第59話 帰投
作業用無重力空間航行ユニットに確保され、輸送船は第219巡航艦隊の旗艦へと収容される。
そして、ディディラの行政長たる大統領とその一行は、第219巡航艦隊の指揮官と面会した。
「ようこそ、第219巡航艦隊へ」
「歓迎感謝する。ディディラの大統領だ」
「今回の騒動は大変な事態になってしまったな」
「まったくだ。我々に恨みでもあるんじゃないかと思うくらいだ」
「大統領殿も相当苦労していると見られる。今はゆっくりと過ごしてほしい」
「では言葉に甘えさせて貰おう」
行政長たる大統領と一行は、部屋に案内される。
その頃、ドレイクは医療室にいた。
今回の潜入において、大気圏突入用減速機構付きジャンプスーツを使ったことによる悪影響が体に影響を与えていないか、精密検査を行う事になったのだ。
「それじゃあ、全身のX線撮影を行っていきますね」
看護師の指示に従い、ドレイクは全身のX線撮影をしていた。
「しかし、そんな大層なことではないと思うのだが……」
「いえ、あのジャンプスーツを使ったんですから、潜在的なケガが発生していることも考えられます。ちゃんと検査しないといけませんよ」
そういって看護師に諭される。
こう言われてしまったら、ドレイクは仕方なく従うほかない。
ドレイクは意外と、押されると弱いのだ。
こうしてX線撮影、医師による診察を経て、最終的な診断結果が出される。
「見た限り、身体に問題があるようには見られません。例のジャンプスーツの事を聞きましたが、あんな凶器のようなものを使った後のような体には見られませんね。あなたの体どうなってるんですか?」
「こっちが聞きたいくらいなんですが……」
医師のいう通り、ドレイクの体はかなり頑丈に出来ている。
今回のジャンプスーツを使ったダイブは、体に相当の負荷がかかっているはずだ。
しかし、ドレイクの体はそんな事をしたとは思えないほど、状態が良いのである。骨にはヒビの一つも入っていない。
「心電図も問題なし……。普通なら何かしら器官に影響が出ているはずなんですが……」
「私自身も、何か気持ち悪いとかそういうのはありませんね」
「正直言って、あなた異常ですよ?」
医師からはっきり異常であることを言われてしまった。
確かに、これまでも自分の体は頑丈に出来ていると思っていたが、こうしてはっきり言われれるのは初めてだ。
「とり合えず、体に悪影響が出ないと思うので、このまま戻ってもらっても大丈夫です」
「はい、ありがとうございました」
そういって、ドレイクは医療室を出る。
そこに、誰かが駆け寄ってきた。
「ドレイク先生!」
「……フクオカか。先生と呼ぶのはやめてくれ」
「それが一番慣れてますし……」
「俺はもう先生じゃないし、なんなら階級はお前らの方が高いぞ」
「え、嘘?」
そう言われたフクオカは、ドレイクの階級章を見る。
「ほんとだ……。私の方が階級高い……」
「別に今すぐ呼び捨てで呼べとは言わんが、せめて『さん』付けくらいはしてくれ」
「じゃ、じゃあ、ドレイクさん?」
「何故疑問形なんだ」
フクオカは違和感を感じながらも、今後ドレイクの事をそう呼ぶことにした。
「それでドレイクさん。潜入の方はどうだったんですか?」
「当然、滞りなく遂行した」
「流石伝説のパイロットですね」
「おだてても何も出ないぞ」
そういってドレイクはその場を去る。
「あ、待ってくださいよー!」
そういって、フクオカはドレイクの後ろをついていく。
その後、ディディラ大統領は第219巡航艦隊の中から、共和国全土に向けて次のような声明を発表した。
『私はディディラの行政長たる大統領であり、この惑星を存続させるために尽力している。そんな私の事を、ディディラに駐留している陸軍が攻撃してきた。これは我々行政との信頼を崩すような衝撃的な出来事であり、今後の関係を断ち切るようなものだ。我々はこれを許してはならない。武力には武力を。共和国にいる軍人たちよ。私の心を理解してくれるならば、クーデター軍を許してはならない事を分かってくれるだろう。どうか、我々のために協力して欲しい』
この声明は様々なメディアを通じて、共和国全土に広まった。
惑星ディディラでクーデターが発生している。
その事実が、共和国内での軍に対する見方を変えたと言っても過言ではないだろう。
実際、陸軍が駐留している駐屯地では、連日退去デモが行われる所も発生した。
もしかすれば、ここにいる陸軍も、いつの日か我々市民に牙を剥くかもしれない。
そういうありもしない想像が膨らみ、結果として暴動へと発展していくのである。
「結局こうなるのか……」
ドレイクは、ニュースの記事を見て、そう嘆く。
結局、市民の怒りの矛先は陸軍へと向き、警察との衝突に発展する。
誰が指示した訳でもなく、そのような結果を招いたことは、ドレイクにとって不甲斐ないこととなってしまった。
命をかけて助け出したディディラの大統領、彼の声明を間違って受け止めてしまった市民の暴走が、こうなってしまったのだ。
「いつの日か、俺はこれを正さねばならない……」
そう、静かに闘志を燃やしていた。
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