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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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104/130

第104話 加速

 再び爆撃隊が前進する。

 爆装せずに出撃する爆撃隊には、ある種の奇妙な空気が流れていた。


『変な感覚ですね、ドレイク大尉。まるで訓練をしているみたいだ』

「だが重要な任務だ。しっかり努めるように」

『もちろんですよ』


 そんなことを言っているうちに、爆撃隊の速度はマッハ5を超える。

 すると、ドレイクの爆撃手兼航海士が少しソワソワしだす。


「大尉、現在のままだと艦隊の重力ターンの時間に間に合わなくなります」

「今のままだと、か?」

「えぇ。ですが、今の加速度を1.8倍にすれば間に合います」

「だが、今の状況でもエンジンの出力いっぱいだ。これ以上負荷をかけると破損しかねない」

「しかし大尉、ほかに方法がありません」


 ドレイクは少し考え込む。


「……一瞬だけ。一瞬だけエンジンの出力を今の5倍で出すのはどうだ?」

「5倍、ですか?そんな負荷をかけたらエンジンに何が起きるか分かりませんよ」

「だができるだろ?」

「……えぇ、できます。スペック上では問題ないです」


 宙間航行用航空機には、宙域離脱用の瞬間加速装置が装備されている。緊急離脱するなど、瞬間的に加速を要する場合に用いるのだ。

 この出力は、自由に設定することができる。例えば5km/s^2、60秒や、10km/s^2、30秒などだ。

 この爆撃機のエンジンのスペック上、100km/s^2までの加速を行うことができる。

 しかし、ここまで加速すると人体に影響が出てしまう。

 人間が耐えられるのは8~9G程度。つまり90km/s^2前後で失神なり気絶なりする。

 最大で12G耐えられるとも言われているが、少なくとも気軽にかけていい加速度ではない。

 それに宇宙空間では、ガスの燃焼で得られる加速は意外と小さい。作用反作用の影響だ。

 最大加速度までの推力を得るには、もはや爆発と同等の燃焼が必要である。

 今ドレイクが提案しているのは、人間の限界に程近い78km/s^2で切り抜けようとしているのだ。


「仮にそれで加速としたとして、気絶しない保障はどこにもないんですよ?」

「分かっている。気絶したとしても、自動操縦装置があるから問題はない」

「そのあとの任務の話をしているんですよ。そこまでに任務を遂行できる人間が起きているかが問題なんです」


 爆撃手が必死にドレイクのことを説得する。

 だが、ドレイクの意思は固いようだ。


「時間がない。やるなら早めのほうがいい」


 あくまでドレイクは冷静である。

 ドレイクの固い意思に折れたのか、爆撃手は頭を激しく掻く。


「分かりました!分かりましたよもう!」


 そういって爆撃手は通信機を取る。


「各機に告ぐ。加速度78km/s^2の12秒で加速を行え。繰り返す、75km/s^2の12秒で加速を行え」


 その反応に難色を示すものも多くいたが、ドレイクが仲介することで事なきを得た。

 そして実際に加速が行われる。


「加速開始まで、あと10秒……」

「各機、気を強く持てよ」

「3、2、1、開始!」


 その瞬間、機体と体に相当な力が加わる。

 想像以上の強烈な加速が、問答無用に牙をむく。


「ぐ、ぉ……」


 もはや声はおろか、呼吸もまともにできない。

 これによって、爆撃手は気絶した。

 しかし、ドレイクはギリギリの所で耐える。

 そして加速が終了した。


「うぅ……。返事できる奴はいるか?」


 ドレイクは通信機を使って呼びかける。


『こちら第1029爆撃隊隊長機、数名気絶したままだ。かくいう自分も頭痛がする』

『第1031爆撃隊、こちらも何人か失神している。自動操縦装置は働いている』

「他の隊は……、まぁ、いい。ついてこれる奴だけ来い。今は時間との勝負だ」


 そういって操縦桿を微妙に倒して、機体を動かす。

 そして、超出力レーザー光線砲に接近する。

 そのころ、ラサイド連邦艦隊は、第599任務部隊の出方について協議が行われていた。


「奴ら、こいつを破壊しようとしているのは明白だ」


 こいつとは、超出力レーザー光線砲のことである。


「しかし逃がし弁が破壊されたことで、制御が効かない状態です。先ほども申しましたが、修理しようにも放出されている熱エネルギーで近づくこともままなりません」

「その影響で、艦隊に被害が出ています。この中でまともに動けるのは、当初の予定の6割になります」

「被害が出すぎじゃないのか?もう少し何とかならなかったのか?」

「逃がし弁を破壊されたのは想定外です。想定外が重なった結果です。もうどうしようもありません」

「もういい!言い訳は聞きたくない。とにかく打開策だ。誰かこの状況を好転させる作戦を思いつく奴はいないか!?」


 しかし誰も答えを言わない。

 それもそうだ。第一、艦隊の規模が違う。単純な戦力比では、ラサイド連邦が負けている。

 それを補うための超出力レーザー光線砲であったのだ。

 しかし破壊された今、起死回生の手段がなくなった。

 そんな中、ドレイク率いる爆撃隊が接近しつつある。

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