秘策P
オレたちはダンジョンで第五階層を攻略している。
シロが偵察から戻ってきた。
(200m先にオークが300匹、キング1匹、ジェネラル2匹っす。)
「了解。本日の帰還まで時間がありません。秘策Pを実行します。」
シロの索敵報告を受けてルカが指示を出した。
…わかった。
秘策Pはオレの担当だ。
何日後にダンジョンを再攻略する想定だい?
5日後までなら可能だぞ。
「3日後を想定します。1日余裕を見て、4日でお願いします。」
ルカは真剣な表情でオレの目をまっすぐ見つめる。
了解だ。
今回は高さ20mの女神像を設置する予定だ。
女神像の設置場所はシロが決めてくれ。
どの部屋の、どの壁にするかを決めてほしい。
(了解っす。んじゃ探してくるっす。)
シロはすぐに部屋を飛び出した。
・・・
よし。
それじゃあシロが設置場所を探している間に
女神像を作り始めるぞ。
(ダブルマキシマイズドストーンオブジェクト!)
オレは土魔法で高さ20mの女神像を造形する。
台座が3mで女神の身長は17m。
イメージは前回のオーク攻略プランAの時のルカだ。
その10倍スケール。
ドレス姿の慈愛の女神は手を差し伸べるように両手を広げる。
オレは丁寧かつ高速に造形する。
魔法の女神イースに土魔法の造形で負けたくない。いい勝負をしたい。
それに今回の女神像のモデルはオレの妻であるルカだ。
オレとしては自然と本気が出る。
…よーし。
女神像はこれでいい。美しい。
オレがルカをチラリと見ると、ルカは微笑んでいた。
悪くないということだろう。
次は女神像の背面にくっつける「自動給餌機」を作ろう。
(マキシマイズドストーンオブジェクト!)
オレはシンプルな四角い箱を造形した。
大タルを最大5個収納可能なスペースがある。
(クリエイトゴーレム!)
オレは四角い自動給餌機をゴーレム化した。
女神像をゴーレム化したわけじゃないぞ。
そこんところ注意ね。
…ごほん。
自動給餌機ゴーレムへの命令は1日1回大タルを排出するという単純明快な内容。
オレは女神像の台座に大タルの排出口を作り、自動給餌機と一体化した。
なんというか、ガチャみたいな感じだ。
そこにシロが戻ってきた。
(女神像の設置場所を決めたっす。)
了解だ。
こっちも準備オーケー。
オレは完成した「女神像一体型自動給餌機」をアイテムボックスに収納し、
シロの背中に乗る。
設置場所まで連れていってくれ。悪いね。
(うっす。行くっす。)
シロはオレを乗せて高速疾走する。
・・・
シロが決めたダンジョン部屋の壁面に、
オレは女神像一体型自動給餌機を設置した。
オレはアイテムボックスから大タルを4個取り出した。
大タル4個に【発酵】のルーンを刻む。
アイテムボックスチートで、殻付きの落花生を大タルに詰めた。
この殻付き落花生がオークたちの餌となる。
密閉するように大タルにフタをし、
アイテムボックスチートで大タル内の落花生に少量の真菌を加えた。
これは、おまじない。
というか、呪い。
オレが加えた真菌はアスペルギルス・フラブス。
こいつは強力な毒素を持つカビだ。
少量のカビ入りの大タル4個を女神像一体型自動給餌機に補給した。
これでオーケー。
オレは更にアイテムボックスから大タルを1個取り出し、
排出口の近くに立てて設置した。
アイテムボックスチートで殻付き落花生を大タルに山盛りで入れた。
これは見せ餌。
だからフタはしない。
よーし。
残った時間で女神像を補強しよう。
一体型自動給餌機が破壊されないように繊維と樹脂で補強だ。
(オートクラフトメニュー!)
オレは飛行魔法フライで飛行し、空中から作業する。
(ファイバーコントロール!)
(リグニフィケーション!)
オレは蜘蛛糸とシュードアルア樹脂で女神像を補強した。
そして台座と自動給餌機も補強した。
撤収時間ギリギリまで補強した。
…。
(そろそろ撤収するっす。)
オーケー。
オレはシロの背中に乗る。
みんなが待つ部屋に戻ろう。
(うーっす。お疲れ様っす。)
・・・
オレとシロはみんなが待つ部屋に戻った。
そうだ。
念のため、あの5人組パーティに伝えておこう。
シュタッ!
オレは、オレたちを観察していた5人組パーティの傍に縮地で移動した。
「「「「うわっ!」」」」
すぐ傍に突然現れたオレに驚く5人組パーティ。
あ。
驚かせてごめん。
あのさ。
ここから250mくらい先にオーク300匹がいる。
オークキング1匹とオークジェネラル2匹が率いている。
ここから先に進むのは危険だ。
オレたちはこの300匹のオーク退治の作戦として、
現在オークたちがいる部屋とは別の部屋に、トラップとなる女神像を設置した。
女神像には殻付き落花生が入った大タルが出る仕掛けがある。
大タルに入っている殻付き落花生は決して食べないでくれ。
カビの毒で汚染されているから。
カビているからヤバいと気づくだろうけど一応知らせておく。
じゃあ、ゴブリン退治、頑張ってくれよな。
5人組パーティは微妙に頷いたような、頷かないような、硬直した感じだった。
「ウノ!そろそろ帰還ですよ。」
ルカ、わかった。
オレはルカの傍に縮地した。
ほんの少しの後、女神アイアが空間転移で現れた。
ナイスタイミング。
「皆さん、揃っていますね?」
オーケー。
揃ってる。オレたちはみな頷いた。
女神アイアは、空間ごとくるりと反転した。
次の瞬間、オレたちのパーティは全員、カムナビ温泉の玄関に帰還した。
ただいま。
さてさてさーて。
腹が減ったね。
温泉に入ったら食事だ。
みんなをマッサージして、グッスリ眠ろう。
・・・
ダンジョン第五階層に残された5人組パーティは話し合っている。
「一瞬で新たな女神が現れたと思ったら、みんな消えてしまったわい。」
「空間魔法かしら?」
「…空間魔法。…まさに神の御業です。」
「直前に我々の傍に現れたちっこい神ウノも空間魔法を使えるようでしたな。」
「相手は神でしょ。なんだってアリよ。」
「そういえば、ちっこい神は淡々とした感じで、驚かせてごめん、と言っておったのう。」
「私たちが覗いていたのを知っていたということですよね。」
「…怒っている感じじゃなかったから、大丈夫でしょ。親切な感じだったわ。」
「神からの警告の内容も気になりますな。」
「カビているから、落花生を食べるなと警告しておったのう。」
「ねえ…。トラップの女神像を確認してみない?」
「駄目です!この先にオーク300匹がいるという話でした。危険です!」
「ふむ…。この辺で我々も第一階層に戻るのが良いでしょうな。」
「…それもそうね。戻りましょ。」
フルフェイスヘルムの戦士は無言で頷いた。
5人組パーティは転送門に向かい、第一階層に戻る。
彼らの目的は第二階層でのゴブリン退治だ。
明日のゴブリン退治に向け、わいわいと話し合う5人組パーティであった。
・・・
秘策P。
Pは落花生を意味する。
カビの一種、真菌のアスペルギルス・フラブスは
アフラトキシンB1およびアフラトキシンB2という毒素を作る。
アフラトキシンが毒性物質として知られるようになったのは、
1960年にイギリスで発生した七面鳥の大量死事件「ターキーX」がきっかけだ。
人間がアフラトキシンB1を摂取した場合、
急性中毒症状として黄疸になる。
肝臓の細胞が破壊されて黄色の色素ビリルビンが血液中に増えることで、
肌が黄色くなる。それが黄疸だ。
他に倦怠感、痒み、不眠などの症状が出る。
人間がアフラトキシンB1を慢性的に摂取した場合、肝臓癌になる。
アフラトキシンB1の発がん性は強い。
そして、アフラトキシンB1は加熱しても毒性を失わないのが特徴だ。
真菌のアスペルギルス属はありふれたカビであり、
アスペルギルス・フラブスを根絶することは不可能だ。
カビた食品は食べないという衛生観念を持っていない限り、
危険な存在と言えるだろう。
ではアスペルギルス・フラブスおよびアフラトキシンに対して
どのような食品に注意すればいいのか?
注意すべきは落花生、アーモンド、ピスタチオなどのナッツ類だ。
ナッツ類は微量のアフラトキシンを含んでいて当然と考えられており、
微量ならばアフラトキシンを許容せざるを得ない。
理想はアフラトキシン・ゼロなのだろうが、実現できないのが現実だ。
ナッツ類の輸出と輸入に関しては、
各国でアフラトキシン含有量の安全基準を設けて、
人体に影響を与えないレベルであることを確認することになっている。
それほど努力してナッツ類を食べている。
それくらいナッツ類は食品として重要だ。
そして残念ながら21世紀になっても、
輸入したナッツ類に含まれるアフラトキシンが
安全基準を超えていて問題になるケースが複数回発生している。
・・・
秘策Pはオレの発案だ。
第五階層の攻略会議で真菌義人ググリから真菌魔法という
未知の魔法体系を教えてもらった。
その際、下級魔法フンギを使えばあらゆる真菌を入手できると知った。
下級魔法フンギは木魔法の初級魔法キュアリーフと似たコンセプト。
キュアリーフが完全なガチャで運任せであるのに対し、
フンギは自分で真菌を選べるので初級魔法より格上の下級魔法となっている。
真菌に関する知識が必要となるのが欠点だが、
元々真菌であるググリにとっては何の問題も無かった。
オレはググリにアスペルギルス・フラブスの入手をお願いし、
すぐに手に入れることが出来た。
微生物学の知識チートだ。
オーケーググリ!
やったぜググリ。
秘策Pでは殻付き落花生を入れた大タルに【発酵】ルーンを刻んである。
この【発酵】ルーンチートがあれば、通常の1800倍の速度で増殖する。
1日あればアフラトキシンまみれで間違いなしだ。
毒にまみれた殻付き落花生をオークたちに1日につき大タル1個給餌する。
300匹のオークたちが落花生を分配して食べた場合、どうなるだろう?
オークキングとオークジェネラルの3匹が落花生を独占した場合はどうなるだろう?
もしかして、オークたちには執事的な役目が存在したりして?
執事が落花生の殻を剥いてくれて、オークキングやオークジェネラルが
落花生の中身だけザザザーッと一気に食べるなんてことがあったりして?
発案者のオレにも分からない。
秘策Pはどんな結果になるか不明だ。
できればオークキングとオークジェネラルには黄疸になってもらいたい。
そう言えば、1つだけ確実に言えることがある。
オレたちはノープロブレム。
アスペルギルス・フラブスは神聖魔法ディスインフェクションで殺菌可能だ。
アフラトキシンは回復魔法キュアで解毒可能だ。
このことはオレがちゃちゃっと確認済みだ。
回復役は、オレ、ルカ、たまの3柱がいるから万全だし、
僧侶のオインクもいる。
やっぱり時代は状態異常攻撃だよな。
…オレは卑怯だ。
卑怯で結構。
正々堂々と戦えばオレは弱い。




