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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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第69話 発症

 オリシャスでの市街地戦も終わりが見えてきた。

 師団長が拘束されたという情報が、クーデター軍の間で急速に広まったからだ。

 それによって、戦闘を行っていたクーデター軍各部隊は白旗を上げることになる。

 ただ、そんな状況になっても降伏するどころか、むしろ勢いづく兵士もいた。

 それの対処には陸軍歩兵部隊もなかなかに手こずる。

 最終的には、兵糧攻めの状態になって全員を拘束するという結果になった。


「指揮官、最後の部隊の拘束に成功しました」

「これで敵対している兵士はいないな?」

「えぇ。全員収容済みです」

「ならよし。宇宙軍に通達、クーデター軍は檻の中だとな」

「了解」


 こうして、宇宙軍にクーデター軍の拘束が伝えられる。


「よかったー、何とかなって」

「ホント、それが一番に来るね」

「ま、俺は最初から成功するとは思っていたけどな」

「ホントにー?実は自分が一番ドキドキしてたんじゃないの?」

「んなわけあるかっ」


 そうフクオカたちは談笑するのだった。

 所変わって、第219巡航艦隊旗艦の医務室。そこでは、ドレイクが眠っていた。

 いや、どちらかと言えば気絶しているというのが正しいか。

 どちらにせよ、ドレイクはベッドで横にされていた。

 現在の所、心拍数や血圧は正常。至って健康体である。

 すると、ドレイクは目を覚ます。


「う……。ここは?」


 ドレイクは、今置かれている状況を把握しようとする。


「ここは……医務室か?」


 ドレイクは体を起こす。

 その時、体に付けられた心電計の電極が外れた。

 それによって、心電計が心肺停止の警告音を発する。

 ドレイクは、そのまま自分の手首に刺してある点滴を無理やり外し、ヨロヨロと立ち上がった。


「確かめないと……。俺は……、俺は……」


 簡易病室を出ようとしたところで、目の前の扉が開く。

 そこには看護師の姿があった。


「ドレイク大尉!勝手に起き上がっては困りますよ!」

「俺は……。確かめに行かないと……」

「今は安静にしていてください!ドレイク大尉!」


 看護師の制止を振り払おうと、ドレイクは前に進む。

 その前に、とある人物が立ちはだかる。

 旗艦の軍医だ。


「頼む、そこをどいてくれ……」

「ドレイク大尉、そこまでして何を確かめに行くんです?」

「俺が、俺であるかどうかを確かめに行くんだ……」

「……少尉、松葉杖を。彼を格納庫に向かわせてやるんだ」


 軍医の同伴の元、ドレイクはゆっくりと格納庫に歩いて行った。

 格納庫に到着すると、ドレイクは自分の機体であるCO-707型機へと向かう。


「俺は……、俺は……!」


 そういって、ドレイクはコックピットに乗り込んでいく。

 その時だ。

 急に目の前の景色がグニャリと曲がり、全身に異様な緊張が走る。

 そのままドレイクは、タラップから落ちてしまった。

 幸いだったのは、まだタラップの一段目だったことだろう。特に大きなケガを負うことはなかった。

 しかしこの出来事で、ドレイクはあることをはっきりと理解してしまう。

 そこに軍医がやってくる。


「ドレイク大尉、あなたの症状を鑑みるに、おそらくPTSDか急性ストレス障害でしょう。何が原因であるかは今後の課題ですが、治せない病気ではありません。しばらくは治療に専念すると共に、出撃は控えてください」


 軍医からの宣告。

 それは、ドレイクのアイデンティティを奪うのには十分だった。

 ドレイクにとっては受け入れたくなかった事。しかし、改めてはっきりと言われると、受け入れざるを得ない。

 それを理解してしまったドレイクは、年甲斐もなく大粒の涙を流す。


「……先生。自分はいつ、宇宙を駆けることができますか……?」

「それは誰にも分かりません。1ヶ月後には治っているかもしれませんし、二度と治ることはないかもしれません」

「そんな……、俺は……!」


 そういって、ドレイクは自分の腕で目を押さえ、涙をこらえようとする。

 しかし、涙はどんどん溢れていく。その涙は、顔の横を伝って床に落ちた。


「ドレイク大尉、今は辛い時かもしれません。しばらくは辛抱の時間が続くでしょう」


 そういって軍医は、静かにドレイクの元を去る。

 格納庫にはドレイク一人だけとなった。

 ドレイクは、いつまでも泣き続けていた。


「畜生……!どうして……、どうしてこうなった……!」


 ドレイクの嗚咽が、無人の格納庫に響き渡る。

 それから数十分後。

 ひとしきり泣いたドレイクは、気分が落ち込んだまま医務室へ戻る。

 その後、軍医によって詳しく検査が行われた。

 その結果、ドレイクはPTSDである可能性が高いことが示唆される。


「おそらくドレイク大尉の場合、過去に交流のあった仲間の死と、ディディラでの僚機の撃墜が原因であるものと考えられます。これまで積もり積もっていたストレスが、ディディラでの出来事によって爆発したのだと思います。しかし原因は分かりました。これからは治療をしていくことになります。場合によっては強引な手段を用いるかもしれませんが、そうならないよう、一緒に努力していきましょう」


 そう軍医は言う。

 ドレイクにとって、長い道のりが始まろうとしていた。

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