出来るだろう。そうでなければ、ラサイド連邦は何か見られたくないようなものを隠し持っているのだろう』
そういって煽り立てる。
それと同時に、ロクシン共和国では軍が大きく動いていた。
あるものが発令されたからである。
それが、戦時特別号令だ。
これは、これから戦争が起きると推定される、もしくは戦争状態に陥ったことを示す号令である。
そのため、この号令が出されると軍は指揮系統を統一し、戦時編成に切り替わるのだ。
もちろん、フクオカのいる第13艦隊も最前線に配置される。
「諸君、これから戦争が起きる。そのための準備は怠らないように」
「了解」
そういって、フクオカたちは配置につく。
「いよいよ戦争かぁ。なんかドキドキしてきた」
「緊張するなよ。俺たちはいままでの事をやればいいんだ」
「そうだよ。きっと何とかなるから」
そういってフクオカたちはお互いに励まし合うのだった。
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