安易な決断
鬼族の里から30分ほどの場所にある株式会社カムナビ温泉。
この世界におけるナンバーワンのホワイト企業だ。
オレたち神々のホーム。
神界序列3位の職人の神ガンテツと妻である鬼族のシズさんが筆頭株主で、
全株式の40%を保有している。
その他の株主は次の通り。
前支配人でありシズさんの息子である鬼族のセボスが10%。
支配人であるホビットのクルマニーが10%。
副支配人であるホビットのポピーが10%。
シズさんの弟子である鬼族のモモカが10%。
シズさんの弟子である鬼族のユカリ先輩が10%。
オレの弟子である鬼族のセイヤが10%。
・・・
ある日の夕食後、オレはみんなにダダ漏れで話しかけた。
結婚式以降、この温泉地にセボスがいなくなってオレは寂しい。
セボスはシズさんの息子で執事の神を目指す真面目でいい奴だ。
オレとしては一番弟子だと思っている。
だけど、今は温泉地に住んでいない。
セボスはビジネスの神ステラと結婚してから、
世界各地をステラと共に飛び回っている。
それでさ。
この株式会社カムナビ温泉の株式の10%がセボス名義になっているだろ?
なぜ10%の株式を与えているか。
この温泉地を開くようにってのはステラの指示だったじゃん。
セボスとステラは夫婦だろ?
だからビジネスの神ステラへのショバ代みたいな感じ。(嘘)
ビジネスの神に敵視されないようにWIN-WIN的な。(嘘)
それで株式の10%をセボス名義にしているんだ。
「ウノ。少し嘘があることがダダ漏れています。」
ルカがお茶をすすり、冷静にオレにダメを出した。
ごめん。
…。
わかった。ズバリ本心を言おう。
オレはビジネスの神ステラとセボスが結婚したからと言って、
セボスと疎遠になるのがイヤなんだ。
セボスをオレの一番弟子として繋ぎとめたい。
オレは本心からそう思っている。
「ならばステラを超越し、神界序列2位になるのが良いじゃろう。」
ガンテツがもしゃもしゃの黒い髭を掴んでは伸ばし、
掴んでは伸ばししながら、自分の言葉に満足げに頷いた。
ぐっ。それってキツい。
キツすぎるぞ、師匠。
(…一歩一歩、目の前に集中するんじゃ。
さすれば、いつの間にか超えとるはずじゃ。
そしてワシもステラも、女神アイアをも超えるんじゃ。)
ガンテツが笑顔でブツブツ何か言っている。
声が小さすぎてオレには聞き取れなかった。
モモカとユカリ先輩が肘で小突き合っている。
モモカが口を開いた。
「私がウノ先生の二番弟子でございます。」
「アタシはウノの三番弟子だな。」
モモカ、ユカリ先輩。
ありがとう。嬉しいよ。
「俺はウノさんの四番弟子だな。」
セイヤが笑顔で言った。
ありがとう。ま。そうだろうな。頼むぜ。
「僕がウノ神様の五番弟子です。」
新規参入の豚頭族の少年オインクは神妙な表情で言った。
なお、オインク。
とりあえずウノ神様って呼び方はやめようぜ?
「みんな、ワシの孫弟子じゃ。ガハハハ。
ウノ。もっともっと弟子を増やせい。ガハハハ。」
ガンテツが豪快に笑った。
シズさんが微笑む。
「モモカとユカリがウノ先生の弟子であること、私も誇りに思います。」
ん?アレ?えーと?
シズさん、細かい話なんだけどね。
モモカとユカリ先輩はオレの弟子というよりはさ、
まず女子プロレスラーとしての本分があるだろ。
だからさっきのやり取りも冗談みたいなもんでさ。
本質的にはオレの弟子というより、シズさんの弟子だと思っているんだけど…。
シズさんがジト目でオレを睨んだ。
「ウノ先生は、モモカとユカリを弟子にすることに不満をお持ちですか?」
いいえ。
まったく不満はありません。
はい。オレの弟子です。ありがとうございます。
「オラたちはウノの弟子だか?」
「弟子になったつもりはねえなぁ…。」
クルマニーとポピーはオレの弟子じゃないぞ。
安心してくれ。
「アタイはシロ様の弟子でーす!」
(うっす。オイラはラビィの師匠になるっす。頑張るっす。)
シロはラビィの師匠になることをオッケーしたんだ。
「私は、ウノ先生の弟子になろうかな…?」
ヒナタさんが、ご家族と顔を見合わせている。
いやいや…、ヒナタさんはシズさんの親友なんですから。
今のままでいいんですよ。
・・・
オレは話題を変えた。
オレ、ルカ、たま、ガーベラ、シロ、セイヤ、ラビィ、オインク。
この4柱と4人で高速飛空艇ファルコン号に乗り、
世界各地を旅するつもりでいるんだ。
オレは、宇宙に飛び出す前に、この世界をもっと知りたいんだ。
でもさ。
最初に行くのは人間の街のダンジョンかな。
オインクの父親が、そのダンジョンの中にいるかもしれないんだ。
だからダンジョンにオインクの父親を探しに行きたい。
「え?良いのですか?!」
オインクが目を丸くして驚いている。
うん。妥当なところだろ。
オレとしてはダンジョン管理者になった人工知能アインの事も心配なんだ。
久しぶりにダンジョンに潜ろうぜ。オレたちと一緒に。
「アタシもダンジョンに行きたい!」
「私も行きたいのでございます!」
うーん…。
うーん…?
ユカリ先輩とモモカの気持ちはわかるけど、
2人はプロレスラーとしての本分があってさ。プロレスの興業もあるしさ。
なにより食堂と温泉合宿所の人手不足が心配なんだ。
「それでも…アタシは行きたい!」
「私も同じ気持ちでございます!」
とりあえず、2人の気持ちはわかった。
前向きに考える。
ゆっくり相談して決めよう。
・・・
オレはモモカとユカリ先輩の願いを聞き入れ、
4柱と6人でダンジョンに向かった。
ファルコン号は素晴らしいスピードでダンジョンに到着した。
さすがファルコン号。まあ、8時間かかったけどな。
それでもジュールベルヌより随分速い。
作って良かったぜ。
オレたちはダンジョンに突入する。
いつものようにシロをリーダーにし、
風の疾走スキルでダンジョンを走り抜ける。
モンスターと遭遇したらサクッとオーバーキルする。
オーバーキルボーナスで経験値を荒稼ぎだ。
モモカ、ユカリ先輩、セイヤはレベル30超えだったからさ。
ダンジョン第五階層までは超楽勝だった。
第五階層のオークを相手にするときだけは慎重に。
オインクに父親かそうじゃないかをチェックしてもらう。
それが目的でダンジョンに入っているんだからな。
今回、一番大事なことだ。
ダンジョン攻略は極めて順調だった。
我が子ガーベラ、モモカ、ユカリ先輩、セイヤ、
ラビィ、オインクは恐るべき勢いでレベルアップし、
どんどん強くなった。
オレたちは有頂天になった。
ダンジョン内の迷宮別荘に長期滞在し、
経験値稼ぎしまくって、レベルアップしまくった。
今はもう、モモカとユカリ先輩とセイヤがレベル90。
ラビィとオインクがレベル85。ガーベラはレベル80。
オレの弟子たちと我が子が強くなってオレは誇らしい。
オーバーキルボーナスって最高だよね。
やったぜ。
そしてとうとう今日。
オレたちはダンジョン第九階層にいるドラゴンを攻略することに成功した。
オレとルカは人生で2回目のドラゴン攻略成功。
経験値が大量ゲットできてレベルが上がりまくったし、
ドラゴン素材もゲットできてホクホクだぜ。
オレたちは第十階層に入った。
案の定、オレの迷宮の主は人工知能アインだった。
オレは久しぶりに会うアインと近況報告しあった。
アインはダンジョンの運営に苦労しているが、
やりがいがあって楽しいとのことだった。
オレは安心した。
もしかしてもう少しでアインは迷宮の神に昇神できるんじゃないか?
そう言ったらアインは喜んでいた。
いっぽう、オインクの父親の捜索は無駄足に終わった。
オレたちは悔しがるオインクをなだめて、
ひさしぶりにカムナビ温泉に帰還した。
帰りのファルコン号も素晴らしいスピードだった。
やっぱり8時間かかったけどな。
そしてカムナビ温泉に到着。
あら?
あららら?
カムナビ温泉の様子がおかしい。
随分とさびれているぞ。
どうしたんだろう?
カムナビ温泉で働くシズさんとヒナタさん、
ヒナタさんのご家族2人は疲弊しきっていた。
クルマニーとポピーはどうしたんだろ?
え?
えええ?
辞めた?
モモカとユカリ先輩が2人いなくなったことで
一気に仕事量が増えて労働環境が悪化したため、
支配人クルマニーと副支配人ポピーが辞めてしまった?
株式などいらないって言って、
株式会社カムナビ温泉に見切りをつけたぁ?
ガーン!
しまった。
そもそもホビットは旅を好む種族。
ある程度、金があるのなら働く必要が無いのだ。
そうか…。
オレはホビットの考えを理解できていなかった。
株式会社カムナビ温泉は、
クルマニーとポピーがいなくなったことで更に労働力が低下し、
ブラック企業となってしまっていた。
だからみんなが疲弊し、業績は下がり、さびれていたのか。
この温泉地に住む神々はどうしていたんだろう?
ガンテツ、ミラ、イース、アルファ、ルーシィは彼らなりに
温泉の仕事を手伝ったらしい。
だが掃除や洗濯といった仕事に向いておらず、
かえって仕事を増やすばかりで、足を引っ張ってしまったそうだ。
それで、仕事を手伝うという申し出を、
シズさんが丁重に断ったそうだ。
ミラとイースとルーシィとアルファは居心地が悪くなり、
神界で暮らすようになっていた。
そのためにみんなの関係性もギクシャクしてしまった。
プロレス団体カムナビに所属する
シンセリティ、イノベーターズ、戦国御三家、傾奇御三家の
プロレスラーたち同様だった。
練習生用宿泊所がゴミ屋敷みたいになっていただろう?
彼らは掃除や洗濯といったこと興味が無く、
だから仕事に向いていなかった。
向いていない仕事をイヤイヤながら手伝わされ、
プロレスの練習の時間を取られ、技のキレは落ち、
レスラーとしての人気も落ち、プロレス団体の興業も失敗が続いた。
けっきょく、多くのレスラーがプロレス団体カムナビを
辞めてしまっていた。
オレは優先順位を見誤った。
カムナビ温泉とプロレス団体カムナビをないがしろにしてしまったんだ。
なんてこった…。
オレは頭を抱えた。
【バッドエンド】
・・・
ぶるるるっ。
いかーん!これはいかーん。
オレはバッドエンドを希望しない。
となるとモモカとユカリ先輩の要望は聞き入れられない。
これは仕方ない。
こればっかりは仕方ないんだ。
オレはモモカとユカリ先輩の願いを聞き入れず、
4柱と4人でダンジョンに向かうことにした。
4柱とはオレ、ルカ、たま、シロ。
4人とはガーベラ、セイヤ、ラビィ、オインクだ。
よーし。これで安心だろう。
モモカとユカリ先輩はきちんと仕事とプロレスを両立してくれるはずだ。
…。
しかし人の心というのは難しい。
結局、ダンジョンから戻ってきたオレは頭を抱えることになった。
モモカとユカリ先輩は急速に仕事のやる気を無くした。
一緒に暮らしていたセイヤがいなくなったことで、
ポッカリと心に穴が開いてしまったのだ。
2人は食堂と温泉合宿所の仕事に精彩を欠くようになり、
プロレスの練習にも身が入らず、毎日、ため息をつくばかり。
何もかもうまくいかず、ダメダメと言うのが口癖になった。
自分がダメだから上手くいかない。
やる気が出ない。その理由はダメダメだから。
どうにも手の打ちようがない。理由はダメダメだから。
モモカとユカリ先輩の2人が同時に、
仕事が出来なくなったせいで、
一気にホビット2人の仕事が増え、しわ寄せがいってしまった。
支配人クルマニーと副支配人ポピーは辞めてしまった。
株式会社カムナビ温泉に見切りをつけたのだ。
クルマニーとポピーは少し旅行に出かけると言って、
二度と戻らなかったという。
ホビットにとってはある程度、金があるのなら働く必要が無い。
ホビットに継続的に仕事をしてもらうには、
カムナビ温泉で仕事するのが楽しい!
旅するのと同じくらい楽しい!
と思って貰う必要があるのかもしれない。
オレはホビットの考えを理解できていなかった。
オレはミスった…。
そうしてカムナビ温泉はさびれてしまい、
プロレス団体も大きく人気を落としてしまったということだ。
【バッドエンド】
・・・
ぶるるるっ。
このルートも駄目だ。なんてこった。
八方ふさがりか?
となると…。
「オレがファルコン号に乗らず、温泉地に残りましょう。」
セイヤ…。
なるほど。
それならばモモカもユカリ先輩もやる気を無くさない可能性が高い。
ありがとう。
恩に着る。セイヤ。
助かったぜ。
…。
オレの隣で聴いていたルカは首をひねった。
「ウノ。安易な決断ではないですか?焦る必要はありません。
誰も犠牲にすることなく、みんなが良いと思う方法があるはずです。
私もたまもガーベラもシロも一緒に考えます。もう少し考えましょう?」
ルカはオレを慰めるような優しい声だ。
そうか…。ルカ。
オレは焦っていたか?
「ええ。私にはそう見えました。」
たしかにオレは今、セイヤの提案に飛びついた。
よく考えずに、安易に決断しようとしていた。
ふーむ…。
さすがルカだぜ。さすがアシストの女神。
冷静にロジカルに判断して、アドバイスしてくれる。
オレはオインクに謝る。ぬか喜びさせてしまったことを謝る。
オインクの父親捜しは、少しだけゆっくりした仕事になるだろう。
それはオレからオインクに了解を取ろう。
いろいろ準備を整えて、みんなが安心できるようにしよう。
ありがとう。ルカ。
助かったよ。




