第70話 収束
共和国各地で発生したクーデターは、各陸軍と宇宙軍の働きによって、急速に鎮圧されつつあった。
「惑星エリュリン、クーデター軍の鎮圧に成功しました」
「クェリントンはクーデター軍の勢力が収まりつつあります」
「指揮官確保を確認。惑星ヴォイリッチでのクーデターは被害軽微で終わりました」
総司令部では、各地からクーデターが収束している報告が次々と飛び込んでいた。
「ひとまずは安心、といったところだな」
総司令部の幹部の一人がそう呟く。
次々と届くクーデターの鎮圧の報は、まさに安堵といった所だろう。
「さて、問題児は一体何人になるかな」
次なる悩みの種は出来ているようだ。
結局、最初のディディラでのクーデターが起きてから約8ヶ月で、全体のクーデターは収束に向かった。
その間に身柄を拘束された陸軍兵士は、総勢で15万人に上った。陸軍全体で見れば、約0.1%程度になる。
これを多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれだろう。しかし問題は、ここまでの兵士が一斉に反旗を翻したということだ。
「どうしてここまでの兵士が蜂起したのだろうか?」
総司令部の会議室では、幹部たちが集まって会議を開催していた。
もちろん内容は、今回のクーデターに関してだ。
「事情聴取は進んでいるのか?」
「少々情報に交錯が生じているようで、まだ確定的なことはなんとも言えませんね」
「まぁ、これだけの事が起きたんだ。焦りは禁物というものだよ」
そういって、周囲の幹部を諫める。
「しかし、今回の事は教訓にせねばならない。真相を確かめるべく、報告書の作成は早急に行ってくれ」
「了解しました」
総司令部では、今回のクーデターの原因を追及することになる。
一方、第219巡航艦隊はオリシャスでのクーデター鎮圧の手伝いをしていた。
厳密に言えば、クーデターに参加した兵士の身柄の拘束や収容の手伝いである。
「それで、アタシたちは整理係ってわけですか……」
フクオカたちは目立つ恰好に身を包み、オリシャスの行政区画に立っていた。
「まぁ、そう落ち込むなって。作戦課とて現地の空気を感じるのも重要だ。人間として無茶出来る出来ない線引きは必要だからな。とにかく行った行った」
そういってフクオカたちの上官は、彼女らを送り出す。
「まったく、上官も人使いが荒いよね」
「そういう性分なのかも」
「とにかく、これも仕事の内なんだし、さっさとやっちまおうぜ」
フクオカたちは、手伝いのためにクーデター軍の整理を行うのだった。
結局、その作業は朝から始め、夜まで続く。
それが終わって、フクオカたちはある場所へ向かった。
医務室である。
目的も決まっていた。
「ドレイクさん、お邪魔します」
ドレイクの見舞いである。
「……何の用だ?」
「お見舞いですよ。見て分かんないですか?」
「……分からんな。花も果物もない。ただ遊びに来ただけのようにしか見えない」
そういってドレイクは、向こうを向いてしまう。
「軍医に聞きました。しばらくは安静にしているように言われているんですね」
「まぁな」
「詳しい病名までは聞いてないんですけど、ドレイクさんってどういう病気で医務室にいるんですか?」
「……言えないな」
「えー。どうしてですか?」
「どうしてもだ」
頑なに答えないドレイク。フクオカはそれに対して追及する。
「恥ずかしいんですかぁ?」
「そんなわけではない」
「なら言えますよね?」
「言えん」
「言ってくださいよー」
「駄目なものは駄目だ」
そんな押し問答をしていると、そこに軍医がやってくる。
「ドレイク大尉、状態はいかがです?」
「まぁ、可もなく不可もなくって言った所か」
「平静時は問題無し、と。では明日から少しずつ治療に入っていきましょう」
そういって軍医が去ろうとした。
「あ、待ってください」
それをフクオカが止める。
「ドレイクさんの病気って一体なんなんですか?」
「あ、おい――」
「……そうですね。ドレイクさんは、PTSDになっている可能性が高いと考えられます」
「PTSD、ですか」
「しかしこの病気は、心の弱さでどうのこうの言えるようなものではありません。くれぐれもそこを忘れなく」
そういって軍医は医務室を後にした。
「PTSD、ですか」
「……何とでも言え」
ドレイクは諦めたように言う。
「でもPTSDって人によって様々なんだよね?」
「確かそうだったはずだぜ」
「つまり、私たちでも起こりうるってことだよね」
そうフクオカたちは解釈する。
「とりあえず、何があったのか、聞かせてもらえませんか?」
フクオカが、そうドレイクに語りかける。
「……はぁ、仕方のないやつだな」
そういって、ドレイクはポツポツと自分の話を始めた。
「銀河戦争では、自分が落とされないように、ただガムシャラに戦っていた。それの結果、墜ちていった戦友も多かった。俺が一人で100機墜とした時には、僚機や仲間はほとんど死んでいた。正直、耐えられなかった。いつも死神だ、疫病神だと影で言われ続けてきた。しかし、それでも前に進もうとしていたのは確かだ。だが、ディディラでの偵察隊の喪失はかなりキツかった。それが影響したのだろう。俺は、コックピットにさえ乗ることが出来なくなった。俺の唯一の場所が……」
そこまで言ったドレイクの目には、涙があった。
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