デスマッチからはじまる賭博昇神録カイジ5
(…今日、目標が1つ叶うっ。ならば勝つっ!そのまま勝つっ!)
ぶるぶるぶるぶる…。
プロレス団体カムナビに所属するプロレスラー、
勝カイジは武者震いしていた。
これまでの興業で、ライバルチームであるシンセリティと
戦った戦績は27戦10勝17敗である。
ちょっと前まで12戦12敗の最弱レスラーだったカイジ。
次のデスマッチの相手はなんと伝説の悪玉、悪魔専務トネガー。
トネガーは悪玉の覆面レスラーであり、
相手の弱点をネチネチネチネチ、ネチネチネチネチと、
極めてしつこく攻め続ける極悪非道なレスラーだ。
反則は一切しない。
冷徹な職人レスラーと言える。
トネガーは玄人肌のファンに絶大な人気がある。
だから今でもファンから愛されているのだ。
つまるところ、極悪非道とは単なるキャッチフレーズに過ぎない。
・・・
今回の興業は、プロレスラー団体カムナビのファン感謝祭と銘打っている。
感謝祭という趣向によりトネガーの電撃復帰が実現したのだ。
カイジとトネガーのデスマッチルールは、
10分間3本勝負情報漏洩デスマッチである。
ちっこい人物が数十枚に及ぶ木板に記したデスマッチルールは多岐にわたる。
その中からトネガーファン達が、これぞ!と選んだのだ。
覆面レスラーのトネガーにとって、
嬉し恥ずかしの内容であることは間違いない。
・・・
「今日の実況はワタクシ豊臣、レフェリーは織田、解説はなんと!」
「シズです。今日はよろしくお願いします。うふふふ。」
「いやぁー。シズさんに来ていただけるとは、感謝感激です。」
「ちょっと恥ずかしいですね…。」
「シズさんは大丈夫。いつもの解説者はヒドいんですから。ホント。」
「うふふふ…。徳川さんは素敵な方ですよ?ああ見えて。」
「…。シズさんの誉め言葉は徳川には勿体ないので、ルール解説にしましょう。」
「あらら。…今日のデスマッチルールは10分3本勝負情報漏洩デスマッチですね。」
「10分3本勝負はわかります。情報漏洩というのは何でしょう?」
「先日、私とヒナタさんでインタビューした内容を暴露しちゃいます。」
「つまりトネガー選手とカイジ選手の秘密を暴露するわけですか!」
「そうなんです。実はヒナタさんは嘘を見抜くスキルの持ち主なんです!」
「おっとーっ!なんと今日は謎に包まれたトネガー選手の秘密が暴かれるーっ!」
「そうなんですっ!トネガー選手のファンは絶対に見逃せませんよ!」
「まったく予想外のデスマッチルールです!」
・・・
DEATHMATCH or DEATH。
カイジ専用の顔まで覆う黒いローブには白い刺繍がされている。
カイジはいつも通り、覆面姿のちっこい子供に導かれている。
カイジの後ろには坂本リョウ、西郷ドン。頼れるセコンド陣だ。
「カイジーッ!」
「キャーッ!勝ってぇー!カイジーッ!キャーッ!」
ファンの熱い声援と黄色い声援を背にリングインした。
カイジが黒いローブを脱ぐ。
ファンから大きな声援を受けるカイジ。
ローブはちっこい子供が受け取った。
いつものようにシュッとちっこい子供はローブと共に消えた。
カイジは四角いリング上で天を仰ぎ見る。
対戦相手のトネガーの大ファンであるカイジ。
今、1つの目標が叶った。
・・・
トネガーは1人でリングイン。
本来ならば悪魔会長ヒョードがセコンドにつくべきなのだが、
ヒョードにも都合がある。忙しい身分なのだ。
そのため今日のセコンドはシンセリティの土方。
土方はトネガーの期待に応えるべく、
リングに傾きが無いかを入念にチェック。問題なし。
乾いたタオル以外に濡れたタオルも用意した。水も用意した。
実力的にはトネガー>カイジであり、順当にトネガーが勝つ。
土方はそう確信している。
・・・
カイジとトネガーがリング上に立ち、相四つで組み合った。
第一試合開始。
カーン!
トネガーがカイジの背後にバックスタンド。
完全に縮地としか思えぬ鮮やかさにファンが歓声を上げる。
「すっげーっ!」
「これが現役復帰の初戦だぞっ!」
カイジはトネガーを振り払おうとエルボーしつつ振り返った。
トネガーはそれを予測していた。少し腰を落として待ち構えていた。
八極拳の里門頂肘の型。
カイジのみぞおちにトネガーの肘が突き刺さる。
カイジの自爆である。
このような自爆誘発のエルボーは、
鬼族にとっては闇夜に咲く白い花の美と捉えられている。
「ぐわっ!」
想定外の大きな打撃ダメージにひるんだカイジはたたらを踏んだ。
トネガーはすかさず組み合い、フィッシャーマンズスープレックスホールド。
「ワン!ツー!ス…。」
カイジは、なんとかツーカウントでホールドから脱出。
この後もトネガーが熟練の技量を見せつける。
その技のキレ味に観客は魅了されていった。
そしてカイジもまたトネガーと戦えていることに歓喜した。
・・・
「トネガー選手は技のキレ味が素晴らしいですね。本当に凄いです!」
「けっこうネチネチした攻めですけどね…。」
「技にキレがあり、そこで終わらずネチネチががいいんです。うふふふ。」
「…。そうですか。それでは秘密の暴露、情報漏洩も始めていきましょう。」
「…もう。デスマッチルールですから仕方ありませんね。うふふ…。」
「ではまずトネガー選手の秘密からお願いします。」
「トネガー選手の最近の悩みについて。」
「ほう…。悩み…。あの男に悩みなんてあるのでしょうか?」
「髪の毛だそうです。かつての悩みは抜け毛の量だったそうなのですが…。」
「プププッ…。抜け毛の量。確かに…。それで今は…?」
「今は少しずつ髪の毛が戻ってきているとのことで、
ヘアスタイルをどうするか悩んでいる。そういうお話でした。うふふふふ。」
「自慢かーい!」
「ヒナタさんに、ヘアスタイルをどうすれば似合うか相談したかったのでしょうね。」
「マスクマンなら髪の毛は関係ないんですけどね…。」
「日常生活ではマスクを脱いでいますから。」
「まあ、そうですね…。はぁ…心底どうでもいい…。」
・・・
トネガーは試合の序盤は危なげなかったが、
実況で自分のことを話しているとなると気が散って仕方なかった。
そのスキをカイジは見逃さない。
着実にトネガーを投げ、極め、絞める。
攻撃を受けるたびにトネガーは、これではいかん!と
気持ちを引き締めるのだが、解説は憧れのシズさん。
トネガーにとってのマドンナはヒナタさんではなくシズさんなのだ。
先日、シズさんはガンテツと再婚したので、
トネガーは傷心中だ。
それでも多少は未練があるのだ。それが鬼族の男なのだ。
だからトネガーはシズさんの声がする一瞬だけは、
技に精彩を欠いてしまうのだ。
・・・
「次はトネガー選手の好きなものについて。」
「ほう…。好きなもの…。あの男の好きなものなんてゲテものでしょう?」
「うふふ…。私が作る料理ということでした…。私はもう、それが嬉しくて嬉しくて…。」
シズさんは頬を赤らめ首を左右にフルフルする。まるで少女のような仕草だ。
豊臣はドキッとする。可愛い…。
「…ごほん。分かります。すごーく。私もシズさんが大好きです!」
「ありがとうございます!私の料理を喜んでもらえて嬉しいです!」
豊臣の突然の告白は、華麗にスルーされた。
・・・
「ッ!あの野郎~!」
トネガーは実況席の豊臣が、突然シズさんに告白したことに驚いた。
大きなスキがトネガーに生まれる。
ちなみにカイジは実況の声は一切気にならない。
右から左へ受け流すだけだ。
トネガーのスキをついてバックから足を取り、十八番。
リバースインディアンデスロックをかける。
「はっ!」
「「「はっ!」」」」
もはや観客と一体になっての気功のポーズ。
観客席は大盛り上がりだ。
トネガーはうつ伏せで悶絶。
「ギブアップ?」
「ノー!!!!」
織田レフェリーの問いにトネガーは否定する。
この後、前傾姿勢へのポーズ替えまで、お約束の展開が続くのだ。
・・・
「次はカイジ選手の秘密について。」
「ほう。秘密ですか…。」
「DEATHMATCH or DEATHの由来について聞きました。」
「あの謎の刺繍ですね。気になります。」
「カイジ選手は12戦12敗の時に、人生の崖っぷちだったと考えたそうです。」
「…確かに崖っぷちでしたね。弱すぎて。」
「その時に生きるか死ぬかを覚悟して、それでも勝ちたいと叫んだそうです。」
「ふーむ。勝ちたいと叫んだ…。」
「そこに現れた謎の人物の提案に乗っかって、
人生をかけたギャンブルを始めた。そういうお話でした。」
「人生をかけたギャンブル…。デスマッチ無くば死あるのみ、ですか。」
豊臣は、謎の人物についても質問したに違いないと考えた。
謎の人物とは誰でしょう?その質問を頭の中に用意した。
「それを聞いて私はもう感激しちゃって。カイジ選手を大好きになりましたっ!」
「ッ!」
声を失う豊臣。
シズさんに先ほどの告白をスルーされた直後のカイジ大好き発言。
これで豊臣は完全に傷心。
頭の中に準備したはずの質問は完全に消えた。
そもそもシズさんはガンテツと結婚したばかり。
豊臣にせよトネガーにせよ、望みはゼロなのだが、
それでも鬼族の男はすぐには諦めきれない。
隣に好きな女性がいる。どうしたって未練があるのだ。
・・・
「ッ!この野郎~!」
トネガーは実況席のシズさんのカイジ大好き発言に驚いた。
対戦相手のカイジを睨む。
筋肉をパンプアップさせようと力んだ。
このとき、大きなスキがトネガーに生まれた。
ちなみにカイジには実況の声は一切聞こえていない。意識の外だ。
トネガーのパンプアップのスキをついてボディスラム。
立ち上がろうとするトネガーにもう一つの十八番。
コブラツイストのような体勢から後ろに倒れこむ。
ローリングクレイドル炸裂だ。
ぐるぐる…。ぐるぐる…。
「「「グール!グール!グール!グール!グール!」」」
観客席からの圧倒的グールコール。
ぐるぐる…。ぐるぐる…。
観客のコールに合わせてカイジとトネガーはリングを回転する。
・・・
「次はトネガー選手が尊敬する人物について聞きました。」
「…。はあ。別にトネガーに興味はありませんけどね…。」
「まあ、そんな事言わずにちょっと聞いてください。」
「……はぁ。」
豊臣の声は小さい。
「お2人いるとのことです。1人は織田レフェリー。
いつも公正な審判をしていて尊敬できるとのことでしたっ!」
「……はぁ。」
「私もそう思います!私は織田レフェリーを尊敬していますっ!」
「……へえー。」
・・・
リング内でレフェリーをしていた織田。
実況席から自分の話題が出たことに動揺した。
しかも憧れのシズさんからの尊敬発言。
動揺しないわけがない。
(嬉しい。非常に嬉しい。)
心の中でガッツポーズする織田レフェリー。
(あれ?)
(カイジのローリングクレイドルって何秒目だっけ?)
織田はそう気づく。
織田は完全にカウントを忘れてしまった。
織田の痛恨のミス。
(観客と実況席にバレないようにリカバリーしよう。)
(幸いにも観客席のファン達はグールコールに夢中だ。)
(単に無気力試合でないと判断するためだけの無言のカウント。)
(試合が盛り上がっているのなら問題ない。)
(とりあえず10カウントから再開しよう。)
(テーーン!イレーブーン!トゥーエールーブ!)
織田であっても完璧ではない。
観客は今「グーウール」と叫んでいる。
「「「グーウール!グーウール!グーウール!グーウール!」」」
カウントがゆっくりになってしまうのは避けられなかった。
トネガーは無限とも思えるぐるぐる地獄を味わう。
一方、トネガーのセコンドの土方。
カウントがリセットされ、
しかもゆっくりになっていることに気づいている。
バンバン!バンバン!とリングを叩くのだが、
織田レフェリーは気づいてくれない。
観客の「グーウール」のコールが凄くて届かないのだ。
土方は迷う。
ここで土方がリングに飛び込めば、
トネガーの反則負けがありうる。
土方はギリッと唇を噛んだ。
・・・
「トネガーさんが尊敬する人がもう1人いるとのことで、
なんと、もう1人は豊臣さん。あなたですっ!
実況で自分のダメな解説をリカバリーしてくれるから
尊敬しているとのことでしたっ!」
「…。は?」
「そうなんです!私もそう思います!
豊臣さんは超一流の実況者なんですっ!私も尊敬してますっ!」
「……ええ?ええええええ?」
いきなり、憧れのシズさんからの超一流のお墨付き。
豊臣は天にも昇る気持ちだった。
もはやリングを見る気がしない。
隣にいるシズさんを見つめ続けたい。
そう思う豊臣。
織田レフェリーのゆっくりカウントに気づくわけもない。
・・・
(ぎもぢわるい…。)
ぼんやりとした頭でトネガーは耐える。
尊敬する織田レフェリーならば公正な審判をしてくれるのだから…。
一方、一心不乱にローリングを続けていたカイジ。
さすがに疲労して自ら技を解除した。
なんと技をかけていた時間は3分に及んだ。
5分勝負ではありえないが、10分勝負なのだから普通なのだ。
沖田ソウヤ対策として鍛錬を積んだ無酸素運動。
その経験はトネガー相手でも光り輝いた。
トネガーはぐったりして立ち上がることが出来ない。
カイジは尊敬するトネガーを一方的に痛めつけようとは考えない。
トネガーはカイジのローリングクレイドルを甘んじて受け続けたのだ。
トネガーの目に光が戻るまでは待つと決めていた。
「ワーン!ツー!」
織田レフェリーはさすがに冷静になり、いつも通りにカウント開始。
30秒経っても目に光が戻らず、動けないトネガー。
トネガーの無気力負け。
無気力というかグロッキー負けである。
カイジの勝利。
「うぉおおおおっ!」
「きゃーっ!勝ったぁー!カイジが勝っちゃったーっ!きゃーっ!」
「カイジカッコイーイ!ステキー!しびれるーっ!」
カイジにも熱狂的な女性ファンがついている。
ミスター・ローリングクレイドル・カイジ。
「カーイージッ!」
「グーウールッ!」
「カーイージッ!」
「グーウールッ!」
今ここにDEATHの反語となる流行語
「グーウール」が誕生した。
絶望的な状況だが、あいつは死なない。
あいつは不死。きっと帰ってくる。
そんな使い方をする流行語だ。
・・・
トネガーとカイジの試合は一進一退。
ピンチからチャンス。からのピンチ。からのチャンス。
ネッチリムッチリモッチリジックリジンワリジットリ。
逆転に次ぐ逆転の試合展開。
試合結果はカイジの2勝1敗。
カイジは伝説の悪玉トネガー相手に大勝利だ。
観客は大満足。顔はツヤッツヤである。
これでカイジの戦績は30戦12勝18敗となった。
「カーイージッ!」
「グーウールッ!」
「カーイージッ!」
「グーウールッ!」
勝カイジ。カムナビグーウール・カイジ。
坂本リョウと西郷ドンがリングに上がりカイジの肩を叩く。
もはやイノベーターズの看板選手と言っていい。
カイジがリングから降りると、
待ってましたとばかりに熱狂的なファンたちに担ぎ上げられる。
ファンが着るハッピにはもちろん、DEATHMATCH or DEATH。
カイジのお神輿行列は、まるでDEATHMATCH or DEATHの川だ。
死の川ではなく不死の川である。
いつものようにカイジは両腕を上げてガッツポーズした。
「カーイージッ!」
「グーウールッ!」
「カーイージッ!」
「グーウールッ!」
鬼族のプロレスラー団体カムナビはファンに愛されている。
全てはデスマッチからはじまった。
カムナビのプロレスラー喰鬼のカイジは不死の象徴。
伝説の悪玉、悪魔会長ヒョードとの対決まで待ったなしだ。




