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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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第55話 準備

 ドレイクは潜入のための準備を始める。

 動きやすい服装に着替え、近接格闘が出来るように、ナイフなどを装備した。


「本当に潜入するつもりですか?」


 艦隊指揮部隊に所属する少尉が尋ねる。


「当たり前だ。指揮官の前であんな事を言った手前、撤回する訳にも行かないだろう。それに、俺は銀河戦争を生き抜いた男だ。多少の危機的状況でも何とかなる」

「しかし相手は陸軍ですよ?何個師団あるか分からないですけど、たった一人で立ち向かうなんて無茶です!」

「……人間はな、時には無茶をする時だってあるもんだ。俺の場合、それが銀河戦争だったって話だ」

「ですが……!」

「陸軍だって、あの建物に師団クラスの戦力を投入するわけはない。おおよそ中隊から大隊程度の規模しかいないはずだ。それくらいなら、排気口から潜入すれば、問題なく行ける」

「しかし、まずどうやって近づくというんです?あの建物の周りには、師団クラスの戦力がいるはずですよ?」

「そんな時にアレが役に立つもんだ」


 そういってドレイクは、今回の偵察任務で出撃した攻撃機の元に向かう。


「これがどうかしたんですか?」

「こいつは攻撃機の役割を持っているが、同時に少数の精鋭部隊を輸送するのにも使われていた。その時の置き土産が入っていた」


 そう言ってドレイクは、CO-707型機の側面の扉を開ける。

 そこには、エンジンとコックピットの隙間に無理やり作ったような、狭い空間があった。


「この機体に、こんなものが……」

「当時の運用思想では、こういうものもあったんだが、今は廃れてしまってな」


 そういって、ドレイクはその中に入っていく。

 そして、何かスーツと言い難い物を手に持っていた。


「大尉、それは?」

「大気圏突入用減速機構付きジャンプスーツだ。肩部分に着いた超小型ブースターが噴射して、地面に着地出来る代物だ」

「しかし、このままだと肩甲骨周辺が脱臼するんじゃ?」

「そうならないように、全身で衝撃を吸収出来るように設計されている。最も、最大で10Gを超える衝撃が全身を襲うがな」

「危険な装備じゃないですか!?」

「そうだ。計画時点で危険と判断されたものの、関係各所へ圧力をかけて特殊部隊のみに配備させた幻の装備品だ」

「これ考えた人、頭が狂ってたんじゃないですか?」

「俺もそう思う」


 そういってドレイクは、そのスーツを持っていく。


「まさか……。それを着て突入するわけじゃないですよね!?」

「正解だ」

「無茶です!ただでさえ大尉は意識が戻ったばかりなんですから!」

「さっきも言ったが、人間、時には無茶をするべきタイミングがある。今がその時だ」


 そういって、ドレイクはそのスーツを着こむ。


「少し肩周りが動かしにくいが、何ら問題はない」

「あぁ、もうどうなっても知りませんよ」


 最終的に、少尉も認めるのだった。

 こうして、ドレイク一人による中央庁舎への単身潜入作戦が始まる。


『ドレイク大尉、準備はいいか?』


 最新の戦闘機、そのパイロンに吊り下げられた専用の容器の中に、ドレイクは入っていた。

 大気圏突入用舷側機構付きジャンプスーツは、大気圏スレスレの超高高度から突入する事を前提に設計されている。そして、その突入方法も珍しく、輸送機から直接降下するほか、戦闘機の専用容器に入って、ハードポイントに吊り下げて移動するという方法があるのだ。

 今回、ドレイクが乗ったCO-707型機には、この専用容器も搭載されていた。

 これを使って、ドレイクは地上を目指すのだ。


「こちらドレイク。問題はない」

『そのスーツじゃ、容器の中は狭苦しいな』

「あぁ。おかげで、閉所恐怖症を発症しそうだ」

『なら、その前にさっさと降ろしてしまおう』


 そういうと、戦闘機は動き出す。

 今回、戦闘機は超高高度――とは言っても、地表から30kmだが――を通っていくため、そこまで難しい事は要求されない。

 問題はドレイクの方にある。

 上空30kmから自由落下をすることになるのだ。その終端速度は時速300kmにもなる。

 そこから目的の建物に狙いを定めるのは、加速器で原子の核に命中させるのと同じくらい難しいことである。

 加速器の場合、数を投入することで原子核に命中させているが、ドレイクの場合は自分の誘導によってドンピシャに命中させないといけない。これがとんでもなく難しいことである。

 そんな心配をよそに、ドレイクは投下される場所まで運ばれていく。

 ドレイクの装備しているスーツにはヘルメットもついており、それが外の様子を映している。


『どうだ?ドレイク大尉。戦闘機の武装になった気分は?』

「そうだな、出番がないと意外と退屈ってところだな」

『そいつは言えてるな。だが、そうは言ってらんねぇ。もうすぐで投下予定ポイントだからな』


 戦闘機は大気圏に突入し、そして行政区画の上空を飛ぶ。


『行政区画まで対地距離で30km。もうすぐで投下ポイントだ。ドレイク大尉、準備はいいか?』

「いつでも行けるぞ」

『では……、投下!』


 パイロンからドレイクが入った容器ごと落下する。

 そのままドレイクは、重力にしたがって落ちていく。

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