第82話 暴露
とにかく、中に入ってみるドレイク。
ゆっくりと座席に腰かけてみると、少しめまいのようなものを感じる。
「どうですか?気分が悪いとかありますか?」
「……少しばかりめまいがしまして」
「そうですか。ほかに何かあります。例えば気持ち悪くなったとか……」
「いや、そこまでではないかな……」
「分かりました。とりあえず、現状はこのままでも問題ないと思います」
そういって作業療法士は、ドレイクにタブレットを渡す。
「これからの時間は、このコックピットもどきで過ごすことが大半になります。なので、この環境に慣れる必要があります」
「それはつまり、この中に入って暴露療法をするっていうことですか?」
「その通りです」
ドレイクはタブレットを受け取る。
「今はとにかくリラックスした状態で過ごすことが重要です。タブレットを使って時間をつぶすのもいいですし、本を持ち込んでもらっても構いません。自分もこの部屋にいますから、何かあったら言ってください」
「はぁ……」
こうして、ドレイクの奇妙な治療が始まった。
作業療法士は、ドレイクの見える場所で作業を行っているようだ。
ドレイクは困惑しながらも、タブレットを使って何かしようとする。
「しかし、何をすればいいんだ……?」
そう言ってコックピットのモックアップを見渡す。
ダクトテープなどが貼られ、手作りであることがよくわかる。
目の前の計器を模した、手書きのメーターまであった。
しかし、それを呆然と見ていると、だんだんと気持ち悪さが出てくる。
微妙に吐き気までしてきた。
「うっ……」
それを紛らわせようとして、ドレイクは渡されたタブレットの電源を入れる。
そのまま、無料の動画サイトを開く。
そして気の赴くままに、自由に動画を閲覧する。
「本当にこれでいいんだろうか……?」
わずかに疑問が生じるドレイク。
しかし、素人のドレイクが口を出すのもお門違いであるだろう。
とにかく、今は医師や作業療法士の話を聞くしかない。
若干気持ち悪くなりながらも、どうにか気を紛らわせることができた。
10時間ほど、コックピットもどきに座り続けたドレイク。
トイレに行く時間を除けば、ほとんど座りっぱなしである。
「本職でも、ここまで座ることはないな」
「そうなんですか?」
「一応、規則には連続6時間以上の艦載機操縦はしないことになっているんです」
「それは初耳です」
そう作業療法士が言う。
「では、本日のリハビリは以上です」
「あぁ、これ建前上はリハビリになっているんでしたっけ」
「えぇ、こっちもなかなか大変ですよ」
「それはご苦労なことで……」
ドレイクは作業療法士の彼を労う。
「明日からは、自分の端末を持ち込んでもらっても構いませんよ。なんなら、溜まってる仕事をやってても問題ありません」
「それでいいんですか?」
「えぇ。名目上は自分が監視しているということになっていますが、ぶっちゃけ自由時間です。この間の診断テストでも、ドレイクさんの勤勉さは出ているようなので、キチンと治療に当たってくれるとは考えています」
「左様ですか」
そういって、この日は病室に戻った。
翌日、ドレイクは自分のタブレットを持って、例の部屋に向かう。
「おはようございます、ドレイクさん。本日も治療のほうを進めていきましょう」
「正直、治療になっているか疑問ではあるんですが……」
「そう思うかもしれませんが、慣れるという点では大事なことですよ」
そういって、この日もコックピットもどきの箱に入る。
「ドレイクさん。これは治療にあたってのアドバイスのようなものですが、こういうものはとにかくリラックスすることが大事です」
「はぁ……」
そういって、ドレイクは箱の中で、ゆっくりと上を見る。
「リラックス……リラックス……」
目を閉じ、座席に体を預ける。
お世辞にも座りやすいとは言い難い椅子に、申し訳程度のクッション。寝るには少々条件が悪い。
しかし、しばらく何も考えずに天井を眺めるにはちょうどいい。
しばらく、作業療法士が仕事をする音が響く。
次第にドレイクは、自分の呼吸音に集中する。
吸って、吐いて。
全身の血が流れる感覚。それを感じることで、ドレイクは虚無の向こう側へと行こうとしていた。
「……イクさん?ドレイクさん、時間ですよ」
ドレイクの意識は、いつの間にか手放されていたようだ。
寝ていたとも、気絶していたとも言える状況である。
「ずいぶんとリラックスしていましたね。この状況にも慣れてきたんじゃないですか?」
「そうですかね?自分ではそう思いませんが……」
「今日とかは急にできましたが、本来なら何ヶ月、何年もかけてやるものです。それを昨日今日で成し遂げるのは、それだけ治療の余地があるということです。この調子で頑張って行きましょう」
そうは言われるものの、なんとなくドレイクとしては実感が湧きづらいのであった。
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