7話 会議
王城にある大会議室。
普段であれば国政に関する重要事項を話し合うために使われるこの場所には、現在、この国の主要な貴族や大臣たちがほぼ全員集まっている。
そして、その中心にいるのは…………。
「…………」
そう、俺である。
背後には二人の兵士が俺の様子を見張っており、一国の国王に対する対応とは思えないような酷い待遇だが、今はそんな贅沢を言っていられる場面ではない。
張り詰めた空気の中、俺が今回の事について話そうとする前に一人の貴族が口を開く。
「陛下、まず先に1つお伺いしたい」
そう言って口を開いたのは、王国北西部、セレス教皇国との交易路に面する領地を持つ伯爵、カブランだった。
表向きは長年王国に仕えてきた重臣の一人だが、裏ではセレス教皇国との繋がりが深く、度々便宜を図っているという噂の絶えない男でもある。
証拠こそ掴めてはいないが、俺としては限りなく黒に近い人物だと見ている。
「今回の件、他国との衝突が深まることは確実だとは思いますが、それに関しての責任は、陛下自身がおつもりで?」
「……責任?」
「えぁ、今回の鎖国は、陛下がほとんど独断で行われたものと認識しております」
カブランはそこで一度言葉を切り、周囲を見渡した。
「もしこの結果、他国との関係が修復不可能なまでに悪化し、我が国が深刻な損害を被った場合……当然、その責任を負う者が必要となりましょう」
その言葉に、静かだった大会議室は少しずつ話し合いをする者たちによってざわめきだす。
カブランが今やろうとしているのはまさしく責任をすべて俺に押し付け、俺を悪者に仕立て上げるということだろう。
今回の計画そのものについて議論する前に、まず俺一人に全ての責任を押し付ける形を作っておくことにより、俺が説明をしても、その説明が悪いものなのではないか、俺が説明をしてもその説明自体が信用に値しないものなのではないかと周囲に思わせるという狙いなのだろう。
流石の老練といったところだろうか、こういった駆け引きについては俺よりも遥かに上手だ。
「責任なら取るつもりだよ」
俺は少し間を置いた後、そう答える。
「今回の件は俺が独断で始めたことだ、失敗したのなら、その責任を負うのも俺で当然だろう、だが……」
「ほう……」
俺の返答を聞いたカブランは、俺の言葉に被せるように口を開く。
「流石は陛下、潔いお言葉ですが、陛下一人が責任を取ることで、全てが解決するのでしょうか?」
「……どういう意味だ?」
「簡単な話です」
カブランはゆっくりと椅子から立ち上がる。
「仮にこの鎖国によって各国との関係が悪化すれば、物価は上がり、民の生活は苦しくなり、国力は大きく低下するでしょう。そうなれば我が国を狙うものにとっては大きなチャンスとなり、我らは今まで以上に危険な立場に追い込まれるでしょう」
カブランは鋭い目つきを俺に向ける。
「その時、陛下が責任を取ったところで、失われた国力が戻るわけでも、命を失った民が生き返るわけでもありません。つまり、責任を取る取らないという問題ではないのです」
そう言って、カブランはゆっくりと周囲を見渡す。
「我々が考えるべきは、そもそもそのような事態を起こさないことではありませんかな?」
再び会議室がざわつき始める。
「確かに……」
「一理あるな」
「陛下のお考えにも何かあるのでしょうが……」
小声ではあるものの、そんな言葉が所々から聞こえてくる。
厄介だ、カブランが言っていることそのものは、完全な間違いではない。
外交関係が悪化すれば交易に影響が出るし、交易に影響が出れば、少なからず民の生活にも影響するというのは事実だ。
だからこそ、そこに自分に都合のいい話を混ぜても気付かれにくい。
「そこでです、これは私からの提案なのですが、ここは私を仲立ちとしてセレス教皇国と関係修復を図ってはいかがでしょうか」
「……関係修復?」
「ええ」
カブランは待っていましたと言わんばかりに頷く。
「幸いにも、私は以前よりセレス教皇国の方々とは多少の交流があります、私が間に入り事情を説明すれば、先方も今回の件について一定の理解を示してくださるでしょう」
カブランがそういうと、それに乗じ、他の他国との関係があるような噂のある貴族や、そういう噂のない貴族まで我先にと自分を仲立ちにして関係修復を図るべきとの声が上げ始めた。
まずいな、会議の流れが悪い方向に向かっている。
俺が説明を始める前にカブランがこの流れにしてしまったせいで、完全に流れは俺に不利なものになっている。
初めのうちはカブランと似た立場のものの声が目立っていたが、問題はそのあとだ。
「陛下、私も……一度各国との交渉を行うべきだと考えます」
「周辺諸国全てを敵に回すのは……」
そう声を上げたのはどこの国とも関係を持ってはいないが、王国派という訳でもない中立の貴族たちや、一部の王国派の貴族たちだ。
会議には流れというものがあり、少なくとも一つの目的を解決するために集まっている以上、流れが靡いた方に結果もついてくる。
そのため、俺の味方になりうる存在が俺に仇なす事になれば、この会議で俺の意見が通ることはない。
そんな俺の様子を見て、カブランが再び口を開く。
「ご覧の通りです」
その顔には、先ほどまで以上の余裕が浮かんでいる。
「ここにいる者たちも、決して陛下に逆らいたいわけではないのです。ただ、この国を思えばこそ、今回の決断を再考していただきたいと申し上げている」
「…………」
「まだ間に合います、私に任せてはくれませんか?」
カブランが俺に向かって手を差し出すような仕草をする。
その時だった。
大会議室の扉が勢いよく開かれる。
「失礼します!」
「何事だ!」
突然の乱入に、近くに座っていた貴族が声を荒らげる。
入ってきたのは一人の兵士だった。
相当急いできたのだろう、額には汗が浮かび、肩で激しく息をしている。
「も、申し訳ございません! ですが、緊急の報告が!」
「緊急?」
その一言で、騒がしかった大会議室が一瞬にして静まり返る。
「北西部より伝令です!」
北西部、その言葉を聞いた瞬間、カブランの表情が僅かに変わった。
自分の領地がある場所だから当然だろう。
「飛竜の群れが南下! 我が国へ向けて飛来したとの報告が入りました!」
「なっ……!」
「飛竜だと!?」
「数は!?」
「被害はどうなっている!?」
「確認されているだけで十数体! ですが……被害はありません!」
「……何?」
兵士の言葉に、会議室が再び静まり返る。
「飛竜たちは国境へ侵入しようとしましたが、陛下の展開された結界に阻まれ、一体たりとも国内へ侵入できておりません!」
「…………」
先ほどまで騒いでいた者たちが、一斉に口を閉ざす。
そんな中、ポトスがゆっくりと立ち上がった。
「皆様」
その一言だけで、全員の視線が集まる。
「どうやら陛下の行動が国を危険に晒すという話は、少なくとも今の報告を聞く限りでは少々違うようですね」
カブランが何か言おうとするが、ポトスはそれを許さない。
「まずは陛下のお話を聞きましょう、我々はまだ、その説明すらまともに聞いていないのですから」
完全に静まり返った会議室で、ようやく全員の視線が俺へと向けられた。




