第104話 加速
再び爆撃隊が前進する。
爆装せずに出撃する爆撃隊には、ある種の奇妙な空気が流れていた。
『変な感覚ですね、ドレイク大尉。まるで訓練をしているみたいだ』
「だが重要な任務だ。しっかり努めるように」
『もちろんですよ』
そんなことを言っているうちに、爆撃隊の速度はマッハ5を超える。
すると、ドレイクの爆撃手兼航海士が少しソワソワしだす。
「大尉、現在のままだと艦隊の重力ターンの時間に間に合わなくなります」
「今のままだと、か?」
「えぇ。ですが、今の加速度を1.8倍にすれば間に合います」
「だが、今の状況でもエンジンの出力いっぱいだ。これ以上負荷をかけると破損しかねない」
「しかし大尉、ほかに方法がありません」
ドレイクは少し考え込む。
「……一瞬だけ。一瞬だけエンジンの出力を今の5倍で出すのはどうだ?」
「5倍、ですか?そんな負荷をかけたらエンジンに何が起きるか分かりませんよ」
「だができるだろ?」
「……えぇ、できます。スペック上では問題ないです」
宙間航行用航空機には、宙域離脱用の瞬間加速装置が装備されている。緊急離脱するなど、瞬間的に加速を要する場合に用いるのだ。
この出力は、自由に設定することができる。例えば5km/s^2、60秒や、10km/s^2、30秒などだ。
この爆撃機のエンジンのスペック上、100km/s^2までの加速を行うことができる。
しかし、ここまで加速すると人体に影響が出てしまう。
人間が耐えられるのは8~9G程度。つまり90km/s^2前後で失神なり気絶なりする。
最大で12G耐えられるとも言われているが、少なくとも気軽にかけていい加速度ではない。
それに宇宙空間では、ガスの燃焼で得られる加速は意外と小さい。作用反作用の影響だ。
最大加速度までの推力を得るには、もはや爆発と同等の燃焼が必要である。
今ドレイクが提案しているのは、人間の限界に程近い78km/s^2で切り抜けようとしているのだ。
「仮にそれで加速としたとして、気絶しない保障はどこにもないんですよ?」
「分かっている。気絶したとしても、自動操縦装置があるから問題はない」
「そのあとの任務の話をしているんですよ。そこまでに任務を遂行できる人間が起きているかが問題なんです」
爆撃手が必死にドレイクのことを説得する。
だが、ドレイクの意思は固いようだ。
「時間がない。やるなら早めのほうがいい」
あくまでドレイクは冷静である。
ドレイクの固い意思に折れたのか、爆撃手は頭を激しく掻く。
「分かりました!分かりましたよもう!」
そういって爆撃手は通信機を取る。
「各機に告ぐ。加速度78km/s^2の12秒で加速を行え。繰り返す、75km/s^2の12秒で加速を行え」
その反応に難色を示すものも多くいたが、ドレイクが仲介することで事なきを得た。
そして実際に加速が行われる。
「加速開始まで、あと10秒……」
「各機、気を強く持てよ」
「3、2、1、開始!」
その瞬間、機体と体に相当な力が加わる。
想像以上の強烈な加速が、問答無用に牙をむく。
「ぐ、ぉ……」
もはや声はおろか、呼吸もまともにできない。
これによって、爆撃手は気絶した。
しかし、ドレイクはギリギリの所で耐える。
そして加速が終了した。
「うぅ……。返事できる奴はいるか?」
ドレイクは通信機を使って呼びかける。
『こちら第1029爆撃隊隊長機、数名気絶したままだ。かくいう自分も頭痛がする』
『第1031爆撃隊、こちらも何人か失神している。自動操縦装置は働いている』
「他の隊は……、まぁ、いい。ついてこれる奴だけ来い。今は時間との勝負だ」
そういって操縦桿を微妙に倒して、機体を動かす。
そして、超出力レーザー光線砲に接近する。
そのころ、ラサイド連邦艦隊は、第599任務部隊の出方について協議が行われていた。
「奴ら、こいつを破壊しようとしているのは明白だ」
こいつとは、超出力レーザー光線砲のことである。
「しかし逃がし弁が破壊されたことで、制御が効かない状態です。先ほども申しましたが、修理しようにも放出されている熱エネルギーで近づくこともままなりません」
「その影響で、艦隊に被害が出ています。この中でまともに動けるのは、当初の予定の6割になります」
「被害が出すぎじゃないのか?もう少し何とかならなかったのか?」
「逃がし弁を破壊されたのは想定外です。想定外が重なった結果です。もうどうしようもありません」
「もういい!言い訳は聞きたくない。とにかく打開策だ。誰かこの状況を好転させる作戦を思いつく奴はいないか!?」
しかし誰も答えを言わない。
それもそうだ。第一、艦隊の規模が違う。単純な戦力比では、ラサイド連邦が負けている。
それを補うための超出力レーザー光線砲であったのだ。
しかし破壊された今、起死回生の手段がなくなった。
そんな中、ドレイク率いる爆撃隊が接近しつつある。
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