第72話 進展
秘文メールを確認する陸軍省長官。
差し出されたタブレットには、復元された文書が多数書かれていた。
「……見たところ、でたらめな言葉の羅列にしか見えないのだが?」
「私も最初見たときにはそう思いました。しかし、これをクーデターを実行した部隊長に見せたところ、『読める』とだけ言い残しました」
「ふむ……。この言葉の羅列自体が暗号になっているようだな」
「おそらくは。しかし問題は、この言葉自体が置き換わっているのか、はたまた言葉の並びに意味があるのかさっぱり分からないということですね」
「単語ごとに置き換わっているとなると、解読するのは困難に近い……。何かヒントでもあればいいのだが……」
結局、事件の真相に近づくことはなく、別の道を選択せざるを得なかった。
それから1週間ほど時間が経過する。
この日は捜査本部にて、定期報告会が行われた。
「……よって、実行犯であるクーデター軍は一般のネット回線を使用し、綿密に連携を取り合っていたことになります」
「ここでも暗号か……。一定の法則性でもあるのかね?」
「それはなんとも……。現在、総司令部にある暗号解読用のコンピュータで解析を行っていますが、曖昧かつ規則性が見つかりづらく、膠着状態が続いているのが現状です」
「そうか……。しかし、佐官や将官なら誰でも読めるようだが、その辺はどうだ?」
陸軍省長官は、担当の刑事に聞く。
「そのことなんですが、読める人間でも差があるようでして。現地の調査員の話では、将校は苦戦していたのに対して、士官では簡単に理解している様子だったという報告があがっています」
「それは個人差って奴ではないのか?」
「そのあたりは今後の課題とします」
そういって定期報告会も終了に近づいていた。
「他に報告しておきたいことがある人はいるか?」
陸軍省長官の掛け声に、誰も反応しない。
「そうか。では私から連絡事項だ。もう既に何人かいるようだが、共和国捜査局も本格的に捜査に加わることになった。いくらかの人員を割いてくれるようだ。人員はいくらいても問題にはならないからな」
こうして定期報告会は終わった。
それからさらに数日後。
総司令部の演算システム作業室に捜査員が数人いた。
「どうだ?まだ結果は出ないか?」
「ちょっと明後日の方向に向かってる感じがしますね……」
「演算し直しかなぁ……」
この捜査員は、コンピュータでの解析を行う班である。
現在は特別の許可を貰って、総司令部の暗号解読用量子コンピュータを使わせてもらっているのだ。
「しかし、昔は量子コンピュータと言えば万能のような印象があったがなぁ」
「現実は総当たり回数を重ね合わせを用いた、ただのごり押し機械だったっていうオチがな」
「暗号解読程度なら問題はないが、今の問題は一種の言語の解読に近いし……」
「そんで、現在の進捗状況はいかほどに?」
「全然駄目だ。でたらめな言葉しか返ってこない」
そんな中、ある捜査員がメールである文言を眺める。
「おい。どうしたそんなに熱心にメールなんか見て。それから読み取れることは何もないぞ」
「あ、いや。これ、どこかで見たことあるような気がするんですよ」
「は?どういうことだ?」
捜査員が集まって、メールを見る。
「確か、これが『私』。こっちが『行動』。そんでこれが人数を指している……のか?」
「どうしてそんなことが言えるんだ?」
「これ、確かニフン語って奴ですよ。遥か昔に存在していたって言われてる言語を用いて作り上げた架空の言語だったはずです」
「架空の言語だと?そんなものが、俺たちの言葉で再現可能なのか?」
「完全に再現しているわけではなくて、一部我々の言語を取り入れてやっているはずです。多分参考図書がどこかに転がっていたはず……」
そう言って、その捜査員は自分の端末で図書を探す。
「あぁ、ありました。これです」
「ちょっと、その本こっちにも転送してくれ」
「いやですよ。自分で買ってください」
「……畜生が」
この情報がもたらされ、捜査はかなり進んだ。
「クーデターの首謀者たちは、ニフン語を利用して公の場でありながら秘密裏に行動を遂行していたわけです。実際、秘文メールは効果を発揮し、ディディラ内乱が発生するまで我々に検知されなかったわけです」
「それで、それを使えばメールの内容は解読することが出来るのか?」
「試しに実行を促したメールで試した所、問題なく内容を読むことが出来ました」
その報告に、捜査本部は騒めきが起こる。
「つまり、暗号が解けるってことだよな?」
「お遊びで作られたやつなんて……」
「とにかく、これで進展があったな」
そんな各々の感想が飛び出す。
騒めきが収まった頃合いを見て、捜査員が言葉を発する。
「後は、秘文メールを発掘出来るだけ発掘しつくして、このメールの出所を調べるぞ」
「応!」
こうして、捜査は新たな局面へと向かっていくのだった。
それと並行して、クーデターの起きた惑星オリシャスの警察署、取調室。
そこには、クーデター軍を指揮していた自動化歩兵師団長の姿があった。
「……それで、もう我々に話すことはないんですか?」
「あぁ、それだけだ」
師団長から聞いた話は、どれも聞き飽きた内容だった。
「師団長だから、何か情報を持っているかと思ったんだが、これじゃ期待外れだな」
そう刑事が言う。
その刑事の言葉に、師団長が反応した。
「期待外れ……?あのお方の事をそういうか……」
「あのお方?」
刑事は話を聞くために、前のめりになる。
「そうだ。我々にはあのお方がいる。そのお方さえ生きていれば、我々は何度でも復活するのだ……」
「……今時オカルトは流行らないぞ」
「それでもいい。あのお方の意思は変わらないだろう」
「意思?」
「そうだ。このクーデターは、あのお方の意思でもある」
そして、師団長はそのまま黙りこくってしまう。
刑事は、何の話かさっぱり分からなかったが、とりあえずこの会話を捜査本部に投げることにした。
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