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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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125/130

第125話 ワープ

 物理学者たちの見解を述べた意見書が、国防省軍令部へ提出される。

 その内容を審査した上で、軍令部は共和国政府と議会に提出するのだ。

 特に物理学者たちが強い懸念を示したのは、ブラックホール爆弾とその脅威である。

 危険なのは、ブラックホール爆弾の威力ではなくその副作用とも呼べる真の真空への相転移の可能性だ。相転移が始まってしまえば、もう誰にも止めることが出来ない。

 そのため、起爆前にブラックホール爆弾の信管に当たる装置を破壊するのが最善の策であることを強調した。

 その上で、円環加速装置を使った対処法はタイミングが難しいとの見解を示したのだ。

 共和国議会では、これに関して緊急の会合が行われた。


『我が銀河は、まさに危機的状況にあると言わざるを得ない!ここは連合諸国で協力して、亡命国家に存在するというブラックホール爆弾を破壊しなければいけないだろう』


 野党第一党の党首がこのように宣言する。

 他の議員も同じような論調だ。

 そして議会は次のような結論を出した。


『亡命国家にあるというブラックホール爆弾の破壊を第一優先とする。その際、超高エネルギー円環加速装置を使用した後発的対処方針も許可をする』


 すなわち、原則としてブラックホール爆弾の破壊が第一目標であるが、これに失敗した場合は円環加速装置を使った作戦を容認するという声明を発表したのである。

 物理学者、技術者、建設業界が総力を上げてかつてない大規模かつ短期間での納期による工事に迫られていた。

 一方その頃、前線にいる第599任務部隊はある命令を受理して行動に移っていた。

 それは、ブラックホール爆弾の破壊に関する内容だ。


『ブラックホール爆弾を無力化するため、偵察行動および破壊行動をしてほしい。比較的速力のある第599任務部隊ならば可能であると判断した。なお、この作戦行動をブラックホール爆弾起爆までに果たせなかった場合、事前承諾なしで円環加速装置を使用した対処法を行う。戦死する可能性があるが、それを認知した者だけが出撃するように』


 要するに、死ぬかもしれない作戦行動を容認した人間だけが出撃するように、ということだ。

 この対応に、艦を降りる人間もいた。当然だろう。誰しも不条理には死にたくないのである。

 しかし、多くの兵士がこの作戦を容認した。

 そして出撃する。

 今回、第599任務部隊はブラックホール爆弾まで最短のルートを通らずに、銀河の上部を通るように移動する。これは、亡命国家やラサイド連邦に気づかれないようにする必要があるからだ。


「本当に良かったのかな?」


 フクオカの女性同僚がそんなことを呟く。


「どうしたの?そんな深刻そうな事言っちゃって」

「だってさー。この作戦、簡単に言えば『他の国民のために死ね』って言ってるようなもんじゃん?あんまり気乗りしないよ」

「ならさっさと艦から降りれば良かっただろ。ここまで来て文句言うな」


 男性同僚が反論する。


「一応仕事だし?私、軍以外に何もないからさー」

「お前みたいなのがいるから、税金食らいって言われるんだろうが」

「知らないよ。ごはんも食べれて、ついでに平和も守るとか超お得じゃん」


 そういってギャーギャー論争が始まる。


「でもどっちも正しいかもね」


 フクオカは窓の外の宇宙を眺めながら、そんなことを呟いた。

 第599任務部隊は銀河の上方に出て、再び銀河中心部を目指す。

 そのために連続してワープを行う。時間にしてみれば2週間程ワープばかりであった。

 総移動距離は5000光年に達し、ワープ装置もかなり酷使している状況だ。

 そんな中、ロクシン共和国国防省から通達が入る。

 第599任務部隊の他にも、複数の艦隊が亡命国家に侵入しているとのこと。艦隊ごとにブラックホール爆弾を狙い、進撃するらしい。

 これでブラックホール爆弾を安全に処理出来れば御の字。仮に出来なくとも、円環加速装置を使用した対策案があるため、どっちにしろ問題はないらしい。


「実に安全圏内にいる人間の考えることだ」


 男性同僚が通達を見て、そんなことを言う。


「けど、誰かが命をかければその分他の命を救うことになるかもしれないんだよ?それはそれで良いことじゃない?」


 フクオカがそんなことを言う。


「そうかもしれないけどよ、今回ばかりは状況が違うぜ?今は宇宙存亡の危機に陥っているんだ」

「また反論してる。少しは同意したらいいんじゃないの?」


 またギャーギャー言い争いになる。


「諸君らはおしゃべりが好きだね」


 作戦課の課長が注意してくる。


「お互いの意見を交換し、作戦の役に立てるのなら十分ありがたいのだが……」

「すみません」

「ま、時折息抜きするのも必要だからね。別に禁止にしたりするわけじゃないからさ」


 そういって課長は、コーヒーのおかわりをしにいった。


「課長、いつも思うけど怒ってるんだか怒ってないんだかよく分かんないよな」

「分かる」

「めっちゃ同意」


 論争を他人に擦り付け、結局は通常業務に戻るのだった。

本日も読んで頂きありがとうございます。

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