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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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第81話 入院

 その日から、ドレイクはフクオカの作ったゴーグルをかけて生活する。

 遠目から見ればグラサンをかけているように見えるが、近くから見れば変人のように見えるだろう。

 視野は狭まるものの、生活に苦が出るわけでもない。症状が出ているわけでもない。

 今のところは平常である。


「それで、そのゴーグルですか」


 次の診察の時に、医師に経緯を説明したドレイク。


「まぁ、元教え子がせっかく作ってくれたもので、無駄にするわけにもいかないものでね」

「物事を楽観的に捉えられるのはいい傾向です。そろそろ次のステップに移行する準備をしましょう」

「次ですか?」

「本腰を入れて治療に入るというものです。詳しく言えば、入院という形ですね」

「いよいよですか」


 本格的な治療が始まる。そのための準備も必要だ。


「今回ドレイクさんのために、規模の大きい道具を用意することになりました」

「規模の大きい道具?」

「本当なら、こんなこと僕たちのする仕事じゃないんですけどね」


 そういって入院に関する手続きを行う。

 実際に入院するのは、次回の診察の時である。

 入院期間は3ヶ月と長い。実際この期間で症状が回復するとも限らない。

 そのあたりも症状を確認しながらの治療になる。

 そのため、しばらく旗艦の自室を空けることになるのは当然だ。

 それも考え、隅々まで掃除することにした。

 ベッドの整理をし、机の上に散乱した書類を片付け、そして埃を掃き出す。

 その時、フクオカがやってくる。


「あれ?ドレイクさん、何やってるんですか?」

「見りゃ分かるだろ、掃除だ」

「……何かあったんですか?相談乗りますよ?」

「そんな深刻なことではない。しばらく入院することになったから簡単な掃除でもしようと思っただけだ」

「そうなんですか……」

「それで、フクオカの用事はなんだ?」

「あっ、軍医さんからなんかの書類を届けてくるように言われまして」


 そういって渡してきたのは、入院に関する申請書類である。入院している期間は艦を降りる許可が必要になる。それの申請書類であった。


「なんというか、抜け目ないな」


 軍医の洞察力を認めつつ、ドレイクは書類を机の上に置く。


「用事はそれだけか?」

「えぇ、まぁ」

「そうか。だったらさっさと帰れ」


 そういって、フクオカを部屋の外に追い出す。

 部屋の掃除はようやくひと段落といったところだ。


「……書くか」


 ドレイクは申請書類に必要事項を記入していくのだった。

 そしてそれから2週間。

 再び診察の日である。


「この2週間で症状に変わりはないですか?」

「そうだな、あまり変わらないですね」

「ゴーグルでの生活も慣れたでしょうし、今日からより本格的な治療をしていきましょう」


 そういって当日の入院手続きをする。

 荷物を持って病室に向かう。通されたのは、4人部屋の窓際である。

 想像していたような、殺伐とした病室ではない。


「この病室は、適応障害や強迫性障害の患者さんがいます。考えているような部屋ではありませんよ」


 看護師に釘を刺される。

 そのまま荷物を整理して、ベッドに横たわる。

 これから数ヶ月をかけて、ゆっくり治療していくのだ。

 入院初日は、荷物の整理で終わった。

 次の日は、血液採取や身体的な検査が行われる。

 血液検査の結果としては問題なく、いたって健康体である。薬漬けであること以外は。

 三日目は、医師が作業療法士を連れてきた。


「今日からドレイクさんのことを担当する作業療法士の方です。他にも数名手伝っています」

「よろしくお願いします」


 そのまま、本格的な治療を行うために場所を移す。


「それで、自分はどんな治療を受けるんですか?」

「今回、ドレイクさんの症状を鑑みまして、閉所恐怖症やパニック障害、適応障害の治療を合わせた暴露療法になります」


 そういって案内されたのは、病棟の中でも北のほうに位置する部屋であった。


「……本当にここで合ってますか?」

「えぇ、間違いありません。本来なら患者さんは多目的ホールを使うんですが、ドレイクさんの治療法故に、こちらの部屋を使うことになりました」


 そういって到着した部屋は、人気のない静かな廊下の先にあった。


「では、こちらです」


 そういって扉の鍵を開けると、中に入るように促す。

 ドレイクが中に入ってみると、そこには強化段ボールで出来た箱のようなものが置いてあった。


「……なんですか、これ?」


 ドレイクは思わず質問してしまう。


「三日三晩かけて作った、閉所克服用のコックピットのモックアップです。若干簡素な作りをしていますが、問題なく使えるはずです」

「……まさか、この中に入れってわけではないでしょう?」

「残念ながらその通りです」


 ドレイクの勘が当たってしまった。

 そんなドレイクを無視して、作業療法士は説明を続ける。


「座席はクッションを使っているので、座る際は障害にはならないと思います。その他、外の様子を見れるように窓をつけています」


 そういって、箱の中を見せる。一応様になっているようだ。


「それで、今回の治療法なんですが、この箱に入って一日を過ごしてください」

「……え、それだけですか?」

「この中に入っているなら、タブレットなどを持ち込んでもらっても構いません。とにかく、閉所での環境に慣れることが重要ですから」


 正直なところ、不安になるドレイクであった。

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