第119話 鉄槌
こんな場面で面倒なことが発生した。
「つまり、私の命令とモナック星系防衛隊指揮官の命令がなければ、『ジ・ラーグの鉄槌』は砲撃出来ないのか……」
「しかも、宇宙空挺団に対処しているのは我が艦隊指揮下の艦艇。なれば砲撃の許可も必要に迫られるでしょう」
「だが、この砲撃をすれば、確実に彼らを巻き添えにするだろう。そのあたりはどうだ?」
指揮官は作戦課に聞く。
「残念ながら、最悪の結果をもたらすことでしょう。仮に撤退したとしても、敵の宇宙空挺団を仮設前線基地に招き入れることになるはずです」
「撤退も出来ない。かといって巻き添えにも出来ない。一体どうすればいいんだ……?」
指揮官は頭を抱えてしまう。
しかし、そこまで時間は残されていない。
素早く回答を出す必要があるだろう。
「指揮官、時間がありません。命令をください」
「待て。今前線に出ている艦艇に連絡を取ってくれ。彼らの意見を尊重したい」
「しかし、時間が惜しいです」
「だが、部下の意見を聞かずして、命令を行使できるか」
指揮官の意見も最もだろう。仮に砲撃を行うことになれば、被害を被るのは真っ先に彼らなのだから。
早速通信を行う。
『指揮官、どうかなさいましたか?』
「我々はこれから、敵に向かって超巨大砲の砲撃を行う。現状のままでは、君たちを巻き込むことになってしまう。撤退させようにも、今それをすれば敵が我々の首元まで接近してくることになる。私は迷っているのだ。部下を危険に晒し、挙句の果てには自滅しろというのだ。こんなこと、可能であれば言いたくはない」
指揮官の本音がこぼれだす。
前線にいる艦長が指揮官に言葉をかける。
『指揮官、我々は共和国のために身を捧げる覚悟でここにいます。少なくとも私はそうです。共和国の未来のためならば、例え味方に撃たれようとも喜んで受け入れます』
その言葉に、指揮官はうつむく。ここまで愛国心ある人間もなかなかいないだろう。
すると、通信の向こうである報告がされる。
『艦長!ラサイド連邦軍の艦隊と思われる艦艇が出現しました!』
『奴ら、ここまで来やがったか。指揮官、決断を下すなら今すぐです。我々はどのようになっても問題ありません』
そういって通信が切れる。
「……余計に混乱させるようなことを言うんじゃない」
指揮官は頭を抱え、そして悩む。
「仕方ない。彼らの意見を尊重しよう」
そういって指揮官は顔を上げる。
「『ジ・ラーグの鉄槌』の砲撃許可を出す!直ちに射撃を!」
「了解!防衛隊に連絡します!」
そういって通信士官がモナック星系防衛隊に連絡を取る。
「こちら第599任務部隊、部隊指揮官より『ジ・ラーグの鉄槌』の砲撃許可を確認!直ちに砲撃を行ってください!」
『了解、第599任務部隊指揮官より砲撃許可の下命を確認。指揮官、砲撃命令を受理しました!』
『「ジ・ラーグの鉄槌」の砲撃準備を急げ!』
こうして「ジ・ラーグの鉄槌」は砲撃準備に入った。
まずは恒星から常時発しているエネルギーを貯蔵しているタンクから、熱エネルギーを抽出。
それを砲後方にある薬室内に滞留させる。
そのまま薬室内の圧力を上昇させ、必要なエネルギー量を確保した。
「薬室内圧力上昇、規定量まであと12TJ!」
「砲門開放、射撃準備完了!」
「照準位置調整!赤緯+2.254°、赤経+15.844°!」
巨大な砲が、恒星を中心に回転を開始する。
その時であった。
第599任務部隊のレーダーに、あるものが映った。
「指揮官!ラサイド連邦軍の大規模艦隊が姿を現しました!」
そこには、超重量級宇宙戦艦「ハイトット2世」の姿もあった。
「今なら後ろのラサイド連邦軍の艦隊ごと吹き飛ばせる!急いで射撃を!」
『今急いでいる!』
「ジ・ラーグの鉄槌」は、巨大であっても素早く移動している。通常、物体の質量が大きければそれだけ動かしにくいのだが、人間の感覚に近い速度で動いていた。
「エネルギー充填完了!」
「砲口の照準よし!」
「すべての準備が完了しました!」
モナック星系防衛隊の指揮官が最終的な命令を下す。
「『ジ・ラーグの鉄槌』の射撃を許可する!射撃!」
砲口から少量のエネルギーが漏れ出している。砲撃準備が整った証だ。
その様子を見て、第599任務部隊の指揮官はポツリと呟いた。
「我々の勝利のために、死んでくれ」
「ジ・ラーグの鉄槌」内部では、射撃するためのシークエンスが続いていた。
「発射まであと30秒!」
「薬室内のエネルギー充填率115%!」
「エネルギー流入弁開放準備良し!」
「回路開放!最終安全装置解除!」
「射撃準備完了!」
「カウント省略!撃て!」
その瞬間、射線上に超強力な光線が出現する。
その威力は、まさにガンマ線バーストにも似ていた。
光速に近い速度で、光線はラサイド連邦軍の方へと向かっていく。
ハイトット2世では、何かの兆候は掴んでいたかもしれない。
しかし、それを真に理解していたものはいなかっただろう。
第599任務部隊の一部、ラサイド連邦の宇宙空挺団と大規模艦隊が、「ジ・ラーグの鉄槌」の攻撃を食らったのであった。
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