第107話 脱出
敵の兵士が逃げたことを確認したドレイクは、早速制御装置を操作する。
「さて、連邦語の翻訳は出来たかな?」
現在ドレイクは、汎用宇宙服を着こんだ状態にある。
ヘルメット部は|ヘッドマウントディスプレイ《HMD》が搭載されており、様々な情報を表示させることができる。
それを使い、ドレイクは連邦で使われている言語を翻訳させた。
「ふむ。こういうのは何度かやったが、大体似たり寄ったりなんだな」
そういって、慣れた手つきで操作する。
「とりあえず砲口開閉板を閉鎖、と」
すると、巨大な砲口に装備されている扉が閉鎖していく。
「残りの逃がし弁も閉鎖。緊急用非常弁も閉鎖……は出来ないか。仕方ない、これは無視しよう」
そういって次々と準備を進める。
『大尉、聞こえますか?』
同乗者からの通信が入る。
「何かあったか?」
『味方爆撃隊のほとんどが退却を完了しました。残ったのは我々の機体だけです』
「そうか。こちらも準備は進めている」
エネルギー抽出用の電磁波照射装置を起動するドレイク。
もう少しで準備は完了する。
その時だった。
中央制御室に響き渡る警報音と照りつける赤いランプ。
『な、なんですか!?』
通信でもこの音は聞こえているようだ。
そして機械的な声が響く。
『ラサイド連邦総司令部より、この施設は物理的に破壊されることが承認されました。現在、ラサイド連邦軍が現場に急行しています。非戦闘要員および戦闘員は直ちに退避してください。破壊活動まで、推定10分』
どうやら、遠隔操作によって自動破壊措置通信が発せられたようだ。
『大尉!すぐに退避を!』
「いや、こいつを破壊するには照射装置の確実な動作が必要だ。少なくとも、暴走状態にさせないといけない」
『しかし!』
「あと4分だ。それだけあれば、確実に暴走状態にできる」
『……分かりました。あと3分45秒で現宙域を離脱できるように準備しておきます。乗り遅れても恨まないでください』
「もちろんだ。それまでには戻る」
そういって、ドレイクは暴走させる準備を急いで進める。
しかし、急いだ所で間違ってしまっては元も子もない。確実に、正確に、されど迅速に。
ドレイクは的確に操作を進める。
『連邦軍による破壊活動まで、推定8分』
機械的な声が、無常に時間を宣告する。
「よし。緊急用の回路から、照射装置のセーフティーロックを解除」
しかしドレイクは、焦ることなく、操作を続ける。
そして。
「照射装置、暴走開始」
画面をタップし、電磁波照射装置を無制限照射させる。
これにより、超出力レーザー光線砲の内部でエネルギーが溜まる一方になるだろう。
『連邦軍による破壊活動まで、推定7分』
残された時間は少ない。
照射装置の動作を確認したドレイクは、一目散に中央制御室を出る。
重力が小さいラサイド連邦の施設内を、まるで飛ぶように移動していく。
階段はほぼ落下するように駆け抜け、廊下は床と壁を蹴って移動する。
そして入ってきたエアロックへと到着した。
「大尉!もう時間がありません!」
「落ち着け。我々が離脱するまでには、まだ猶予が残っている。いまから加速度80の30秒で行くぞ」
80の30。これはすなわち、加速度80km/s^2を30秒行うということである。
「そんなに!?確実に死にますよ!」
「ここで爆発に巻き込まれて死ぬか、加速で死ぬか。どっちがいい?」
「……あぁもう!分かりましたよ!」
そういって、装置をいじる。
「カウントダウン省略!発進!」
エンジンを最大にする。
その瞬間、座席に張り付くような殺人的加速が、ドレイクたちに襲い掛かる。
「ぐ、う……」
まともに呼吸することも出来ない程の加速だ。
内臓が押しつぶされ、内出血もあり得る状態である。
そのまま、魔の30秒が経過する。搭乗しているドレイクたちにとってみれば、まさに地獄の時間だろう。
こうして、なんとか戦線を離脱することに成功した。
「ごほっ、無事か?」
「どうにか……」
「距離は何とか稼いだな」
「えぇ、ここなら光線砲が爆発しても問題はないはずです」
「念のため、影響のない加速度で逃げよう」
「了解、10km/s^2で加速を続行します」
そういって第599任務部隊へと戻る。
肝心の第599任務部隊は、光線砲まで行く必要がなくなったため、十分に減速して、第7惑星の衛星の周回軌道上で待機していた。
「衛星まで約12万km」
その時だった。
後方で何かが光り輝く。
「……超出力レーザー光線砲の破壊を確認。おそらく周辺にいたラサイド連邦艦隊も一緒に巻き込まれただろうな」
「……今回の任務、人間の限界を超えそうになりましたね」
「あぁ、色々とギリギリだったな」
そう言って、ドレイクたちは第599任務部隊の旗艦へと戻っていくのだった。
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