第58話 回避
輸送船はそのまま高度を上昇させ、行政区画の中央庁舎から離れていく。
船内では、安堵の空気が漂っていた。
「九死に一生を得るというのは、こういう事を言うんだな」
行政長たる大統領が言う。
「とにかく、皆さんを安全が確保されている宇宙軍の部隊まで送り届けます」
「あぁ、よろしく頼むよ」
そういって、気持ちを楽にしていた時だった。
急に、船内に警報音が鳴り響く。
「なんだ!?」
ドレイクは急いでコックピットに向かう。
「状況は!?」
「地上から対空ミサイルが発射された模様!目標は本船です!」
それを聞いたドレイクは、パイロットの了承もなしに、操縦桿を無理やり倒した。
その瞬間、輸送船の後方で何かが爆発する。
「うわぁぁぁ!」
叫び声が船内に響き渡る。
ドレイクは各種計器類を確認した。
どうやら推力が下がっているようだ。それに伴い、高度もだんだんと下がってきている。
「どのエンジンがやられた!?」
「2番と6番エンジンです!」
「残りは生きているんだな?」
「出力に問題なし、航行は可能です!」
「生きているエンジンの出力を110%に設定!現空域を緊急離脱!」
「りょ、了解!」
「あと、この船に積んでいる武装は?」
「チャフ、フレアのみです」
「通常の輸送船と同様の感じか……。とにかく、今はこの空域を抜けることだけを考えるぞ!次の対空ミサイルが飛んできたら、容赦なくフレアを撒いてくれ!」
「了解です!」
そういって指示を出したドレイクは、そのまま後方のエンジンの様子を見に行く。
エンジンルームでは、数名の技術整備班が整備を行っていた。
「上手くいきそうか?」
ドレイクは進捗の様子をきく。
「えぇ。今故障したエンジンは、ミサイルの爆発によって一時的に機能を喪失したものと考えられます。それ以外は問題なく動いているようです」
「少し無茶をさせることになるだろうが、今は仕方ないだろう」
「……よし、2番と6番エンジンを完全に停止させました。これでエンジンが爆発する事はないでしょう」
「助かる。これで残りのエンジンをオーバーヒートさせずに済む」
そういって整備班を労わって、コックピットへと戻る。
「航路はどうなっている?」
「現在、緩降下にて速力を維持中。今は対空ミサイルの射程外に逃げる事を最優先で行動しています」
「うむ。それが最善の策だろう。もしかすれば、もう対空ミサイルが接近しているかもしれないが、問題はそれを避けられるかだな……」
そういった瞬間、レーダーに何かが映る。
「対空ミサイルと思われる物体が高速で接近中!」
「フレアだ!フレアを撒け!」
ドレイクがそういうと、副操縦士がフレア放出のボタンを押す。
それと同時に、機体を旋回させ、対空ミサイルを回避しようとする。
対空ミサイルは、マッハで輸送船に接近してきた。
しかしその手前で、フレアが妨害する。
それによって、対空ミサイルはあらぬ方向へと飛んでいき、結果としてミサイルを避ける事に成功した。
「なんとかなった……」
「良かった……」
大統領一行は安堵したようだ。
しかし、ドレイクは別の心配をする。
「今のでどれだけ速度が落ちた?」
「大体100キロくらいですかね」
「大気圏外には脱出出来そうか?」
「ゆっくり加速していけば問題なさそうです。しかし、それだけ時間をかけると、今度はエンジンに問題が発生する可能性が……」
「とにかく機体を大気圏外まで持っていってくれ。それからの対応は俺がなんとしよう」
これは即ち、輸送船を壊すことになっても、ドレイクが責任を負うことを意味している。
そんな状態になれば、その場にいる人たちは安心するだろう。
「エンジン出力120%!大気圏脱出のための行動を開始します!」
そういってパイロットは、操縦桿を思いっきり引く。
機首が上を向き、エンジン出力を最大以上にまで引き上げる。
ロケットノズルから、アフターバーナーが噴き出す。
速度はぐんぐん上昇し、マッハ0.65まで加速する。
そのまま大気圏を上昇し、やがて空気の薄い層までやってきた。
ここまで来ると、後はブースターの作用反作用による推力のみで上昇する。
問題の対空ミサイルはというと、レーダー上には何も映っていない上、直線距離で30kmも離れているため、単純に射程外の可能性もあるが。
どちらにせよ、対空ミサイルの脅威から逃げることが出来たのは、大きな進展だろう。
「それでは、このまま第219巡航艦隊に合流します」
「それで頼む」
ドレイクは、そのままカーゴ室に腰を降ろす。
カーゴ室には、任務の途中で救出された行政長たる大統領とその一行。
輸送船護衛のための兵士数人。
彼らが少し安堵した表情でいた。
「……何とかなったか」
ドレイクも安堵する。
そのまま輸送船は大気圏を突破し、第219巡航艦隊へと接近する。
「大統領、もうすぐで宇宙軍の艦隊に到着します」
「そうか。一時はどうなるかと思ったが、これで一安心だ」
そういって輸送船は、旗艦からの作業用無重力空間航行ユニットに確保されるのだった。
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