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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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第127話 攻防

 第599任務部隊は、銀河中心部に突入しようとしていた。


『総員戦闘準備。繰り返す、総員戦闘準備』

「ワープ前から戦闘準備に入るなんて珍しいよな」

「仕方ないじゃない。次のワープに入ったら亡命国家の支配地域なんだよ?」

「そりゃそうだろうけどよ」


 フクオカの同僚がそんなことを話す。

 すると、放送が切り替わる。


『あー、あー、第599任務部隊の指揮官だ。これから我が艦隊は亡命国家の支配地域に突入する。ワープ後はすぐに敵に察知され、戦闘が開始するだろう。しかし、それでも我々はブラックホール爆弾を処理しなければならない。それはこの銀河の平和と宇宙存続のためである。各員、それをしっかりと認識し、務めるように。以上』


 それを聞いたフクオカの男性同僚が一言。


「緊張感のねぇ演説だな」


 どこか他人事のようにしている声は、彼の顰蹙を買った。

 しかし、そんなことを言っている場合ではない。ワープアウト直後から戦闘が始まるかもしれないという緊張感から、とにかく艦内が忙しなかった。


『全艦、ワープまであと10秒。3、2、1、ワープ!』


 先行する宇宙駆逐艦が最初にワープする。

 次に巡航艦の半分がワープした。

 そして、残りの巡航艦がワープする。

 その瞬間、強い爆風に巻き込まれた。


「きゃあ!」

『敵の攻撃による衝撃波だ!総員、固定された物に掴まれ!』


 フクオカたちは、床に固定された戦術管理用液晶パネルの足を掴み、どうにか姿勢を保とうとする。

 艦の外では、亡命国家の国境防衛機構が第599任務部隊のことを襲撃する。

 先にワープしていた宇宙駆逐艦の多くが、この攻撃によって損傷を受けた。

 中には行動不能になる艦もいる。

 第599任務部隊の旗艦も例外ではなく、攻撃にさらされていた。


「艦首に被弾!第48から57区画に損傷!」

「隔壁閉鎖!第7、第8、第9砲塔は放棄!」

「全艦、速度を第7戦速に増速!全力で現宙域を突破せよ!」

「両舷増速!第7戦速!」

「目的はブラックホール爆弾だ!一隻でも多く到達せよ!」


 ワープ前の状態とは異なり、指揮官はかなり檄を飛ばしている。

 そのような状態でもなお、宇宙空間を伝播する衝撃波には敵わない。


 一体どれだけの時間が経過しただろうか。数時間か、数十分か、はたまた数分か。

 ふと、艦隊を覆いつくしていた振動が止む。


「……抜けたか?」


 指揮官が静かに聞く。

 その瞬間、攻撃とはまた違った揺れが襲い掛かる。

 まるで、幼児が宇宙戦闘艦の模型を振り回しているかのようだ。

 壁や床の固定されていない、個人端末やコーヒーカップ、その他もろもろが空中に投げ出される。

 ついでに気を抜いた瞬間でもあったため、人も飛ぶ。

 そのまま壁に叩きつけられるかと思いきや、艦自体がぐるりと回転し、ゆっくり床へと叩きつけられた。


「なんだったんだ、今のは……」


 艦に乗っている全員が、そんなことを思っただろう。

 フクオカに関しては、ドバッと冷や汗が出た。

 直後、レーダーを確認した士官が声を上げる。


「前方に巨大な壁が出現!」

「壁だと?」

「光学映像、入ります」


 モニターに映し出されたのは、文字通り「壁」であった。


「なんなんだ、これは……」


 その答えは航海課のほうから返ってきた。


「宇宙航海図との照合の結果、ブラックホールの最外縁部に我々はいます。指揮官、ここが目的地です」

「まさか、これがブラックホール爆弾なのか?」


 そう、巨大すぎて分からなかったが、ブラックホールを包み込む巨大な球体。

 これこそが、ラサイド連邦と亡命国家の秘密兵器、ブラックホール爆弾である。


「こんな巨大なものを建造していたのか……」


 敵ながら、感嘆の声を上げる。

 知的生命体が、ブラックホールを丸ごと包み込める程の構造物を建造出来ていたからである。


「どうやら先ほどの揺れは、ブラックホール爆弾に降着するはずの物質による、物質嵐のようです」

「磁気嵐とは違うのか?」

「宇宙空間に漂う塵やガスなどがブラックホールの重力によって降着する現象はよくあることですが、それを一定の場所で押しとどめた結果、密度の高い壁のような場所が出来上がったのではないかと推測されます」

「うぅむ。なんだかよく分からんが、とにかく目的地に到着したんだ。早くこいつを破壊しようではないか」

「しかし指揮官。これではあまりにも巨大すぎます。破壊しようにも破壊できません」

「それはやってから言うものだ。残りの艦艇数は?」

「我が方の残存艦艇は約3500隻です」

「3割ほど削られたか……。戦術教本としては、撤退すべき状況だろうが、そうは言ってられん。全艦、第6戦速で航行!ブラックホール爆弾に対して最大火力を叩きつけろ!」


 そういって、第599任務部隊は行動を開始する。

 しかし、それに待ったをかける者がいた。

 亡命国家艦隊である。


「後方より艦隊出現!亡命国家と思われます!」

「こんな時に限って素早い……!とにかくブラックホール爆弾への攻撃が最優先だ!」


 そういって、第599任務部隊は先を急ぐ。

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