第123話 聴取
亡命を希望しているラサイド連邦の技術者たちは、そのまま旗艦の小さな部屋に拘束されることになった。
「それで、亡命理由は?」
ロクシン共和国国境警備艦隊の指揮官が尋ねる。
「どうも以前から、ヒト型に対する嫌悪感によって技術の要否が分けられていることに危機感を感じたとのことです」
「なるほど、人種の差別が技術の差別に繋がったというわけか」
「彼らは人間に対する嫌悪感は少なく、すぐにこちらとなじむことができるでしょう」
「それはいい。異文化交流というのも悪くないからな」
そういって、指揮官は溜息を挟む。
「それで?彼らから何か情報は得られたか?」
「銀河中心部にあるブラックホール兵器について、情報を提供できるとのことです」
「それは今、まさに話題になっていることではないか。聞き出せたのか?」
「それがまだなんです。彼らは、身の安全を保障することを最低条件としてきています」
「それもそうだろうな。亡命とは、自分の一切を捨てて行う行為だ。身の安全くらいは保障してきてほしいだろう」
指揮官は椅子に深く腰掛ける。
「よし分かった。彼らの安全は保障しよう。その代わり、そのブラックホール兵器に関する情報を聞き出してほしい」
「了解しました」
下士官は再び小さな部屋へと向かい、技術者たちと対面する。
「今しがた、指揮官から君たちの安全を確保する約束を取り付けた。この後の事務的な処理が終わったら、君たちは晴れて自由の身になるだろう」
『そうか。しかし確実な保障であってほしい。そのためにも、共和国の首都星に連れて行ってほしい』
「それはどうだろうな。我々は国境警備艦隊だから、簡単に内地には行けないだろうが……」
『そこをなんとか頼む』
「……分かった。あとで指揮官に頼んでみよう」
『そうしてくれると助かる』
後ろにいた伝令に、指揮官に伝えるように指示を出す下士官。
「それで……、銀河中心部にあるブラックホール兵器について、何か知っていることはあるのか?」
『知っているも何も、ここにいる者はあの兵器の現場責任者や主任技術者だ。詳細はよく知っている』
「なんと……。それなら待遇も良いだろうに、なぜ亡命なんぞしたんだ?」
『あの兵器はほぼ完成状態だ。完全に完成してしまえば、我々を処刑するだろう。そうなる前に、我々はいち早く脱出したというわけだ』
「使えるだけ使って、使い終わったら捨てる……。資本主義の行き過ぎか、共産主義のなれ果てなのだろう」
下士官がそんなことをぼやく。
「ま、どちらにせよ、逃げ出す状況には変わりなかったってことか」
『そうだ。そしてラサイド連邦と亡命国家はあの兵器を使うだろう。間違いなくな』
「それを阻止するためにはどうすればいい?我々は何をすればいい?」
『あの兵器は起動前に破壊するのが一番だ。そのためには内部に侵入し、複雑な回路を焼く尽くして使えなくする』
「しかし、それもできそうにない、と」
『だから第二の手段を取る。こちらは運を天に任せる状態だが、ないよりはマシだろう』
「それで、その方法というのは?」
下士官が身を乗り出して聞く。
『それを知るには、まずこのブラックホール兵器がどういうものかを知る必要がある』
「それは聞かないと行けないのか?」
『このあとの話を理解するのにも必要だ』
「……分かりやすく話してくれ」
『まず目標のブラックホール兵器は、宇宙を偽の真空から真の真空に転移させる相転移ブラックホール爆弾だ。単に爆弾とも言う。これはブラックホールから発せられるホーキング輻射をエネルギーにして大規模な爆発を起こす兵器になる。その時、空間が破れるほどのエネルギーがごく狭い領域に放射される。ここで真の真空へ相転移するエネルギーを得るか、もしくは量子力学で言うトンネル効果によって、宇宙空間中に穴が開くはずだ。そこから光速で宇宙は侵食され、既存の物理法則が成り立たない世界になる。つまり、この宇宙の崩壊だ』
「待て待て。一遍に多くのことを言うな。えーと……つまりは、ブラックホール爆弾のエネルギーが強すぎるから、宇宙そのものが相転移して崩壊すると言うことか?」
『簡単に言えばそうなる』
「無茶苦茶だな。これを理論立てた奴も、作ろうとした奴も」
『だが、連邦と亡命国家は本気だ。これを使って銀河の秩序を変えようとしている』
「宇宙そのものが変わるって意味なのかね?」
そこに、指揮官のもとに行っていた伝令が戻ってきた。
「指揮官より伝令です。『我が艦隊はこれより母港に帰還する。その際、彼ら亡命希望者を首都星に連れていく』とのことです」
「少なくとも、安住は保障されたようだな」
『ありがたい限りだ』
「とにかく、この話はすぐにでも物理学者の話を聞かないといけなさそうだ。データだけ、先に首都星の物理研究所に送っておいてくれ。と、その前に。そのブラックホール爆弾の対処法は?」
『おそらく共和国にもあるであろう、超高エネルギー円環加速装置を利用した、空間対消滅だ』
「空間対消滅?」
『詳しくは知らなくても問題ない。共和国の物理学者が何とかしてくれるだろう』
「そうか……」
そういって下士官は音声データの入ったメモリを取り、それを伝令に渡す。
「よろしく頼む」
「はい」
こうして、音声データは首都星に送られるのだった。
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