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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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114/130

第114話 陥落

 国防省と戦略研究所、そして軍学校が一同に介して、三日三晩に及ぶ大論争が巻き起こった。

 問題は、フクオカたちが行ったシミュレーション結果は正しいのかどうか、である。

 当然だろう。現在の所、演習で使った量子コンピュータは精度の高い結果を出力するからだ。政府管轄のスパコンより劣るものの、それでも十分な精度である。

 そのコンピュータがエラーを吐いたのだ。議論の余地は十分にあるだろう。

 そして結論が出た。


「指揮官!亜光速による突撃攻撃が承認されました!」

「本当か!?」


 その報告に、指揮官は椅子から立ち上がる。


「ただし、条件がついています。突撃させる艦艇は完全無人であること、使う艦艇は巡航艦以上であること、です」

「当然だろうな。はたから見れば、こんな作戦狂っているに決まっているからな」

「あらかじめ、突撃させる艦のリストを作りました。どの艦を突撃させますか?」

「うぅむ……。大型艦のほうが有利なのだろうが、あまり使いたくないな……」

「小官としては、この艦がよろしいかと」


 そういって参謀が提案したのは、加速力にも優れた巡航艦であった。


「惑星要塞には亜光速で突っ込ませるんです。この際加速力の良い艦を使うべきでしょう」

「それもそうだな……。よし、この艦を突撃させることにしよう」


 そして通達が出される。

 その艦から乗組員が脱出し、無人になる。

 艦橋の機能は、他の艦を使って操作することになった。今回選ばれた艦は、無人艦として運用することを視野に入れた艦であり、無人操舵に移行するのは簡単である。

 そして準備は整った。


「指揮官、作戦開始の下命をお願いします」

「……これより、惑星要塞に対する無人艦による突撃作戦を実行する!作戦開始!」

「作戦開始!突撃艦を所定の位置へ!」


 そういって無人艦が移動していく。

 場所は惑星要塞から10光分離れた場所から行う。

 今回は万全を期すために、加速の距離を十分に取った。

 そこから、機関が壊れる前提の出力で加速を行う。

 艦内は無人であるため、どれだけ負荷をかけても問題ない。

 そのまま、殺人的な加速を続ける。


「現在、光速の10%突破」


 監視している通信士が報告する。


「……本当に大丈夫なのかね?計算でもはじき出せていないのだろう?」

「ここは運を天に任せて、信じて待つしかありません」

「こんな高度に発達した科学技術でも、分からないことはあるもんだな」

「少し不思議な感覚ですね」


 それからさらに時間が経ち……。


「光速の45%に到達、推定破壊速度を突破!」


 破壊ギリギリの速度に到達したが、それでもなお加速を続ける。

 ここで少し、物理の話をしよう。

 物体は速度が上がると、質量も増えるという法則がある。これは相対性理論で語られている内容だ。詳しい計算式もあるが、今回は省略する。

 ではなぜ質量が大きくなるのか。

 いくつか説はあるものの、今回鍵になるのはヒッグス場というものである。

 ヒッグス場は、簡単に言えば水のようなもので、物質に抵抗を与える存在だ。

 水で満たされたプールを思い浮かべてほしい。その中をゆっくりと歩く時と、素早く歩くときでは、抵抗の大きさが違うことが体感的に分かるだろう。

 これと同じようなことが通常空間内で発生している。抵抗となるヒッグス場が邪魔をすることで、あたかも質量が大きくなっているように見えるのだ。


「無人艦、光速の70%を突破!惑星要塞衝突まであと5分35秒!」


 ギャリオ帝国艦隊は、安全のために5光分の所で観察している。そのため、惑星要塞の状態を確認するのに5分ほどかかる。


「無人艦、光速の85%を突破!破壊確定速度に達しました!」


 確実に惑星要塞を破壊できる速度に、無人艦は達した。


「まもなく、惑星要塞に衝突します!」


 速度から逆算した時刻で、衝突の瞬間が知らされる。

 しかし観測した所で、そこにはなんでもない惑星要塞があることだろう。

 光の速さでも5分の所にいるのだ。結果は5分後に分かる。

 それから4分58秒後。

 惑星要塞に変化があった。

 それは、ほんの一瞬の出来事である。

 まず、惑星要塞の外側が弾けた。

 次の瞬間には、惑星要塞の各砲塔に供給されていたエネルギーが放出され、惑星要塞の内部から装甲や砲を押し上げる。

 そして最後には、弾薬庫その他に引火したのか、大爆発を遂げた。


「惑星要塞の爆破を確認!作戦は成功です!」


 その声に、艦橋では歓喜の声が上がる。

 一方で、指揮官は椅子に大きく腰掛けた。


「作戦がなんとか行って、正直安堵しているよ」

「私もです。しかし、これをなぜ量子コンピュータが再現出来なかったのかが謎ですが……」

「光速に近い速度でぶつかるということは、コンピュータ上では予想だにしない挙動を見せる場合があります。物体同士がめり込むとかですね。それが発生したために、エラーを吐いたのではないでしょうか?」


 そう、作戦課課長が言う。


「そういうものなのかねぇ……。少々疑問が残るものだが、まぁ良しとしよう」


 こうしてギャリオ帝国艦隊は、さらに先へと進むことになる。

 その前に、惑星要塞の残骸や、衝突によって発生した恒星もどきを何とかしなければいけないが。


「とにもかくにも、この戦術は今後注意しなければならないだろう。今日でも考えられる戦術だろうが、人的にも物資的にも負担のかかる戦術となるだろうからな」


 そう指揮官が締めくくった。

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