第87話 爆撃
亜空間フィールドを展開しているとはいえ、完全に通常空間と切り離されているわけではない。
そのため、加速時に周辺の光景が高速で移動する。
しかし、至近距離にある惑星や恒星以外は無限遠にあるため、そんなに動いているようには見えないのである。
そんな外の光景に目もくれず、ドレイクは自分の任務に集中していた。
「大丈夫だ……。俺は大丈夫……」
実際には適応障害の症状が出ないように、気分を落ち着かせているだけであるが。
もう少しで遊星と交差するポイントである。
とにかく、今は爆撃に集中すべきだ。
ドレイクは作戦の手順を見返す。
「作戦は至って単純。レーダーで捉えた遊星に対して、特殊照準器で爆撃するだけ。今回の難題は、行き違いで爆撃するから偏差を考えないといけないことと、クラスター爆弾だから適切な場所で投下しないと効果が見込めないこと」
復唱するように、ドレイクは声に出して確認する。
今は少しばかり頭痛がしていた。
「今、症状を発症すれば、確実に生きては帰れないだろうな……」
自虐的に言う。しかし、それでも任務はこなさなければならない。
レーダーに反応が出る。もう少しで遊星と交差する頃合いだ。
「照準器準備。相対速度入力。爆弾信管時間を設定、それを考慮した投下時間を算出」
あくまで冷静になって、任務を遂行するドレイク。
諸々を計算して、爆弾投下まで残り数分であることが告げられる。
「よし、投下準備」
そういって、ハードポイントの安全ロックを解除する。
その時であった。
急に視界がグラッと揺れる。
「な、めまいが……」
思わず握っている操縦桿を倒しそうになる。
しかし強い意志で、操縦桿から手を離す。
半自動操縦であるため、移動中でも問題なく航行できるのが幸いだろう。
「くそ……」
こんな時のために、ドレイクはあるものを取り出す。
めまいや頭痛が発生した時に飲む舌下錠である。この薬は文字通り、舌の下で溶かす薬だ。即効性があるため、今回のような場合においては重宝する。
「先生の読みは当たっていたようだな」
唾液で薬を溶かし、薬を服用する。
しかし効果が発揮する前に、爆弾を投下する時間が近づいてきた。
「くそ……。このまま敢行する……!」
そういって、ドレイクは操縦桿を握りなおす。
爆弾投下まで1分8秒。
「交差のタイミングは一瞬」
爆弾投下まで56秒。
「ほんの少しでもタイミングがずれれば、俺の帰る場所はない」
爆弾投下まで38秒。
「補助用コンピュータには頼らない。俺自身が投下する」
爆弾投下まで20秒。
「これは、俺が俺であるために証明にするんだ」
爆弾投下まで9秒。
ドレイクは、タイマーを凝視する。
レーダー上では、遊星までの距離が表示され、その数値はどんどん少なくなっていく。
3秒、2秒、1秒とカウントダウンが進み、そして電子音がなる。
その瞬間、ドレイクは爆弾を投下した。
それと同時に、ドレイクは操縦桿を思いっきり引いた。自身が爆破した遊星の破片に当たらないようにするためだ。
爆弾投下から数秒後。クラスター爆弾と遊星が交差する。
その瞬間、レーダーから遊星の反応が消えた。爆弾の衝撃による影響だろう。
「クラスター爆弾は動作した。あとは爆破に成功しているかどうかだが……」
そういって、ドレイクは方向転換するため、減速を開始する。
そしてそのまま、遊星を追うように再度加速を開始した。
再加速中に、レーダーの情報が更新される。
それによると、細かい破片のようなものが多数確認できた。
「成功した……のか?」
ドレイクはそのまま、第219巡航艦隊の母港に向けて航行する。
レーダー上では、惑星を回避するように、破片がバラバラに飛んでいった。
「……助かった」
ドレイクはそのまま減速を開始し、母港へと帰還する。
惑星は表面上は問題ないように見えた。
その時、通信が入る。
『こちら第219巡航艦隊旗艦、聞こえるか?』
「こちらドレイク、よく聞こえる」
『そいつはよかった。作戦は成功した。まぁ、破片による多少の被害は被ったものの、最悪の事態は免れた。感謝する』
「感謝されるほどでもないさ。自分はただ、任務を遂行しただけだ」
そういってドレイクは惑星に帰還した。
大気圏に再突入し、滑走路に着陸する。
そのまま整備員たちに迎え入れられた。
「よくやったな!」
「さすがエースパイロット!」
「俺たちの星を守ってくれてありがとう!」
そういって整備員たちにもみくちゃにされる。
どうにかそれを切り抜け、ドレイクは旗艦の艦橋に上がる。
「よく戻ったな」
艦隊指揮官が出迎える。
「いえ、任務でしたので。戻ってくることは当然です」
「そうか。それで、適応障害のほうは問題ないか?」
「今は問題ありません。戻ってくる時のほうが楽だった感じです」
「そうか。とにかく、よく戻ってきたな」
そういって指揮官は、ドレイクの肩を叩く。
その時である。
「惑星上空に航空機反応!」
「IFFは?」
「これは……、味方です!爆撃機が帰ってきました!」
誰もが胸を撫で下ろした瞬間であった。
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