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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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115/130

第115話 Bot

 戦地での戦況が逐一報告され、その様子がマスメディアを通じて伝えられている。

 前線とは程遠い平和な時間が穏やかに流れる、というわけには行かなかった。

 もとより、ラサイド連邦はギャリオ帝国とロクシン共和国に取ってみれば、仮想敵国である。さらに最近話題に上っている亡命国家。

 国民感情としても、許容しがたい国家であることは間違いないだろう。

 しかし、そんな中でも様々な人間がいる。

 ある人は「ラサイド連邦は完全な悪である」とSNSに書きこみ、またある人は「ラサイド連邦は我々を救う光の戦士だ」とデモを行う。

 特に、戦争肯定派と反戦主義者とのデモ行進が連日のように行われ、それはギャリオ帝国とロクシン共和国双方で日に日に拡大していった。

 厄介なのは、ネットワーク上で陰謀論に飲まれる人間が少なからずいるということである。

 共和国の主要なSNSでは、亡命国家に対する扱いが、政府のそれとは正反対である。


『亡命国家はBN(ブラックネーション)に支配されたこの銀河を救うために現れた光の戦士だ!亡命国家の活動を支援するために、ラサイド連邦は行動しているに過ぎない!』

『現在我らの銀河は、外からの大いなる存在によって既存の国家体制を崩壊させるだろう。しかし、その時が、市民が真に解放される時なのである』


 このような主張が多く目につく。

 しかし実態は、特定の少数派がまるで大多数の人間が主張しているように、投稿の数を増やしているに過ぎない。正直無視するのが一番である。

 しかし、中にはそれに影響を受ける人間も少なくない。特に、人格が形成されつつある青少年には、少しばかり刺激が強い。

 そのためロクシン共和国政府はこれを規制するために、大規模に情報統制を行うことを決定した。

 方法は単純。SNS上を走査するBotを使って、特定の単語を使っているアカウントをリストアップ、これをふるいにかけてアカウントを停止させるかどうかの判断をする。

 最終的には人を使って、正しい情報を流したり、アカウントを停止させているのだ。

 その業務を委託された外郭企業。ネットワークビジネスを展開するソラッド・ホールディンクスである。

 その孫会社であるソラッドSNS研究所では、誤った情報を流すアカウントを発見するBotの開発、運用を全面的に引き受けている。


「おはよーさん」

「おはようございます、主任」


 この日もいつものように出勤してきた社員たち。


「さて、反応はいかがかね?」

「大漁もいいところですよ。それに、我々の仕事は検閲行為だとか違法だとかの声も多数寄せられています」

「それに関してはしゃーない。正しい情報を届けること、会社の理念にも書いてあるだろ」


 そう言って、主任はコーヒーを一口飲む。


「それじゃあ今日の業務をやっていくか」


 簡単な朝礼のあと、夜間の間に収集した投稿文やアカウントをアルゴリズムによって分類していく。


「今回は文章が多いですね」

「あらかたのアカウントは停止処分させたからな。火事の大元を消火したようなものだよ。あとは燻っている火元を消すだけだ」

「しかし、どうしてこうも嘘くさいものを信じようとするんですかね?」

「人間っていうのは単純なものと理想を追いかける生き物だ。現代社会では1年で取り扱う情報量が200年前の人間の一生分とも言われている。そんな情報量、当然処理しきれない。だから単純にしたがる。それが行動原理なのかもな」

「そんなものなんですかねぇ?」

「あくまで一個人の考えだ、まともに受けるなよ」


 主任はそう釘を刺した。

 それから作業をすること数時間。

 一人の社員が、あるものを発見した。


「ん?なんだこれ……」


 すぐに同僚と確認を取る。


「これおかしくないか?」

「確かに……。何か違和感を感じる……」


 この話はすぐに、主任のもとに伝わる。


「どうも不可思議なアカウントが大量にあるみたいです」

「不可思議なアカウント?」


 そう言われて、そのリストを見てみる。

 そこには、似たようなアカウントがズラッと並んでいた。


「取得しているIPアドレスが見たことないものだったり、アカウント名が似通っているんですよ」

「これは……何物かが工作したんだろうな」


 早速会社として、そのアカウントの削除に入る。


「うわ、こりゃあ掘れば掘るほど出てくるぞ」


 最終的には30億ものBotアカウントが発掘される。


「さて、削除に入るか」


 その作業をし始めた瞬間だった。

 突如として、セキュリティアプリがアラームを鳴らす。


「なんだ!何が起きた!?」

「ファイアウォールに反応あり!ウイルスで間違いありません!」


 それは集めることによって初めて形となり、コンピュータウイルスの役目を果たすことになる、地雷型ウイルスであった。


「とにかく隔離だ!仮想PCの中にあるんだろう!?」

「ダメです!勝手にネットワークに接続しようとしています!」


 本来ならありえないような挙動。それを目前で見せられている専門家。

 そしてウイルスはネットワークと接続される。


「ウイルス、共和国ネットワークに接続されます!」

「政府の情報技術研究所に連絡!今すぐ共和国のネットワークを非常用に切り替えるように通達!」

「しかしそんなことをすれば一般人にも影響が……」

「被害の拡大を防ぐことが最優先だ!急げ!」


 至急、政府管轄の情報技術研究所に連絡が飛ぶ。

 その間にも、ウイルスは陰謀論をまき散らしながら、様々な場所でめちゃくちゃなことを行う。

 政府の方でも被害を確認したのか、迅速に対応する。

 そして、ものの数分でネットワークを遮断した。

 これにより、ウイルスは閉じ込められた状態になる。あとはゆっくりと確実に対処していくだけだ。

 多くの弊害を発生させることになるが。


「非常用クローズドネットワークへの切り替えが終了しました」

「まずは一安心、といったところか……」


 主任の額には、冷や汗が伝っていた。

本日も読んで頂きありがとうございます。

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