第51話 満身創痍
宇宙空間へと達したドレイクは、ほぼ満身創痍となっていた。
ただでさえ一緒だった偵察隊の仲間を二人も失い、その上殺人的な加速力を得る「宙域緊急離脱ブースター」を使用した事により、物理的にも精神的にも心身を傷つけたのだ。
ここまで極限状態のストレスを与えられたのにも関わらず、ドレイクは自分の体に染み込んだ操縦によって、意識が朦朧になりながらも第219巡航艦隊旗艦の元へと戻ることが出来た。
『おい、ドレイク大尉!何があった!?今どういう状態なんだ!?』
旗艦からの無線にも応じない。宇宙空間に飛び出したことを確認したドレイクは、そのまま意識を手放してしまったのだ。
旗艦からワラワラと、作業用無重力空間航行ユニットが飛び出してくる。
そして、そのまま作業用アームでドレイクの機体をつかみ、旗艦へと引きずるように格納した。
直ちに整備班が機体の周りに張り付き、機体の状態とドレイクの様子を確認する。
「駄目だ、パイロットが気絶している!」
「キャノピーを強制開放させろ!」
「衛生兵!こっちに来てくれ!」
攻撃機の周りが騒がしくなる。
整備班の手によって、強制的にキャノピーが開き、ドレイクはそこから引きずられるように、操縦席から降ろされた。
そのままドレイクは、やってきた衛生兵に引き渡され、治療を受ける事になる。
息をしている事や、脈があること、心臓が正しく鼓動している事を医師が確認すると、ひとまず安静にさせることにした。
ドレイクがいつ目覚めるかは不明だが、命に別状はないと判断したのだ。
一方で整備班のほうは、ドレイクが撮影したと思われるカメラを回収していた。
それを旗艦の情報処理室に持っていき、そしてその内容を確認する。
「ふむ、行政区画の様子はちゃんと写っているようだな」
そう情報参謀が言う。
「えぇ、今回クーデターを起こした部隊がはっきりと分かります」
「この映像から察するに、駐留陸軍は行政区画を無血開城したのだろう。周辺では火の手が上がっているのに、ここだけ何事もないように見える」
「しかし、血は少しくらい流れたのではないですか?」
「可能性で言えばなくはないだろうな。しかし、これだけの陸軍を相手にしようと思う人間がどれだけいると思う?」
「……そう考えると、戦うだけ無駄って感じですね」
「治安維持のために警察は出動しただろうが、陸軍のほうが遥かに強力な武器を持っている。そのアドバンテージを活かした形になるんだろう」
そこで映像は途切れた、かに思えた。
しかしそこには、音声のみであるが、偵察隊が敵に襲われる様子を記録したデータが残っていた。
「これは……、何か戦闘をしているようだな」
「高機動マニューバの音が聞こえますね」
「映像ではないのが残念だが、彼以外のパイロットは殉職したのだろう。これは後で報告書を上げるべきだな」
そして音声は、直後の爆音を記録していた。
「これは?」
「おそらく、宙域緊急離脱ブースターを使用したのでしょう。その証拠に、今整備班からあがってきた機体の情報の中に、ブースターを使用した記録が残っています」
「そうか。宙域緊急離脱ブースターは、最悪の場合、死につながる諸刃の剣。それを使ってもなお、生きているということは、それだけいくつもの死線を超えてきたという事なのだろう」
そういって情報参謀は、この映像と音声記録から得た情報をまとめ、上司である艦隊参謀や艦隊指揮官に送る。
それを見た、第219巡航艦隊の指揮官一行は、今後の行動について話し合う。
「この状態ならば、おそらく行政本部に人質がいることが予想される。宇宙空間からの艦砲射撃は難しいだろう」
「いや、ここは人質を犠牲にしても、駐留陸軍に制裁を加えなければならない。そしてその映像を共和国中にばらまいて、見せしめとするのだ」
「お言葉ですが、それは国民感情に反するものかと思われます。軍隊は国民に寄り添う存在ではなくては行けません」
「だが、その軍隊が市民を弾圧し、人質にとり、あまつさえ殺しているかもしれないのだぞ。これは断じて許されない行為だ」
「まだ確定事項ではありません。それにこの場は、今後駐留陸軍に対抗出来る戦力を整えるための会議であるはずです」
「むぐ、それもそうだが……。しかし、敵を目の前にして、ここで引き下がれというのか?」
「我々の任務は、あくまで別部隊の陸軍が到着するまでの時間稼ぎです。途中反撃とは行きませんが、低い威力の攻撃は許可されています」
「なるほどな……」
そういって、主要メンバーの一人が頷く。
それに合わせるように、総合参謀長が長考に入った。
「ここで陸軍に恩を売っておけば、後々に有利に働くことが可能だな?それはこれからの大乱闘、いわゆるルールなしのボクシングみたいなものになるだろう」
「それはどうなんでしょう?必然的になりにくいと思われますが……。ボクシングだって、クラス分けとかちゃんとしていても多くの困難が発生するものだと、古い友人は言ってましたし」
そうして宇宙軍の討論が過熱している時だった。
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