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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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116/130

第116話 遅延

 共和国のネットワークが遮断されたことは、銀河中に知れ渡ることになった。

 当然、ネットワーク環境に依存している現代社会では、影響がとどまるところを知らない。

 各種インフラが停止し、情報の伝達がうまく行かなくなる。

 行政から一般社会に至るまで、あらゆるところで混乱が生じた。交通インフラは麻痺し、銀行システムは停止を余儀なくされる。ありとあらゆる端末は、現在のネットワークから切り離され、緊急用のネットワークに接続された。

 今回切り替えられた非常用クローズドネットワークは、一昔前の規格で作られた骨董品とも呼べるような重厚な作りをしている。

 そのため、接続の遅さは光るものがあった。


「とりあえずこれで対処するしかないのか……」


 今回の対応を追われた政府関係者が呟く。


「こんな通信しているかどうか分からないようなやつ、使い物になるのか……?」


 そんなことを溜息とともに吐き出しながら、仕事に戻る。

 混乱は、前線に出ているロクシン共和国軍にまで波及した。

 ロクシン共和国所属の軍であるから、当然使っているネットワークも共和国のものを使用している。

 そのため、急にネットワークからはじき出されてしまい、現場は混乱に陥っていた。


「何が起きた!?」

「ネットワークが旧型のものに切り替わった模様!」

「どうなっている……!」


 第599任務部隊も、混乱している艦隊の一つである。

 自動的に非常用クローズドネットワークに接続されたからいいものの、状況を把握出来ていない。

 それから数時間後、総司令本部から全部隊に一斉に通達が来る。

 珍しくテキストドキュメントのみでの通達だ。


『現在、共和国ネットワークがコンピュータウイルスによって汚染された。現在は以前の規格によるクローズドネットワークで動いている。これはウイルスに強い構造をしているが、いつまでもこれで通信をしているわけにはいかない。復旧は急がせているが、いつになるかも分からない状況だ。申し訳ないが、しばらくはこれで耐えてほしい』


 そういって、今後の作戦要綱を文面のみで指示している。


「これ大丈夫かね?」

「分かりません。しかし、現在はこれで今後の行動をするしかないということでしょう」


 第599任務部隊の指揮官は困惑した。

 共和国のネットワークがクローズドになったことで、問題は国外にまで広まっていく。

 それは、銀河内で接続されている大規模相互ネットワークから遮断されたことだ。

 銀河内のネットワークは、各国で使われているネットワークを相互につなぎ、巨大なネットワークを形成している。

 これによって、違う国ともネットワークを使うことができるのだが、今回共和国がこのネットワークから外れ、独自の閉じた世界(ネット)になることになったのだ。

 いうなれば、自由に行き来できたはずの数多くの道路が、ほぼすべて封鎖されて限られた主要道路しか残っていないという状態である。

 そのため、外部との情報のやり取りにかなりの時間を要するだろう。

 それは、軍も同じである。

 前線を行くギャリオ帝国軍艦隊が、あるものを発見した。


「指揮官、亡命国家の艦隊がロクシン共和国進軍地域に向かっているという情報が入りました」

「すぐにロクシン共和国に連絡だ」

「しかし、ロクシン共和国は現在ネットワークから切断されている状態です。メッセージを送信するには、総司令部へ送信したのち、政府経由でロクシン共和国に送らなければなりません」

「面倒なことになったな……」


 しかし情報の提供は、重要な軍事的行動である。

 面倒であっても、とにかく情報を提供するほかないだろう。

 早速情報を総司令部に向けて送信する。

 それを受け取った総司令部は、内容をそのままにギャリオ帝国の国家情報統制委員会へと送信する。

 情報を受信した国家情報統制委員会は、限られた非常用クローズドネットワークへ繋がる回線を引っ張り出して、少しばかり古い機械でメッセージを送信した。

 これにより、ロクシン共和国側の政府管轄の情報機関へと送られる。

 それを確認した機関は、その情報を共和国軍の総司令部へと送った。

 そして情報を受け取った総司令部が、骨董品同然のネットワークを介して、前線を行く部隊に連絡するということだ。

 この作業をするだけで、丸1日かかってしまった。

 情報の更新を確認した第599任務部隊の士官が、これを指揮官に通達する。


「指揮官、ギャリオ帝国軍からの情報です。我が艦隊に向けて、亡命国家艦隊が接近している可能性ありとの事です」

「亡命国家の艦隊だと?今だってラサイド連邦軍の面倒ごとに付き合っているというのに……」


 その瞬間であった。

 艦橋にけたたましいアラームが鳴り響く。


「な、何事だ!」

「艦隊側面方向より、正体不明の艦隊接近!」

「っ!亡命国家か!?」


 指揮官の察した通り、亡命国家艦隊による奇襲である。

 この亡命国家の行動は、計画されていたものだ。ラサイド連邦へ突出してくる艦隊が現れたら、総力を上げてこれを撃退するという方針に基づき決行された。

 艦を沈めればそれだけで士気が向上するし、拿捕出来れば戦力の拡充に繋がる。後ろに引き下がれない状況だからこそ、兵は尽力するのだ。

 今、亡命国家としては、決死の作戦が遂行されようとしていた。

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