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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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第68話 包囲

 オリシャスの行政区画中央庁舎では、最後の抵抗を見せるクーデター軍に対して、降伏するように勧告していた。


「出てこい、クーデター軍!貴様らは完全に包囲されている!」

『そんなわけあるか!俺たちはまだ終わってない!』

「黙れ逆賊!貴様らのような人間がどれだけ腐っているか、今のうちに分からせてやる!」


 結局、交渉らしい交渉は行われずに、武力によって解決せざるを得なくなった。

 こうして、中央庁舎に対して突撃する状況が出来上がってしまう。


「大隊長。突入班A、B準備完了です」

「陽動班、準備完了しました」

『こちら狙撃手。配置完了』

「了解。これより、中央庁舎に乗り込む。総員、突入開始!」


 第一段階として、陽動班がグレネードランチャーを使って煙幕弾を建物内に放り込む。

 同時に十数個もの煙幕弾が発射され、中央庁舎の一部は煙幕で隠れてしまう。


「クソッ!前が見えねぇ!」


 そんな事を言っていると、クーデター軍の兵士が次々と倒れていく。


「な、なんだ?何が起きている?おい!返事しろ!」


 クーデター軍の兵士が状況を確認しようと、同胞に声をかける。

 しかし、それも誰にも聞かれることなく、床に伏せることになった。

 いや、厳密に言えばその声は聞かれていた。だがそれは、同胞ではなく陸軍歩兵部隊である。


「こちら突入班A。正面入口の敵を排除した」

『了解。そのまま前進し、周辺の清掃をせよ』

「了解、任務を続行する」


 そのまま突入班は、中央庁舎を制圧していく。

 彼らには、煙幕の中でも視界が確保出来るように、特殊な暗視ゴーグルを使用している。そのため、視界はクリアになっているのだ。

 突入班は、周囲のクリアリングを行いながら、庁舎内をどんどん進んでいく。


「10m先、敵と思われる人影あり」


 隊員が、その方向を指差す。煙幕の影響でまったく見えていないが、暗視ゴーグルには人影がはっきりと映っている。


「奴の背後に回れ。ナイフでとどめを刺すんだ」


 突入班隊長が指示を出す。

 その指示にしたがって隊員がナイフを装備し、そのまま人影の後方に回る。

 しかし、その気配を察したのか、その人影は周囲に向かって銃撃を始めた。


「うらぁ!出てこい!俺は逃げも隠れもしねぇぞ!」


 そういって、持っている小銃をぶっ放しているが、そのうち弾切れを起こす。

 そしてその弾切れを狙って、陸軍歩兵部隊の兵士がナイフで首を掻っ切った。

 こんな調子で、次々とクーデター軍の兵士を無力化していく。

 そして最終的に、今回の首謀者である自動化歩兵の師団長を追い詰めた。


「師団長殿、あなたはここまでです。おとなしくお縄についてください」

「へへっ……。そんなことさせてたまるかよ……。こっちにはこれがあるんだ……」


 そういって師団長は、安全ピンを抜いた手榴弾を掲げる。


「こいつは、最新式のトムソン手榴弾だ。その威力を知らない奴はいねぇよな?」


 その場にいる全員に緊張が走った。

 トムソン手榴弾。それは、手榴弾の火力を最大にまで高めることを目的とした非人道兵器ギリギリの代物である。

 使われている火薬は、添加物の異なるプラスチック爆弾だ。従来のプラスチック爆弾の特性を持ちながら、その爆発力は従来の何倍にもなっている。

 元は、室内にいる敵性勢力を確実に鎮圧させるために開発されたものであり、閉鎖空間であれば、爆発した破片は勿論、衝撃波による内臓破裂も可能なほど強力なものだ。

 そんな危険物を、安全ピンを抜いた状態で保持している。それが意味するものはただ一つ。


「俺の事を殺せば、ここにいる奴らもろとも吹き飛ぶ事になるぞ!」


 まさに一触即発の状態である。

 無理に拘束しようとすれば、師団長の手からトムソン手榴弾が零れ落ち、大爆発を招くことになるだろう。

 だからといって、いつまでもこの状態でいるわけにはいかない。


「今の状況が分かっているなら、俺の事を解放しろ!それに移動手段も用意しろ!宇宙軍の艦艇をよこせ!」


 言っていることも要求も無茶苦茶である。

 しかし、彼の要求を飲まなければ、陸軍兵士の命はないだろう。


「……分かった」

「隊長……!」

「部隊指揮官と宇宙軍に連絡だ。30人用の兵員輸送車、大砲付きを寄こすように言ってくれ」

「っ!……了解」


 そういって、兵士の一人が部屋を出ていく。


「だいぶデカい兵員輸送車を持っているようだなぁ。ありがたく頂戴していくことにするぜ」


 そういって、約10分。

 外から車の駆動音が聞こえてきた。


「ようやく来たか。それじゃあここでおさらばだな」


 そういって師団長が外に出ようとした瞬間であった。

 何かの砲撃音と共に、師団長が握っていた手榴弾が「手ごと」吹き飛ぶ。


「……あ?」


 手榴弾は握られたまま、こぶしごと地面に落ちる。

 師団長は手首から先がなくなった腕の方を、ゆっくりと見た。


「お、俺の手が……」


 師団長は、思わず跪いてしまう。

 師団長の手を吹き飛ばした正体。それは遠距離から狙った30mm狙撃銃である。

 先ほど言った「30人用の兵員輸送車、大砲付き」というのが暗号になっていたのだ。

 現場のとっさの判断により、首謀者の一人である自動化歩兵師団長の身柄を拘束することに成功したのである。

 なお、師団長が持っていたトムソン手榴弾は、安全な場所で処分された。

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