第122話 条約
早速、会議の議事録とメモの内容をもとに、講和条約の草案が書き上げられる。
その内容は至って単純だ。
『ギャリオ帝国、ロクシン共和国、ミューシャ王国の三ヶ国は、ラサイド連邦および亡命国家に対して、講和条約を結ぶ準備がある。講話内容に関しては、以下の通りとする。第一条、ラサイド連邦と亡命国家は無条件降伏する事。第二条、抵抗ある場合は徹底的に交戦する事。第三条、ラサイド連邦および亡命国家は戦争の代償として、賠償金を支払うものとする事。第四条、ラサイド連邦および亡命国家は講和条約に調印した時点で武装解除する事。第五条、ラサイド連邦および亡命国家は解体する事。第六条、この講和条約を締結する際に、ブラックホール兵器の有無を帝国、共和国、王国共同で確認する事。以上』
この講和条約を、ラサイド連邦に送付する。
傍から見れば、嫌味そのものに見えるだろう。
しかし、3ヶ国の実情を踏まえて、これが限界という状態だ。
早速ラサイド連邦が反応する。
『この講和条約は、我々連邦に対して侮辱的な内容を含むものであり、到底容認できるような内容ではない。そもそも我々は、ブラックホール兵器に関して一切知らず、かつそれを使用することなど断じてない。我々は常に正しい選択をしている。連合諸国には憤りすら感じる。二度とこのような講和を持ちかけないようにせよ』
完全に上から目線の反論文である。
しかし、それに関してロクシン共和国からさらに反論が入る。
『ロクシン共和国軍の任務部隊が、ラサイド連邦領域にてブラックホールを使用した兵器を確認している。ギャリオ帝国軍も亡命国家領域内で確認したとの報告を受けた。ブラックホールを利用しているのならば、我々はこの真意を確かめなければならない』
この反論には、ラサイド連邦も本心を突かれたのか、返信に時間がかかったようだ。
『それは、我が連邦が開発した、ブラックホールに似た天体を使用した最新兵器である。熱核兵器やブラックホールを使用していない分、人道的にも優秀な兵器だ。それをあたかも非人道的な兵器であるとするのは、いささか結論を急ぎすぎているだろう。正義は我々にある。この戦争を始めたのは連合諸国であろう。そのことをゆめゆめ忘れることのないように』
もはやかませ犬のような何かである。
そして付け加えるように、ラサイド連邦は次の声明を発表した。
『連合諸国は、高度知的生命体が長年に渡って培ってきた禁忌なる技術を使用した。生物兵器と熱核兵器が最も顕著な例だ。我が連邦艦隊を一瞬で葬り去ったその兵器は、まさに神を否定するかのごとく、犯してはならない罪を犯したのである。よって連合諸国は断じて許されない。それを制裁できるのは、我が連邦のみである』
そしてさらに、このように付け加えた。
『これはギャリオ帝国とロクシン共和国、そして中立国であるはずのミューシャ王国までを巻き込んだ、壮大かつ卑劣な行為だ。我々は断じて許さない』
もはや手のつけようがない程、混乱の極みへと化している。
こんな怨念を全面的に押し出す国家がいるのでは、どうしようもないだろう。
結局三ヶ国は、ラサイド連邦と亡命国家に対する攻撃を強める姿勢で一致した。
『これ以上は待てません。例え最終戦争になろうとも、私たちの手で連邦と亡命国家を葬り去らねばなりません』
電話会談で、ミューシャ王国の代表が言う。
『その考えを支持する。所詮ヒト型に近い何かなのだ。ここで滅ぼされたところで、銀河には何も影響はないだろう』
「もっとも、亡命国家が所有しているというブラックホール兵器が起動する前に決着をつけたい所であるが……」
ギャリオ帝国の代表が、溜息交じりに言う。
今の所、最大の脅威は亡命国家中心部に存在する宇宙を相転移させるブラックホール爆弾だろう。
しかも、起動したらもう止めることの出来ない、まさに最終兵器である。
「今からでも遅くない。銀河中心部に殴り込みに行くべきではないだろうか?」
『だが殴り込みがバレれば、ブラックホール爆弾に手をかけるのは容易に想像できるだろう。少数精鋭でカチコミに行くべきでは?』
『戦線が膠着している状態です。安易に戦力は用意できません』
「こういう時に、何か打開策でもあればいいんだがな……」
そんな話をしている時に、ロクシン共和国と亡命国家の境界線付近を警備している共和国軍の艦隊があるものを発見した。
「司令官、こちらに向かって小型艇のようなものが接近してきています」
「小型艇だと?何か信号は発しているのか?」
「救難信号を発しているようです」
「……とりあえず、小型艇を救助しよう。もしそれが罠だとしたら、返り討ちにするだけだ」
そう言って、小型艇の救助に入る。
そこにいたのは、レプティリアン、すなわちラサイド連邦か亡命国家の出身であった。
「君たち、所属は?」
旗艦の小さな部屋を使って、聞き込みが開始した。
万が一のことを考えて、小銃を突きつけた状態で尋問される。
『我々はラサイド連邦の技術者だ。とある命令に従って、亡命国家に派遣されていた』
「君たちが共和国に来た理由は?」
『我々は……亡命を希望する』
その様子を見ていた旗艦艦橋の一同は驚く。
これにより、大きく事態が進展するかもしれないからだ。
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