プランAとプランB
オレたち4柱と7人のパーティ。
ザ・ストーム・エクスプロアは第五階層の攻略を開始した。
(50m先にオークが10匹っす。)
「了解です。プランAを開始します。」
シロの索敵報告にルカが指示を出す。
オレはアイテムボックスからゴーグルとマスクを取り出し、みんなに手渡した。
みんなはゴーグルとマスクを装備しはじめた。
オレはシロに、シロ専用のゴーグルとマスクを装備してやった。
これで全員、ゴーグルとマスクを装備した。オーケー。
オレはシロにマッサージする。
よーしよしよし。
わしゃわしゃわしゃ。
(ほふぅ。…じゃあ連れてくるっす。)
ああ、頼む。
たまがオインク、クルマニー、ポピー、ラビィ、ググリ、キア、ガーベラの7人に、
ほーりーぷろてくしょんをかけた。
ルカが同様に7人にオブスキュアプロテクションをかけた。
これで神4柱を除く7人はぼんやりとしか見えなくなった。
オレもガーベラを除く6人に【隠形】のルーンを刻んだ。
これで6人は15分間限定の透明人間だ。
ガーベラは透明人間になるのは怖いと言うので、ぼんやりした状態でとどめた。
まだ幼いので自己認識能力が未発達なのかもしれない。
何といってもまだ子供。理解できる。
オレとルカがガーベラをオークの視界からカバーすればいい。
オークたちが来る方向から見れば、シロ、ルカ、たま、オレの4柱だけが見えるだろう。
シロはあっという間にオーク10匹を牽引してきた。
シロはシュタッとルカの隣に位置する。
ルカはアイテムボックスチートで武器と防具を収納し、白いドレスに着替えた。
たまはルカの頭の近くでふよふよしている。
オレたち4柱は降臨エフェクトを有効にした。
「アシストの女神降臨」
「子供の神降臨」
「ペットの神降臨」
「風呂と掃除とロボットと発酵と医療とマッサージの神降臨」
まばゆい光がオレたちから放たれる。
オーク10匹はオレたち4柱を神と理解できるだろうか。
白いドレスを着て光背を放つ女神を襲うなら、それは人ではない。
オーク10匹は迷うことなくオレたちに襲い掛かってきた。
…残念だ。
(ほーりーぷろてくしょん!)
たまが神4柱に防御魔法をかけた。
オレはアイテムボックスから唐辛子の粉が入った袋を取り出して、
オーク10匹の方向にぶん投げた。
袋は破れ、唐辛子の粉が舞う。
(((((ウインドストーム!)))))
オインク、ラビィ、ググリ、キア、ガーベラの5人が
風魔法を使う。唐辛子の粉がオークたちを襲った。
唐辛子はオレたちの鉄板だ。
ふごっ!
ぶふぅ!
口、鼻、目に入った唐辛子による激痛でオークたちはのたうち回る。
((((ミニマイズドフロストスパイク2!)))
((((ミニマイズドフロストスパイク2!)))
オレ、シロ、クルマニー、ポピーによる連続した氷魔法により、
ダンジョンの床には無数の小さな氷の刃が生まれた。
のたうち回るオークたちの多くは、鎧がフル装備ではないため、
露出した肌に小さな切り傷が無数に刻まれる。
唐辛子が傷口に触れ、更なる激痛がオークたちを襲った。
オークはOTL状態でうずくまり激痛に耐えている。
(ヒール!)
(キュア!)
しばらくしてルカとたまが回復魔法でオークたちを回復した。
ルカとたまは未だに聖なる光を放っている。
激痛から解放されたオークは安堵したようでルカとたまを見た。
白いドレス姿のルカは優しく微笑み、
オークたちに手を差し伸べるかのように、大きく手を広げた。
その姿にオレは慈愛と神性を感じた。
オレは、オークたちの目の奥を観察する。
そこには憤怒の色が見えた。
ふごっ!ふごっ!
ぶふぅー!ぶふぅ!
激昂し始めるオークたち。
…残念。
オレはアイテムボックスから唐辛子の粉が入った袋を取り出して投げつけ、
再びオークたちの周りに唐辛子の粉をぶちまける。
(((((((ウインドストーム!)))))))
再び唐辛子の粉がオークたちを襲い、オークたちは激痛にのたうち回った。
そして再びOTL。
(ヒール!)
(キュア!)
ルカとたまが回復する。
激痛から解放されてオークは再び安堵した。
慈愛と神性を放つルカ。
安堵から憤怒に変化するオークたち。
容赦なく唐辛子の粉をぶちまけるオレ。
激痛でOTLするオークたち。
その繰り返した。
安堵と憤怒と激痛の繰り返しによって、
オークたちの脳神経回路に大きなスパイクが生じ、
オークたちの脳は大きく揺さぶられた。
オークたちは泡を吹いて失神した。
シロと透明人間状態のオインクが飛行魔法フライでオークに近づく。
シロがOTLしたオークたちの腹を蹴飛ばしてゴロンと転がし、仰向けにする。
オインクがオークの顔を確認していく。
オインクが首を左右に振った。
10匹とも父親ではない。
シロがオークの首、手首、足首の大動脈をホーリーレーザークローで浅く切り裂いた。
オークの大動脈5箇所から血が噴き出す。オークの活〆(いけじめ)だ。
首も手首も足首も切り落とされてはいない。
噴き出した血はダンジョンの床の氷の刃に触れ、ゆっくり凍ってピンク色になってゆく。
シロは獲物の保管庫にオーク10匹の遺体を収納した。
シロはシュタッとオレの隣に戻る。
オレはシロをマッサージ。
よーしよしよし。
わしゃわしゃわしゃ。
オインクもフライで飛行し、オレの隣に着地した。
オレはピンク色の氷に対して氷魔法を発動する。
(ブリザード!)
(フロストスパイク!)
オレはピンク色の氷を完全に凍らせ、アイテムボックスに収納した。
ダンジョンの床は、元の状態よりもきれいになった。
・・・
5人組パーティは物陰からウノたちの戦いを観察していた。
(慈愛の女神。しかし、その仲間は残酷ということなのでしょうか…。)
(ふむ…。確かに唐辛子で激痛を与えるとは、残酷かもしれませんな。)
(苦痛を与えずに即死させたほうが慈悲深いんじゃないかのう…。)
(オーク相手に慈愛も残酷も卑怯も慈悲もないわ。殺すだけよ。)
フルフェイスヘルムの戦士は無言だ。
・・・
(40m先にオークが20匹っす。)
「了解です。プランBを開始します。」
シロの索敵報告にルカが指示を出す。
シロがダンジョンの床にオーク10匹の遺体を取り出した。
プランBは、オークの遺体をオークへ返却するプランだ。
シロは牽引に向かう。
オレはオーク10匹の傍に土魔法で石製の祭壇を作った。
祭壇は凸型をしている。
みんなが祭壇の後方に隠れた。
これでオークの視界から見えることは無い。
シロがオーク20匹を連れてきたタイミングで、
白いドレス姿のルカが祭壇上に立った。
たまはルカのそばでふよふよする。
そして降臨エフェクトを有効にした。
「アシストの女神降臨」
「子供の神降臨」
まばゆい光が2柱から放たれる。神の光背だ。
祭壇の下にはオーク10匹の遺体。活〆にされており血は見えない。
オーク20匹はルカとたまが神だと理解できるだろうか?
オークの遺体の返却と理解できるだろうか。
…残念。
オーク20匹は雄たけびを上げ、武器を振り回しながら近づいてきた。
ルカとたまを神と理解しているようには見えない。
ルカとたまはホーリープロテクションで自らを守りつつ、
祭壇の後方に移動し、オレたちと合流した。
オレは、アイテムボックスから多数の四角い穴が開いた石壁を取り出した。
石牢の仕切りといった感じで見通すことが出来る。
仕切りにより、オレたちとオークたちは隔てられた。
祭壇上で憤怒するオーク20匹。
その足元には仲間のオーク10匹の遺体がある。
石牢の仕切りを挟んで、オレたちとオークたちは対峙する。
オーク20匹は、仲間の遺体をどうするだろうか?
出来れば、仲間を埋葬するために遺体を持ち帰ってほしい。
…残念。
オーク20匹は祭壇上でオークの遺体を切り分け、食べ始めた。
そこには一切の躊躇も葛藤も感じられない。
いくら腹が減っていたとしても、躊躇なく仲間を共喰いするのは人ではない。
獣の所業だ。
オレはガーベラがその光景を見ないように抱き締める。
ルカがオレごとガーベラを抱きしめた。
ググリ、キア。頼む。
(スポア!)
ググリが真菌魔法スポア(胞子)を発動した。
真菌すなわちカビの仲間は胞子をばらまくことによって増殖することが出来る。
ググリがばらまく胞子はカレー風味がする。
少量ならばスパイスのようなもので身体に害は無い。
しかし大量に吸い込めば、咳とくしゃみで苦しむことになる。
オーク20匹は、カレー風味のググリの胞子によって食欲が増進したらしい。
仲間の遺体を食べるのに夢中だ。
既にオレたちの事は頭から消えている。
その様子をオインクは石牢の仕切りから凝視する。
オインクが首を左右に振った。
父親はいない。
ぶふぉっくし!
ぐふぉ!ぐふぉ!
オークたちの咳とくしゃみが頻繁になってきた。
(フェミナイズ!)
キアが細菌魔法フェミナイズ(女体化)を発動した。
細菌ボルバキアは節足動物、主に昆虫と共生し、
生殖に関して幾つかの効果をもたらす。
その一つとして性転換がある。
細菌魔法フェミナイズは、節足動物に限らず、15分間だけ女体化することが出来る。
まったく恐ろしい魔法だ。
いや…素晴らしい魔法だ。
あのぅ…キア。
艦船は女体化できるんですかね?
艦船って何でありんすかって?
船のことだよ。
オレたちが乗ってきた飛空艇のファルコン号あるだろ?
ああいうやつで、水の上に浮かぶ船。
生物以外に性別はありんせんって?
そうだよね。ちょっとふざけました。ごめんなさい。
…ごほん。
女体化したオーク20匹は食欲が満足したらしい。
仲間の遺体は胃袋の中に消えた。
1匹の女体化したオークの目がギラリと光った。
隣にいる女体化したオークに襲い掛かった。
どういうことだ?
このオークたちは自己認識が未発達なのか?
己がメスになっていることに気づいていない。
襲われた方のメスは死に物狂いで逃れようとする。
これではメスvs.メスだぞ。
一対一の戦いは、いつの間にかバトルロイヤル状態になった。
次々と死ぬメスたち。
バトルロイヤルで生き残ったメス3匹は、ゼイゼイと肩で息をしている。
戦闘で生き残ることが出来たという興奮。
その興奮が冷めていく様子をオレたちは観察する。
メス3匹は違和感を持ったようだ。
己がメスに変化していることにようやく気づいたらしい。
…なるほど。
オレはあらためて気づいた。
自己認識には鏡が最も有効であり、
鏡を用いずに自己を認識することは人でも難しい。
人ならぬオークならば、なおの事難しいだろう。
メス3匹を石牢のような仕切りの穴からオインクが狙う。
パパパッ。
パパパッ。
パパパッ。
オインクはストーンバレットマシンガンでメス3匹の頭部を撃ち抜いた。
見事なヘッドショットだ。
・・・
物陰からウノたちの戦いを観察していた5人組パーティ。
ドワーフとエルフは目を背けた。
「なんじゃい、これは。凄惨すぎるじゃろう。」
「オエッ、気持ち悪い…。」
「ふむ…。オークたちがですか?それとも神たちがですか?」
竜人族はエルフに問う。
「どっちもよ!どっちもヒドいし、どっちも気持ち悪い!」
「そうですか?私は、神様は神様らしいと思いましたけれども。」
白いローブの童顔女性は首を傾げた。
「なんでよ!あれだけ強いなら、さっさとオークを殺せばいいじゃない!」
エルフは声を荒げた。
「いいえ。思い出してください。
ちっこいノームの神ウノ様は、こう言っていました。
ゴブリンは小鬼族として、人として見なせるかもしれない。
ゴブリンは邪悪なのか、オレは確かめたい、と。」
白いローブの童顔女性は静かに否定した。
エルフは童顔女性に詰め寄った。
「ねえ。そもそも邪悪って何?教えてよ!」
「私の主観100%では、女神を襲う存在は邪悪です。
共喰いをしたり、仲間同士で殺し合う存在は邪悪です。」
「…ふぅん。じゃあ、さっさと殺すだけよね。」
「先ほどのオークも今回のオークも、神様は仲間になりえるかを確認し、
その結果として、仲間になりえないと判断したから殺したのでしょう。
おそらく神は、ゴブリンに対しても同様に確認するのでしょう。」
「仲間になりそうか、わざわざ確認してから殺すってこと?」
「ええ。そう思います。」
「…意味がわからない。時間の無駄よ。」
「そうでしょうか?」
「いい?オークもゴブリンも、邪悪な種族なの!昔からそう決まっているの!」
エルフは早口でまくしたてた。そしてチラリとドワーフを見る。
ドワーフは眉をひそめつつも、エルフに同意するように強く頷いた。
その様子に、白いローブの童顔女性は困ったように苦笑いした。
竜人族は腕を組む。彼は目を瞑っており、その表情は読み取れない。
フルフェイスヘルムの戦士は強く拳を握り締めた。
ギリリと大きな音がした。
4人はその音に気づいて、言い争うことをやめ、
引き続きウノたちの様子を見守ることにした。




