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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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124/130

第124話 確証

 丸一日かけて、音声データが共和国の首都星に送られる。

 首都星にある、総合物理科学研究所に音声が送られると、早速物理学者たちが内容を聞く。


「……なるほど。言っている内容は簡単にしているものの、相当難易度の高いことをしていることがうかがえる」

「真の真空にするには相当のエネルギーが必要だろうが、トンネル効果を使われると簡単に相転移してしまいそうだな」

「しかし、彼が最後に言った超高エネルギー円環加速装置を使った対処法というのはどういうことなのだろう?」

「言いたいことはなんとなく分かるのだが、具体的な式がない限りはなんとも言い難いな……」


 その時、別のメッセージの着信が入る。


「国境警備艦隊からだ。『先の超高エネルギー円環加速装置を用いた空間対消滅の方法に関する理論式と、実際に行うための方法を記述する。分かりにくい所は随時指摘してほしい。我々も首都星に到着したら協力するので、容赦してほしい』……だ、そうだ」

「理論としてはどうなっている?」

「『光速の99%以上に加速されたラドンとテルルを相互に円環加速器に投入し、円環全体で原子番号138のウントリオクチウムを生成。K殻の電子が光速を越え、虚数方面のエネルギーを発生させる。これが擬似的に新しい宇宙を生成するため、この宇宙同士を干渉させ、対消滅させる』……。にわかには信じがたいな」

「だが検証する余地はありそうだ」

「しかし、対消滅させるということは膨大なエネルギーが空間内に放出されることになる。ただでさえ爆弾の威力で宇宙の相転移の可能性があるのに、そんなことできるとは思えない」

「早まるな、このメッセージには続きがある。『対消滅時に発生するエネルギーは、計算によれば通消滅時に発生する高次元隔壁通路と呼ばれる、高次元に通ずるワームホール空間に放出される。これはマルチバース宇宙に拡散すると予想されるため、我々の宇宙には影響がないと考えられる』」

「……ここであれこれ言っても仕方がない。我々で計算して、実現可能かどうかを確かめるぞ」

「そうだな」


 そうして物理学者たちによる、昼夜を徹した計算作業が始まるのであった。

 その技術者とともに、過去の論文などをひっくり返し、様々な資料に当たる。

 超高エネルギー円環加速装置は、首都星のある星系の外縁部に設置した実験用の円形加速器で足りるらしい。その辺りも含めて、計算しないといけない。

 そして亡命したラサイド連邦の技術者たちが首都星に到着する。彼らも応援という形で、作業に加わった。


「なるほど。宙間超遠距離円環加速装置は、今使っている超高エネルギー円環加速装置を使うことで間に合うのか」

『そうだ。ただし、ラドンとテルルをお互いに衝突させないといけないから、線形加速装置は2本必要になる』

「しかも投入する質量がとんでもなく多いな……。概算だけで2000億tも必要となるとは……」

『それだけ大規模なことをするんだ。それだけあって然るべきだろう』

「材料の調達は、さすがに軍を動員しないと無理だな……」

「確か核融合転化炉があったはずだ。アレを使えば何とかなるんじゃないか?」

「民間転用のものがこの間稼働を始めたはずだ。戦時特別徴用が適用できるだろう」

「しかし、民間に放出したものを、また政府管轄に戻すのは少し気が引けるな……」

「これも戦争だ。俺たちでもやれることを模索しないとな」


 数日間の検証の結果、材料さえ用意出来れば問題ないことが確認された。

 しかし、まだ問題は残っている。


「加速装置をどうやって運ぶかってことだよな」

「ブラックホール爆弾が起爆したあとに、加速装置を動作させなければ全部が無駄に終わる。寸分の狂いもなくな」

「実際可能なのか?」

『ギャリオ帝国やミューシャ王国で使われている通信技術を使えば簡単だろう。あとは遠隔ワープ技術さえあれば、円環加速装置を銀河中心部に持っていくことができる』

「遠隔ワープねぇ……。確かに研究はされているが、いささか対象物が大きすぎやしないかね?」


 それもそのはず。この超高エネルギー円環加速装置は星系外縁部をグルッと一周するように出来ている。当然、その直径は1光年にもおよび、想像を絶する程の巨大さである。


『問題はない。一度移動させてしまえば、あとは簡単に銀河中心部に持っていけるだろう』

「だが直径1光年程度の大きさで問題ないのか?銀河中心部にあるブラックホールは巨大なんだろ?」

『問題はない。現在のところ、起爆装置を含めた大きさは直径15光時程度だ。十分圏内に収まっている』

「それなら問題ないんだが……」


 この時点で物理学者の多くは、この作戦が成功するとは考えていなかった。

 それも当然だろう。これまでにない規模でのワープ。実験したこともない挙動。それらを含めて、量子コンピュータでさえ予測を困難にさせている。

 そんな上手くことが運ぶのか。その点だけが不確実性を物語っていた。

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