第114話 陥落
国防省と戦略研究所、そして軍学校が一同に介して、三日三晩に及ぶ大論争が巻き起こった。
問題は、フクオカたちが行ったシミュレーション結果は正しいのかどうか、である。
当然だろう。現在の所、演習で使った量子コンピュータは精度の高い結果を出力するからだ。政府管轄のスパコンより劣るものの、それでも十分な精度である。
そのコンピュータがエラーを吐いたのだ。議論の余地は十分にあるだろう。
そして結論が出た。
「指揮官!亜光速による突撃攻撃が承認されました!」
「本当か!?」
その報告に、指揮官は椅子から立ち上がる。
「ただし、条件がついています。突撃させる艦艇は完全無人であること、使う艦艇は巡航艦以上であること、です」
「当然だろうな。はたから見れば、こんな作戦狂っているに決まっているからな」
「あらかじめ、突撃させる艦のリストを作りました。どの艦を突撃させますか?」
「うぅむ……。大型艦のほうが有利なのだろうが、あまり使いたくないな……」
「小官としては、この艦がよろしいかと」
そういって参謀が提案したのは、加速力にも優れた巡航艦であった。
「惑星要塞には亜光速で突っ込ませるんです。この際加速力の良い艦を使うべきでしょう」
「それもそうだな……。よし、この艦を突撃させることにしよう」
そして通達が出される。
その艦から乗組員が脱出し、無人になる。
艦橋の機能は、他の艦を使って操作することになった。今回選ばれた艦は、無人艦として運用することを視野に入れた艦であり、無人操舵に移行するのは簡単である。
そして準備は整った。
「指揮官、作戦開始の下命をお願いします」
「……これより、惑星要塞に対する無人艦による突撃作戦を実行する!作戦開始!」
「作戦開始!突撃艦を所定の位置へ!」
そういって無人艦が移動していく。
場所は惑星要塞から10光分離れた場所から行う。
今回は万全を期すために、加速の距離を十分に取った。
そこから、機関が壊れる前提の出力で加速を行う。
艦内は無人であるため、どれだけ負荷をかけても問題ない。
そのまま、殺人的な加速を続ける。
「現在、光速の10%突破」
監視している通信士が報告する。
「……本当に大丈夫なのかね?計算でもはじき出せていないのだろう?」
「ここは運を天に任せて、信じて待つしかありません」
「こんな高度に発達した科学技術でも、分からないことはあるもんだな」
「少し不思議な感覚ですね」
それからさらに時間が経ち……。
「光速の45%に到達、推定破壊速度を突破!」
破壊ギリギリの速度に到達したが、それでもなお加速を続ける。
ここで少し、物理の話をしよう。
物体は速度が上がると、質量も増えるという法則がある。これは相対性理論で語られている内容だ。詳しい計算式もあるが、今回は省略する。
ではなぜ質量が大きくなるのか。
いくつか説はあるものの、今回鍵になるのはヒッグス場というものである。
ヒッグス場は、簡単に言えば水のようなもので、物質に抵抗を与える存在だ。
水で満たされたプールを思い浮かべてほしい。その中をゆっくりと歩く時と、素早く歩くときでは、抵抗の大きさが違うことが体感的に分かるだろう。
これと同じようなことが通常空間内で発生している。抵抗となるヒッグス場が邪魔をすることで、あたかも質量が大きくなっているように見えるのだ。
「無人艦、光速の70%を突破!惑星要塞衝突まであと5分35秒!」
ギャリオ帝国艦隊は、安全のために5光分の所で観察している。そのため、惑星要塞の状態を確認するのに5分ほどかかる。
「無人艦、光速の85%を突破!破壊確定速度に達しました!」
確実に惑星要塞を破壊できる速度に、無人艦は達した。
「まもなく、惑星要塞に衝突します!」
速度から逆算した時刻で、衝突の瞬間が知らされる。
しかし観測した所で、そこにはなんでもない惑星要塞があることだろう。
光の速さでも5分の所にいるのだ。結果は5分後に分かる。
それから4分58秒後。
惑星要塞に変化があった。
それは、ほんの一瞬の出来事である。
まず、惑星要塞の外側が弾けた。
次の瞬間には、惑星要塞の各砲塔に供給されていたエネルギーが放出され、惑星要塞の内部から装甲や砲を押し上げる。
そして最後には、弾薬庫その他に引火したのか、大爆発を遂げた。
「惑星要塞の爆破を確認!作戦は成功です!」
その声に、艦橋では歓喜の声が上がる。
一方で、指揮官は椅子に大きく腰掛けた。
「作戦がなんとか行って、正直安堵しているよ」
「私もです。しかし、これをなぜ量子コンピュータが再現出来なかったのかが謎ですが……」
「光速に近い速度でぶつかるということは、コンピュータ上では予想だにしない挙動を見せる場合があります。物体同士がめり込むとかですね。それが発生したために、エラーを吐いたのではないでしょうか?」
そう、作戦課課長が言う。
「そういうものなのかねぇ……。少々疑問が残るものだが、まぁ良しとしよう」
こうしてギャリオ帝国艦隊は、さらに先へと進むことになる。
その前に、惑星要塞の残骸や、衝突によって発生した恒星もどきを何とかしなければいけないが。
「とにもかくにも、この戦術は今後注意しなければならないだろう。今日でも考えられる戦術だろうが、人的にも物資的にも負担のかかる戦術となるだろうからな」
そう指揮官が締めくくった。
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