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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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第50話 格闘戦

 爆散する機体。吹きあがる黒煙。

 ドレイクが機体の方を見ると、そのコックピットでパイロットが悲痛な叫びをしているように見えた。

 だがそれも束の間、機体は重力に従って落下していく。そしてドレイクは、無意識にスロットルを全開にしていた。

 状況確認のために、ドレイクは機体周りの様子を瞬間的に見る。

 機体の後方に、敵機と思われる航空機が2機。

 ドレイクの後ろを取ろうと、まさに動き回っている所だ。


「くっ!」


 ドレイクは操縦桿とラダーペダルを複雑に動かす。

 さらに、宇宙空間で使用するスラスターも使って、大気圏で運用する航空機には出来ないような機動を見せる。

 それによって、敵機と思われる航空機を詳しく観察することが出来た。

 垂直尾翼についているエンブレムは、駐留陸軍航空隊のものである。おそらく、陸軍空爆隊の護衛戦闘機を出してきたのだろう。

 それにしては、戦闘に加わるのがやけに早かったのが気がかりだ。

 しかし、冷静になれたのもそこまでで、ドレイクは先ほどの一連の流れを思い出してしまう。


「クソ、俺がしっかりしていれば……」


 後悔の念に押しつぶされそうになる。

 そのせいで、一瞬反応が遅れた。

 その瞬間を敵は逃さない。

 機銃による攻撃で、主翼部に攻撃を食らう。


「しまった!」


 次の瞬間には、スラスターを使って、強制的に軌道を変化させる。

 ドレイクは素早く、被害状況を確認した。

 コックピットから、主翼に穴が空いているのが分かるだろう。

 しかし大きな穴でなく、飛行にも支障はきたさない。

 とにかく今は、急いでこの場から逃げる事だろう。

 しかしこの危機的状況に変わりはない。

 追手を振り払おうと、ドレイクは若干無茶なマニューバを行う。

 その瞬間、かなり後方を飛んでいた敵機から、短距離ミサイルが発射される。

 陸軍空爆隊護衛戦闘機は、文字通り護衛任務を主体とする戦闘機だ。

 そのため、遠近距離関係なく行動出来ることが求められる。

 今回は宇宙軍の動きを察知していたのか、護衛戦闘機に搭載されていたのは短距離ミサイルである。しかも高機動が可能な種類のミサイルだ。その旋回性能は最大100Gにまで達する。

 人間が耐えられる最大旋回は9Gと言われているため、正直言って普通の回避では間に合わないだろう。

 普通( ・・)の旋回ならば。


「ヌン!」


 ドレイクは操縦桿、ラダーペダル、スラスターを全力で動かし、高機動のミサイルを超えるマニューバで回避する。

 この短距離ミサイル、高機動なのはいいが速度が遅い。その隙を突いたドレイクの思惑は的中し、ミサイルはドレイクの機体を見失う。

 ミサイルはそのまま、軽く旋回しながら離れていく。

 ドレイクは、ミサイルを回避したマニューバのまま、敵機のうち1機を狙う。

 ほんの一瞬だけ、射線が交差する。

 たった0.85秒だけだが、人間が反射反応を行える時間にしては長いほうだ。

 ドレイクは迷わず引き金を引いた。

 機首に装備されている機関銃から弾丸が発射される。

 その弾丸は、敵機の主翼、火器管制レーダー、燃料タンク、そしてコックピットを撃ち抜いた。

 それによって、敵機はコントロールを失い、結果として落下する。

 のんびりと眺めたい所だが、あいにくもう1機残っていた。

 しかし、ドレイクの集中力もここで切れる。

 それは仲間の偵察隊が墜ちてしまったことだ。

 かつて、自分の落ち度によって死んだ戦友。そのことが頭の中を巡ってしまい、トラウマが再発してしまったのだ。


「はぁ……!はぁ……!」


 呼吸が速くなり、視界がだんだんと狭くなる。

 操縦する手も力が入らなくなり、操縦のキレは失われていく。

 しかし、自分の役割を思い出す。


「俺は、偵察任務に従事している……!俺の任務は、情報を持ち帰ることだ……!」


 ドレイクは、自分に働く理性をもって、トラウマを制御する。

 その行為はまさしく、自分の本能を自分の意思によって抑え込んでいる状態だ。


「ぐおおお……!」


 ドレイクはもはや今の状況を理解する事も出来ない程、混乱している。

 手元は大きく狂い、エンジン出力は最大、まっすぐ飛ぶことも困難な程だ。

 しかしその状態が、敵機の狙いを大きく外すことになる。

 敵機は、ドレイクのすぐ後ろに陣取っているが、大きく揺れる機体によって、狙いが定まらない。

 かといってミサイル攻撃に切り替えれば、ドレイクの本能的かつ天性的な回避によって避けられる。

 敵も、いつまでもこんな偶然が続くはずがないと思っているが、それが逆にドレイクを冷静にさせる時間を得ていることになった。


「俺は……、俺は……!エースなんだ!」


 そういって、ドレイクは座席の下部、通常なら手を出さない所にあるレバーを引いた。

 その瞬間、エンジン横についている固形燃料ロケットブースターが火を噴く。

 その勢いはすさまじく、ドレイクの体が座席に張り付くほどだ。

 殺人的な加速によって速度を得た攻撃機は、そのまま機首を上空に向ける。

 そして、そのまま大気圏を突破した。

 もちろん、敵機は攻撃機の速度についてこれない上に、宇宙空間に近い高度なんて飛べない。特に空爆隊を支援する戦闘機なぞ、高高度を飛行すること自体、想定されていないからだ。

 こうして、ドレイクは無事に第219巡航艦隊の元に戻ることが出来たのだった。

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