第85話 緊急
第219巡航艦隊の旗艦に帰ったドレイクを待っていたのは、艦隊指揮官であった。
「退院直後の自分を呼び出すのは、よっぽどのことがあるんですね?」
「察しがいいようで助かるよ」
「それで、要件はなんです?まさか今すぐ艦載機に乗り込めとか言わないでしょうね」
「その心配は今のところない。君には別のことに協力してほしいのだ」
そういって作戦会議室のライトが消され、壁に内蔵されている超薄型テレビが起動する。
「現在、我々が管轄している第13艦隊の領域内に、衛星から惑星クラスの遊星が接近していることが判明した。これだけなら問題ないのだが、問題は、これの速度が光速の38%で接近しているということだ。このままだと、68時間後には我々がいる惑星と衝突する可能性がある。その前に迎撃しなければならない」
「それが小官と何か関係があるんですか?」
「君はかつてのエースパイロットだ。この手の対処方法について知っているだろう」
「確かにそうかもしれませんが……。艦隊を動かすことはしないのですか?」
「それも考えたのだが、どうしても時間が足りないのでね」
ドレイクはしばし無言になる。
「退院直後の人間にこういうのは少しばかり酷かもしれないがな。だが、今の君には十分だろう?」
「……わかりました。善処します」
「早速だが、ブリーフィングルームに向かってくれ。新兵老兵揃っている。自由に使ってくれ」
「了解」
そういって、ドレイクは作戦会議室を出る。
そのまままっすぐブリーフィングルームに直行した。
部屋に入ると、中にいた全員が立ち上がり、敬礼する。
「あぁ、いい。そんなかしこまられても困る。さっさと話をしよう」
そういって壁面タブレットを操作する。
「簡単な話は艦隊指揮官から聞いた。要は遊星に対して惑星破壊爆弾をぶち込めばいいわけだ。しかし、相手は光速の4割弱の速度で接近してきている。普通の爆撃では命中しないのは誰でも分かるだろう」
そこまでいうと、ざわつきが部屋を包み込む。
「そこで、外付けの装備を使う。理論上は光速の5割まで加速することができる宇宙空間用超加速装置だ。今は試験運用中だが、ほぼ実用段階らしい。今回はこいつを拝借して、遊星を破壊してもらおうと考えている」
しかし、それに難色を示す者が多い。
「君たちの不安も十分分かる。しかし誰かがやらねば、この惑星に住む30億の人間が一瞬で命を奪われる。どうか、そこを分かってほしい」
その時、一人の若者が手を挙げる。
「僕がやります……!」
階級を見れば、まだ新兵であることが分かる。
しかし、彼が勇気を出して志願したことで、我も我もと続くものが現れる。
「よく手を挙げてくれた。今回の作戦では、タンデム機を使用する予定だ。そのため、操縦士と爆撃手が必要だ。この中から、自分が選んだ2人に任せようと思うのだが、構わないな?」
その場にいる全員がうなずく。
数時間後、ドレイクが選んだ操縦士と爆撃手が集合する。
「正直言って、超加速装置の使い方は複雑だ。訓練の時間も少ししか確保できない。だが、君なら問題ないと考えている。どうだ、やれるか?」
「問題ありません。自分は、市民を守るために軍に志願しました。そのために活躍できるなら本望です」
「私は老兵ゆえ、いつ命を落としてもおかしくはないでしょう。この命一つで数多の命が救えるなら、差し出すことも惜しくはありません」
「あくまで君たちには生きて帰ってもらわなければならない。そうでないと、俺のプライドが許さないからな」
そういってドレイクは二人のことを見送る。
『こちら惑星爆撃機。宇宙空間に到着した。これより遊星方面へと移動する』
旗艦の艦橋に通信が入る。そこにはドレイクの姿があった。
「了解、加速を開始せよ。高速移動中は通信ができないことに留意せよ」
『了解。これより加速を開始する』
レーダー上の点が一瞬で消える。
加速を開始したのだろう。
あとは彼らに任せるしかない。
幸い、特殊なレーダーを使うことで、遊星と爆撃機を補足することは可能だ。
「遊星爆撃機、光速の30%を突破」
「目標、惑星衝突まで37時間」
観測員が、そう報告する。
「爆撃機、減速を開始。まもなく目標と交差します」
レーダー上で、遊星と爆撃機が交差する。
「爆撃機、再度加速を開始。現在光速の12%」
そう言っている間にも、刻一刻と時間が迫る。
「目標との衝突まで、あと25時間」
「指揮官、市民に極秘である遊星衝突の話が広まっているようです。避難しようと宇宙港に市民が集まってきています」
「こんな時に面倒なことになったな」
「指揮官、ここは市民の声は無視してしまいましょう。逃げる場所もありませんから」
そうドレイクが進言する。
「それもそうだな。今は作戦の成功を祈るしかないだろう」
そういってレーダーを見る。
「まもなく遊星に爆弾を投下します」
もう少しで、遊星と爆撃機が交差しようとしていた。
その時である。
レーダーから爆撃機の反応が消えた。
「……何が起こった?」
指揮官が尋ねる。
「爆撃機の反応がロストしました。搭乗者の反応もありません」
観測員が冷静に言う。
「つまり……作戦は失敗したということか?」
「現状はなんとも言えません」
旗艦の環境に緊張が走る。
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