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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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第89話 葛藤

 独特の緊張感が、会議室を包み込む。


「……無粋な質問をするのですが、どうやってラサイド連邦の軍事行動を止めるというのです?」


 大統領が肝心な所を聞いてきた。


「まずは、現在行っているステルス経済制裁を公(おおやけ)のものにします」

「ステルス経済制裁のことまで知っているのか……」


 ステルス経済制裁とは、ギャリオ帝国とロクシン共和国が共謀して行っている、ラサイド連邦に対する経済制裁のことである。

 やってることはごく単純で、本来の生産量から考えられる輸出量を少なく調整し、それによりラサイド連邦に制裁を加えるという、やっていることは子供の遊びみたいなものだ。

 しかし、これを公にすることは、公文書偽装や過剰な備蓄を行っているという不公平などを生み出しかねない。

 そのため、ギャリオ帝国とロクシン共和国にとっては、高レベルの機密情報であるのだ。


「皆さんが思っているような公表の仕方ではありません。現在の輸出量を正規として、これから行う経済制裁を初めて行うような振る舞いをすればいいのです」

「それはそうかもしれませんが……」


 大統領はうなる。

 方法を一歩間違えれば、ロクシン共和国とギャリオ帝国の立場が危うくなるからだ。

 しかし、王太子はそこに追い打ちをかけるように、言葉を続けた。


「同様の提案をしたギャリオ帝国からは、この経済制裁を行うという回答を得ています」

「それは本当ですか?」


 大統領が聞き返す。

 軍事力なら銀河一と言われているギャリオ帝国ですら、その出方には慎重になっているのだ。


「帝国ですら軍事力を行使しないだと?」

「それだけヤバいものが亡命国家にあるというのか……」

「到底俺たちには手が出せない代物だよ」


 ロクシン共和国側の事務員がヒソヒソと話す。


「……しかし、ラサイド連邦と亡命国家が近づいているからといって、経済制裁だけするというのは、いささか道理が通らないと言いますか……」


 大統領が機嫌を伺うように、腰を低くして聞く。


「皆さんも一度は聞いた事があると思います。亡命国家に存在する最終兵器が存在する事を」

「しかしあれは噂なんでしょう?私の元には、銀河を真の姿にする兵器が存在するというくらいしか聞き及んでいませんが……」

「その噂は間違ってはいません。事実、亡命国家は国力のほとんどを、その最終兵器に注ぎ込んでいます」

「して、その最終兵器の全貌とは?」


 大統領の問いに、王太子はしばらく黙る。

 そして重い口を開いた。


「言えません。というよりは、言うことが出来ないというのが正しいでしょう」

「……と、言いますと?」

「我が国の諜報能力をもってしても、亡命国家の最終兵器を特定することには至りませんでした」


 誰もが肩を落とす。正体が分からないとなれば、どうしようもないからだ。


「だからこその経済制裁です。亡命国家と交易があるのはラサイド連邦ただ一つのみ。ならば、連邦を狙って制裁を行うことで圧力を掛けられるというわけです」

「しかし殿下。そんな上手く行くでしょうか?」

「勿論、これには軍の行動も合わせて行う必要があります。もし失敗すれば、この銀河が消滅する可能性もあるわけですから」


 そう言われたロクシン共和国側の職員は顔を見合わせる。

 確かに、亡命国家のいう最終兵器がどのようなものであるかは分からない。常に最悪の展開を想定しながら動くしかないだろう。


「とにかく、今結論を出していただかないと、今後の行動に支障をきたします」

「……え?今決めるんですか?」

「勿論です。行動は早い方がいいでしょう」


 情報が制限されている状況で、大統領は冷静な判断を下さないといけない。


「大統領、ここは話に乗るべきかと思います。ギャリオ帝国も賛成している今、優位な方に立っていたほうが、何かと有利に働くのではないでしょうか?」

「いえ大統領、ここは断るのが最善でしょう。現在の所、ラサイド連邦との関係は比較的良好。その関係を崩すのは、先の銀河戦争をもう一度引き起こすことになりますよ」


 後ろの職員からの声。それに、大統領は押しつぶされそうになっていた。

 国の命運を分ける決断。それをこんなにもあっさりと問いかけられているのだ。


「銀河戦争では共和国の陣営は勝利したでしょう。今回も上手くやれば、同じように勝利出来ます」

「その決断が出来るかどうかが怪しいのだ。ラサイド連邦も、前身のラサイド公国から変わった。今や友好国です。それを再び破壊するのは問題です」


 そう言われて、大統領はさらに悩んでしまう。


「閣下、お気持ちは分かります。しかし、早急に決断して頂かないと、国民の生活もかかっています」


 完全に板挟み状態の大統領。どれが正解なのかを必死に探す。

 しかし、誰も答えを教えてはくれないし、ましてや回答を与える側になっている。

 そこに、王太子がとどめの一言をかけた。


「閣下、ミューシャ王国はギャリオ帝国と連携しています。今こちらの陣営に入れば、勝利はグッと強まることでしょう」


 それを聞いた大統領は決断する。

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