第77話 執行
ニュルブク少将の死刑が執行される前に、彼に対する最後の取り調べが行われた。
「……で、結局ラサイド連邦と手を組んで何をしようとしたんだ?」
刑事がニュルブク少将に聞く。
「なんだっていいだろ。俺はもう処刑されるんだからな」
「だがな、遺言一つ残さないのはいかがなものかとは思うぞ?独り身でも友人とかいるだろう?」
「皆もう居ない。同志も残ってない」
その言葉に、刑事は頭を抱える。
「はぁ……。この際だから言うけどよ、こうしてクーデターも失敗して、何を成し遂げたかったんだ?」
「失敗……?あれは失敗じゃない!」
「じゃあなんであんたは今ここにいるんだ?爪が甘かったからじゃないのか?」
「違う……!俺はこの国の将来のために、必死になって動いていただけだ!」
「その解決法が、ラサイド連邦と手を組むことだったのか?」
ニュルブク少将は、深くうなだれる。
「あれは、仕方なかったんだ……」
「あんたが共和国の事を憂う気持ちはよく分かる。俺だってそうだ。未来がどう転ぶか分からないからな、不安になるのはしょうがないさ。だがな、あんたがこの方法を選んだのは愚策としかいいようがないぞ」
刑事はニュルブク少将の事を諭すように言う。
ニュルブク少将は、嗚咽交じりの涙を流す。
「俺は、ただ、共和国のために……!」
「あぁ、よく分かる。せめて共和国のために、このクーデターを起こした理由を聞かせてほしい」
刑事は言葉を選び、誘導するように動機を探る。
「……銀河戦争の前に、ラサイド公国に渡った友人がいた。彼はそのまま銀河戦争と共に姿を消した。だが今から2年前に、その友人を名乗る人物からメールが届いた。銀河中心部にある、ラサイド公国の残党で構成された亡命国家にいるとな」
「亡命国家?風の噂では聞いたことあるが、本当に実在していたのか」
「その亡命国家は、ラサイド連邦と何かしら繋がりを持っているらしい。そして、ある秘密兵器を開発したそうだ」
「秘密兵器……」
「それはなんでも、この銀河に平和と安寧をもたらすものらしい。しかし、それ以上は書いてなかった」
そこまでの情報が、コンピュータ上で文字として記録される。
「それで、どうしてラサイド連邦を手を組もうなんて思ったんだ?」
「共和国にとって、連邦は仮想敵国という位置づけだ。だが、亡命国家は連邦と共に秘密兵器を開発した。もし、これが本当だとしたら、この銀河には平穏が訪れる」
「そのためにラサイド連邦に乗り込み、銀河の平和のために亡命国家を支援でもしようってか」
「その通りだ。俺は、銀河を平和に導くという秘密兵器に己の全てを掛けた」
「だが、それは失敗に終わった」
「……それが事実だ」
そういうと、刑事は背もたれに体を預ける。
「なるほどなぁ。共和国を救うため、銀河を救うために、ラサイド連邦に身を売った。だがそれが、結果として外患誘致となってしまった」
「陸軍に身を置きながら、他国の侵略を手伝っている事に疑問を持たなかった。それが最大の敗因だろうな」
その時、部屋に刑務所職員が入ってくる。
「話は終わったな。すぐに死刑を執行する」
そういって、複数人でニュルブク少将の身柄を拘束する。
そのまま、職員に引きずられるように部屋から出た。
「本当はもう少し話でも聞いておきたかったが、こればっかりは仕方ないか」
そういって刑事が後を追う。
ニュルブク少将が連れていかれた先。そこには、全身を拘束出来るベッドと、その横に3本の注射針を備えた機械があった。
この3本の注射器は死刑執行用の機械で、それぞれ独立して動くことが可能だ。注射器には生理食塩水を入れたものが2本、安楽死用に開発された塩化ポリクロロシルベンを入れたものが1本ある。これを同時に動かし、死刑を執行するのだ。
なぜ注射器が3本あるのかというと、死刑を執行する職員が3人いるからである。この3人が、3つある死刑執行用の機械の起動ボタンを押す。
いくら罪人といえども、死刑は人の命を奪う行為。人間一人に背負わせるには、心理的な限界がある。
「貴様はこれから死刑に処す。その前に遺書を書けるが、どうする?」
刑務所職員が聞く。
「誰も俺の遺言など聞きたくないだろう」
そういってニュルブク少将は拒否する。
「では、これより死刑を執行する」
ニュルブク少将は目隠しをされ、拘束具のついたベッドに横にされる。そのまま全身をベルトによって固定された。
そして、首の部分を露出される。首にある太い血管に注射針を刺すのだ。
ニュルブク少将の横に、教誨師が立つ。
「あぁ、命絶たれる彼に、祝福のあらんことを」
そういって、教誨師は本をニュルブク少将の心臓あたりに触れた。
教誨師が少将の横から離れると、いよいよ死刑が執行される。
刑務所所長、囚人監視主任、医師、教誨師、そして刑事が見守るなか、死刑執行者である刑務所職員3人が配置に着く。
「死刑、執行!」
主任の声に合わせて、3人が一斉にボタンを押す。
すると機械が動き、注射針をニュルブク少将の首に刺した。
そして中身が注入される。
注射されてから1分ほどは何もなかったが、数分後には呼吸が苦しくなる。それによるうめき声が聞こえてきた
そして5分もすれば、うめき声が止む。
医師が素早く生死の確認をする。
「……彼は死亡しました」
医師がそう宣告する。
こうして、ニュルブク少将に死刑が執行された。
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