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デスマッチからはじまる賭博昇神録カイジ6

(…今日、もう1つの目標が叶うっ。勝つっ!勝って恩返しするっ!)

ぶるぶるぶるぶる…。

プロレス団体カムナビに所属するプロレスラー、

勝カイジは感動にうち震えていた。

これで終わりではない。

更なる感動があるはずだ。

カイジにとっては疑う余地がない。

これまでの興業で、ライバルチームであるシンセリティおよび

悪魔専務トネガーとの戦績は30戦12勝18敗である。

ちょっと前まで12戦12敗の最弱レスラーだったカイジ。

次のデスマッチの相手は、とうとう念願の相手。

伝説の悪玉、悪魔会長ヒョードを引っ張り出すことに成功した。

ヒョードはトネガーの上役にあたる悪玉ヒールの覆面レスラーであり、

相手が弱かろうがグロッキーだろうが、

勝つまで攻め続ける冷酷無比なレスラーだ。

冷酷で残虐。まるで氷で覆われた死の大地、氷土。

それでヒョードと呼ばれている。

反則は一切しない。

ルール内での勝利に執着する職人レスラーの極限である。

鬼族において、ヒョードは玄人肌のプロレスファンに絶大な人気がある。

ちなみにユカリ先輩は悪魔会長ヒョードに憧れてプロレスラーを志した。

冷酷無比、残虐、悪魔会長は単なるキャッチフレーズに過ぎない。

・・・

覆面レスラー悪魔会長ヒョード。

その成り立ちは約10年前に遡る。

オーガの里(つい先週までは鬼族ではなくオーガと呼んでいた)に

新興宗教を名乗る集団が現れた。

その名は「八星聖教オクタグラム」。

オクタグラムはオーガの里でしつこく勧誘を繰り返す。

いわく。

「オクタグラムに入れば幸運が舞い込む。」

「オクタグラムに入れば異性にモテモテ。」

「オクタグラムに入ればお通じがスッキリ。」

「オクタグラムに入れば髪の毛がフサフサ。」

そんな怪しげな勧誘を、サクラ(やらせ)にやらせて教徒を増やしていた。

オクタグラムの八百長的な所業に耐えかねた3人のプロレスラー。

そのうち2人はマスクマン。

後の悪魔会長ヒョードと悪魔専務トネガーである。

顔を晒していた1人は豊臣。

豊臣は10年経った現在は超一流の実況者となっている。

若き日のマスクマン2人と豊臣はオクタグラムの教祖と幹部を退治すべく、

教団の事務所に赴いた。

1人のマスクマンいわく。

「オクタグラムを退治すれば不運になるのだろ?」

「オクタグラムを退治すれば異性から嫌われるのだろ?」

もう1人のマスクマンいわく。

「オクタグラムを退治すれば便秘に悩むんだろ?」

「オクタグラムを退治すれば髪の毛が抜けるんだろ?」

豊臣いわく。

「プーッ。こちとら、そんな程度の呪いじゃ屁も出ねえぜ。」

豊臣は2人のマスクマンからアウツ!と訂正された。

「…。そんな程度、屁でもねえぜ。オタクグラムとやら。」

またも2人のマスクマンからアウツ!と訂正された。

「…。宗教オタクの皆々様におかれましては。」

…。

教団の事務所でプロレスラー3人は暴れまわる。

1人のマスクマンが投網式原爆固め(フィッシャーマンズスープレックス)。

素人相手に大人げない。

玄人は川で漁をしたらいいよ。

豊臣に殴りかかってきたオクタグラム幹部。

豊臣は飛びつき逆十字をかける。

素人の肘を一瞬で破壊。サルか?

キックしてきた相手にはドラゴンスクリューで膝を破壊。サルか?

1人のマスクマンの得意技は墓石落とし(ツームストンパイルドライバー)。

素人が脳天から床に突き刺さる。

素人がよくぞ死なずに済んだものだ。ひえーっ。ひえひえだー。

オクタグラムの教祖と幹部がいた事務所は、異様な光景となった。

床に突き立つ足の数16本。

胴体で言えば8本。まるで墓石だ。

後に「犬神家八つ墓村コラボ」と恐れられる光景である。

…。

こうして信仰宗教集団オクタグラムは壊滅し、

1人のマスクマンは悪魔専務トネガー、

1人のマスクマンは悪魔会長ヒョードと呼ばれるようになった。

マスクマン2人はプロレス団体の覆面レスラーとして拍手喝采と共に登場した。

元々プロレスラーだから興業的に美味しい話だったのだ。

いちおう言っておくが徳川と織田ではない。いちおう。

禁忌タブーである。

・・・

DEATHMATCH or DEATH。

カイジ専用の顔まで覆う黒いローブの白い刺繍だ。

覆面姿のちっこい子供に導かれるカイジ。

その後ろには坂本リョウ、西郷ドン、高杉シン。

頼れるセコンド陣が並ぶ。

「ガーイージィーッ!」

「キャーッ!カッコイイーッ!カイジーッ!ステキーッ!」

男性ファンの野太い声援と女性ファンの黄色い声援を背にリングイン。

カイジが黒いローブを脱いだ。ローブはちっこい子供が持つ。

会場に詰めかけた大勢のファンから声援を受けるカイジ。

シュッとちっこい子供はローブと共に消えた。

カイジは四角いリング上で観客席を見回した。

観客たちはカイジに対し手を振っている。

ありがたい…。ありがたい…。

カイジのハートは暖かい。

対戦相手の悪魔会長ヒョードの大ファンであるカイジ。

このリングに立って、また1つの目標が叶った。

・・・

ヒョードとトネガーは2人でリングイン。

リングの状態を確認したトネガーはリングから出てセコンドにつく。

土方はリングサイドで待機。

トネガーの後ろで勉強するつもりでいる。

いちおうリングに傾きが無いかを入念にチェック。問題なし。

乾いたタオル、濡れたタオル、メガホン。水も用意した。

実力的にはヒョード>カイジであり、順当にヒョードが勝つ。

土方はそう信じている。必死に信じる。必死だ。

・・・

実況席。

「今日の実況はワタクシ豊臣。レフェリーはシズさん。解説はなんと!」

「どうも。アタシです。」

「ユカリ先輩にお越しいただきました~!!ぱふぱふぱふ~!」

「アタシなんかじゃ力不足だろうけど、頑張る。」

「!!!…ずっきゅ~ん。」

「…大丈夫か?豊臣…?」

「…このままだとノックダウンされそうなので一旦落ち着きます。」

「…頼む。」

「今日のデスマッチルールは、原点回帰に近い片目隠しデスマッチです。」

「初期のデスマッチルールは目隠しだったな。」

「ユカリ先輩。目隠しと片目隠しの違いはどうなりますか?」

「遠近感が失われる。視野が狭くなる。」

「ほうほう。片目と言えばカムナビにも隻眼レスラーがいます。」

「そうだ。伊達マサと戦っていれば、その経験が活きる。」

・・・

ちっこい人物が数十枚に及ぶ木板に記したデスマッチルールは多岐にわたる。

その中からヒョードとトネガーが、これぞ!と選んだルール。

それが片目隠しである。

これまでのカイジの対戦相手は、自分本位に有利不利を判断していた。

それが大きな間違いの元なのだと考えた。

有利不利は損得の発想。そんなものはプロレスラーらしくない。

あまり極端ではないフラットなルールの元で、普通に戦う。

準備不要。強者ならば自然と弱者に勝つ。

前回カイジがトネガーに勝ったのはマグレ当たり(フロック)だ。

ファン感謝祭というファン目線のデスマッチルールが災いしたに過ぎない。

そう結論した。もちろんルールは絶対に守る。

・・・

レフェリーのシズは心を落ち着ける。

公正な審判とは何か?

弱者を守る事か?違う。

強者の強さが損なわれないように配慮する事か?違う。

シズは前回のファン感謝祭で解説を務めた。

解説するのが初めてだったせいで舞い上がり、

織田レフェリーのゆっくりカウントに気づかなかった。

周りからは、それが絶妙だったとの意見もあったのだが、

解説としてはダメダメだったとシズ自身は反省している。

今回はレフェリー。

冷静にロジカルに判断する。そうシズは決意した。

身近にいるアシストの女神ルカのように。

そして気づく。

やはり、以前の自分とは違う。

ある日突然、自分自身の心のありようが変わった。

それから毎日、少しずつ少しずつ変化が続いている。

認知症もといアルツハイマー病だった時とは世界の見え方が全く違う。

すべてが灰色の世界から色鮮やかな世界へ変化した。

世界が変化したのか、自分が変化したのか。

…。これ以上の思考は雑念。

冷静にロジカルに判断する。それだけ。

シズはカッと目を見開いた。

・・・

カイジとヒョードがリング上に立ち、ケンカ四つで組み合った。

カイジにとって有利な組み合い。

第一試合開始。

カーン!

カイジがヒョードを首投げ。

ヒョードはダーン!と派手な受け身。ダメージはゼロ。

カイジがヒョードを脇固め。ヒョードは前転して脱出。

それはカイジも想定通り。クルリと腕ひしぎ十字固めに移行。

もちろんヒョードも想定の範囲内。

鍛え上げた腹筋と腕力を使って力づくで立ち上がった。

空中に浮かぶカイジ。

素人目から見れば飛びつき逆十字に見えるかもしれない。

だが腕関節の向きが違う。腕の捻りが違う。

カイジは腕を捩じって関節を極めようとするがビクともしない。

ヒョードの腕力は全盛期と遜色がない。

これでは絶対に極める事は出来ないとカイジは腕を捩じるのを諦め、

スタッとリングに降りた。

間髪いれずヒョードはラリアット。

ここでのラリアットは打撃技ではなく投げ技と見なされる。

足を使わない大外刈り扱いだ。

ヒュッとしゃがみ込こんでラリアットを躱すカイジ。

不発に終わったことでヒョードの視界からカイジが消えた。

カイジはヒョードの背後からフルネルソン。

そしてそのままスープレックス。

フルネルソンスープレックス、通称ドラゴンスープレックスだ。

カイジはホールドにこだわらず、

腕ひしぎ十字固めに移行しようとする。

それは困るとヒョードが背筋を使って飛び起きようとする。

すべてカイジの狙い通り。

着地直前のヒョードの足に自分の足を絡めてヒョードをうつ伏せに倒し、

STF(ステップオーバートーホールドウィズフェイスロック)。

ヒョードはカイジのねちっこい技に絡めとられた。

・・・

「今日のカイジ選手は、伊達マサ選手ばりにネチネチと攻めています。」

「伊達選手は隻眼のハンデをものともせず、密着技に活路を見出したんだ。」

「そういえば、ユカリ先輩がカイジ選手を指導したという噂があります。」

「真剣勝負しただけで指導したつもりはない。」

「クーッ!カイジ選手が羨ましい!ワタクシも密着技で真剣勝負したい!」

「STFしたまま首の骨をへし折るぞ?」

「…豊臣!逝けま~すっ!昇~竜~天ッ!」

(ガスッ!)

ユカリ先輩の掌底が豊臣の顎先をかすめ、

豊臣の首がありえない角度になった。

ハッとして、ユカリ先輩は豊臣の首の角度を元に戻す。

シュルシュルと白いヘビ型ゴーレムが近づき、

豊臣にヒールをかけた。そしてキュア。

実況席はノープロブレム。

・・・

ねちっこい密着技は、ちっこい子供がカイジにたいして半ば強制したものだ。

トネガーのネチネチネチネチした攻めに感銘を受けたちっこい子供。

密着技をねちっこくしたらどうかと思い立った。

カイジにあの手この手で、ねちっこく寝技の鍛錬を勧めるちっこい子供。

シズさんの寝技を真似してみないか?

次はモモカから寝技を吸収してみないか?

ユカリ先輩と寝技で真剣勝負してみたらどうだ?

その次は伊達マサ…。

そんな感じでカイジを誘惑した。

カイジはヘトヘトになりながらも充実した密着技の鍛錬をこなした。

名著「バイタル柔道<寝技編>」もかくやとばかりに、

従来の鬼族の立ち技から寝技へ移行するというセオリーから脱して、

あらゆる体勢から関節を極めるべく、継続的に相手の体勢をコントロールする。

体勢のみならず、相手の思考までもコントロールするのだ。

これは柔術的発想である。

関節破壊者土方が関節の「極」に集中するのに対し、

カイジは密着度を高めて「続」の流れを重視する。

カイジのラッキースケベ的な気持ち、もとい

もっともっと練習したいという気持ちがカイジ流柔術として昇華した。

こういった相手をコントロールするという発想は、

悪魔会長ヒョードも悪魔専務トネガーも持っていなかった。

冷酷無比、極悪非道、残虐、悪魔。

これらはすべてキャッチフレーズでしかなく実態が無い。

鬼族は善良なのだ。

・・・

第一試合はカイジの勝利。

決まり手はドラゴンスクリューからリバースインディアンデスロック、

そしてアキレス腱固めの3コンボ。

カイジの徹底した膝関節とアキレス腱狙いが功を奏し、

ヒョードがギブアップした。

直後に白いヘビがヒールで全快。ノープロブレム。

第二試合はヒョードの圧勝。

決まり手はツームストンパイルドライバーからのパワーボム。

からのジャイアントスイング、そしてフィギュアフォーレッグロックの4コンボ。

カイジが失神したためシズが両手をクロス。カイジの失神負け。

直後に白いヘビがヒールで全快。ノープロブレム。

第三試合はカイジの辛勝。

一進一退の攻防が続く中、カイジがヒョードをコブラツイスト。

そこからローリング「グーウール」クレイドル。

「グーウール!」

「グーウール!」

観客がカイジと一体となって熱狂する。

カイジはリング上をぐーるぐる。

喰鬼グーウールカイジの真骨頂である。

そこからの体固め。

カイジのピンフォール勝ちで試合は幕を閉じた。

・・・

「勝ー者ー!カーッツ!カーイージィー!」

レフェリーのシズが、ヒョードとカイジの手首を掴み、カイジの腕を上げた。

観客たちは熱狂する。

「カーイージッ!」

「グーウールッ!」

「カーイージッ!」

「グーウールッ!」

シュルシュルと白いヘビ型ゴーレムが近づき、

カイジとヒョードにヒールをかけた。そしてキュア。

鬼族のプロレスラーは試合で関節が全壊しても、すぐ全快だ。

鬼族のプロレスラー団体カムナビの興業は、いつも大成功だ。

デスマッチからはじまったサクセスストーリー。

鬼族きっての大人気プロレスラー喰鬼グーウールカイジは不死の象徴。

戦績が33戦14勝19敗でしかないにも関わらず、神のように崇拝されるカイジ。

カイジが昇神するのは3か月後か、それとも半年後か。

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